本研究は高精度創外固定器のピンクランプ変位検出装置を用い、骨折や骨延長によって形成される仮骨の粘弾性特性を、In Vivoにおいて測定する方法を新たに開発したものである。本研究論文は、本法の測定精度を評価する参考実験1および2の各項と、臨床例における治療中の仮骨の粘弾性特性を経時的に測定した結果を示す臨床例の測定の項から構成される。 1、参考実験1ではシリコンオイルとコイルスプリングから構成される粘弾性骨モデルを作製し、骨モデルを創外固定器を用いて固定して荷重試験を行った。骨モデルの粘弾性特性の理論値は単純フォークトモデルを用いて計算した。この理論値と荷重試験から得られた実験値を比較することによって、本法の測定精度を評価した。ピンクランプ変位検出装置の変位の測定値の誤差は8.3%であった。粘弾性特性については遅延時間を評価した。遅延時間の測定値の誤差は、シリコンオイルの動粘度が10000センチストークスの場合には14%、12500センチストークスの場合には13.6%であった。本測定法によってIn Vitroで仮骨の粘弾性特性が、遅延時間の形で定量的に評価できることが明らかとなった。 2、参考実験1は骨モデルが1次元のモデルであり、また荷重も骨軸に一致した単軸応力場のモデルであった。したがって骨に曲げモーメントが作用する力学環境下において本測定法の測定精度を検討する必要がある。そこで参考実験2では弾性骨モデルを用いて偏心荷重試験を行い、曲げモーメントの負荷のもとでの骨モデルの変位を測定した。参考実験1と同様に理論値と実験値を比較し測定精度を評価した。コイルスプリングのバネ定数が3.5Kgf/mmの場合には測定誤差は各荷重点での平均で31.5%であった。バネ定数が20Kgf/mmの場合は18.1%、バネ定数が32Kgf/mmの場合には10.9%であった。測定精度はバネ定数が大きいほど改善する傾向を示した。この結果から、仮骨の硬化が進行し剛性が大きくなる時期において、本測定法は十分臨床使用に耐えると考えられた。 3、臨床例の測定では、高精度創外固定器(Hifixator)を用いて治療を行った脛骨骨折および脛骨延長の患者を対象とした。治療経過による仮骨の粘弾性特性の推移を検討した。患者の足踏み動作の継続によって生ずる創外固定器のピンクランプの変位を測定した。これによって得られる時間-変位曲線を単純フォークトモデルを用いて近似的に解析した。解析結果から仮骨の力学特性の弾性成分、塑性成分、粘弾性に関する遅延時間を評価した。これらの各成分の経時的な推移を検討した。また各症例のX線像を読影し、画像所見と同時期の各成分の測定値とを比較対照し、骨癒合の評価法として両者を比較した。これによって本法がX線撮影による診断方法を補いうる補助診断法として臨床的有用性があるか検討した。変位の弾性成分、塑性成分、遅延時間は治療経過とともに減少した。塑性成分は最終的に消失した。遅延時間は測定初期に秒の単位の値であったが、最終的に0.1秒単位の値となった。骨折症例と延長症例において粘弾性特性の相異はなかったが、測定の初期においては延長仮骨で塑性成分の比が有意に大きかった。粉砕骨折や偽関節の症例において、X線像で骨癒合の進行を確認しがたい症例があった。また骨延長の症例のなかに仮骨の強度をX線像によって判定しがたい症例があった。これらの症例において粘弾性の測定値は経時的に減少し、骨癒合が進行したことを明らかに示した。 本法は仮骨の粘弾性特性をIn Vivoにおいて検出する新しい方法である。これまでの方法は全て弾性力学を基礎にしたものであり、粘弾性力学を基礎にした測定方法は考案されていない。したがって仮骨の粘弾性特性の評価を行い得る画期的方法である。また臨床においてもX線像を読影する画像診断法による仮骨の評価方法よりも感度が高い方法であることが判明した。したがって本法はX線撮影による診断法を補い得る補助診断法として臨床的有用性を持つ。 以上、高精度創外固定器のピンクランプ変位検出装置を用いた仮骨の粘弾性特性測定法は、これまで未知であった仮骨の粘弾性特性をIn Vivoで簡便に定量測定できる方法であり、また本法は骨癒合の補助診断法として臨床的有用性がある。このため本研究は学位の授与に値するものと考えられる。 |