本論文は「システム構造体における構法計画論」と題し、5章より成る。 第1章「序論」では本論文の背景及び目的を明らかにしている。具体的には、建築空間の構成方法の歴史的な変化を概括した後、現代において構造体をシステムとして捉えること、そしてそのシステムが互換性、普遍性、可変性を有するべきことを論じ、そうした要件を備えた「システム構造体」の構法計画の方法論を構築することが本論文の目的であることが述べられている。更に、そうしたシステム構造体の構法計画にとって重要な概念として「部品化建築」、「設計の原理」、「意志決定問題」の三つを取り上げ、既往の研究成果を吟味しながら、それらを本論文の主題にどの様に関連付けるべきかを論じている。 第2章「構法計画と意志決定」では、構法計画を(1)構法の開発、(2)構法の運用、(3)構法の選択の三つの段階に分けて捉えるべきことを述べた上で、構法の開発段階における意志決定法について論じている。先ず、現実の構法の開発が一般に曖昧領域における意志決定であり、情報処理的に「悪構造問題」の側面が強いことを指摘した上で、設計行為を設計対象の機能的要求と設計変数の間の写像関係を構築する行為と見なすN.P.スーの設計の原理を採用することで、これを良構造問題として扱う方法が示されている。そして次に、この写像関係の相関を論理的に実行する方法として、ベイズ行動、ファジー推論、ニューラルネットワーク、AHPの4つの方法を比較した上で、AHPが本論文の問題に最もふさわしい方法であるとして、これを本論文で適用することが述べられている。 第3章「開発と設計」では、システム構造体の代表的な例であるシステムトラスとシステムフレームの開発に、第2章で立案された構法の開発方法を適用し、その詳細な手続きを明らかにするとともに、有効性を検証している。具体的にはシステム構造体の構法開発の意思決定が、素材の選定、部材の選定、接合部の選定、接合機構の選定から成ることを示し、素材の選定を取り上げ、機能的要求項目を抽出し、複数の設計上の選択技の優劣をAHPにより評価する方法が示されている。そして、この適用の結果、機能的要求項目の階層構造を決定する方法を補う必要が確認され、その方法としてISM(構造化モデリング)を応用することが提案されている。本章の後半では、著者がシステム構造体として開発したシステムトラス「NSトラス」とシステムフレーム「NSBシステム」の開発経緯を述べた後、本章前半で構築した開発方法の適用性を論じている。 第4章「システムトラスの開発」では、システム構造体のうち大スパン建築を実現するためのシステムトラスの開発について、前章で述べた構法の開発方法の適用を前提とした検討を行い、更に開発された構法の運用法について「NSトラス」を例に詳細に論じている。具体的には、接合機構の選定に関して6種類の異なる代替案を提示し、設計上の機能的要求との対応関係の比較に基づき、一つの設計解に到着する経緯が明らかにされている。更にシステム構造体の構法開発の詳細が「NSトラス」を例にとる形で、ノードの設計、トラス部分の設計の順に各種の解析、実験結果の評価に基づきながら示されている。 第5章「結論」では、前章までに構築、検証された内容がシステム構造体の構法計画法としてまとめられている。 以上、本輪文は、今日の様々な社会的な要請に応える構造体の要件を整理した上で、その実現手法として「システム構造体」概念を提示し、それを具体化する構法計画の方法論を理論的に構築し、更にその適用性を実践的に立証したものであり、建築学の発展に寄与するところが大きいものと評価できる。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |