学位論文要旨



No 213085
著者(漢字) 今野,晃市
著者(英字)
著者(カナ) コンノ,コウイチ
標題(和) 曲線メッシュモデリングのための自由曲面間の接続法に関する研究
標題(洋)
報告番号 213085
報告番号 乙13085
学位授与日 1996.12.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13085号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 木村,文彦
 東京大学 教授 大園,成夫
 東京大学 教授 森,正武
 東京大学 助教授 冨山,哲男
 東京大学 助教授 田浦,俊春
内容要旨

 本論文では,自由曲面形状を生成する上で重要な3つの課題を解決した曲面表現式と,これを用いた曲面間の接続,内挿法及び形状制御法について提案する.

 複雑な自由曲面形状を設計するための手法として,曲面の境界曲線を入力して曲線メッシュを生成し,境界で囲まれた領域を内挿する手法がある.設計者は内挿された曲面形状を評価し,メッシュに曲線を追加したり,変形,削除をしながら,形状を作り込んでいく.このような手法は,曲面形状を直接入力.変形しながら形状を設計していく手法に比べて,設計者の負担が少ないという利点がある.なぜならば,曲面の制御点を移動して意図した形状を得るためには,隣接する曲面との連続性や曲面のタイプに依存した特性など多くのことを考慮しなければならないため,形状変形のみに専念することが難しいからである.一方曲線メッシュによる形状設計法では,境界曲線の形状のみを考慮すればよい.このとき設計者は,曲線形状の変形にともなって,内挿される曲面形状がどのように変化するのかを知っていれば,曲線形状のみを変形することで意図した形状を生成できる.

 このような形状設計手法において,曲面形状モデラーは次に示す3つの技術的課題を解決していなくてはならない.課題1は,意図する曲面形状を表す曲線メッシュのデータ量を削減すること.課題2は,人が理解できる量で曲面形状を変形できることである.また,課題3は,様々な形状を単一の表現形式で扱うことができるNURBS曲線,NURBS曲面を含んだ曲線メッシュを滑らかに内挿できることである.本研究では,これらの課題を解決するために,自由曲面の表現式,曲面間の接続,内挿法及び形状制御法についての研究を行った.

 従来,不規則な曲線メッシュを滑らかに内挿する場合には,Gregoryパッチや有理境界Gregoryパッチによる内挿法が提案されている.これらの曲面表現では,その境界曲線がBezier曲線や有理Bezier曲線で表現できなければならない.しかし,一般に曲面の切断や集合演算などによって生成される干渉線は,複数の(有理)Bezier曲線を区分とする複合曲線になる.複合曲線を含んだ不規則なメッシュを滑らかに内挿する1つの手法として,内挿する領域を4辺形に分割する内部曲線を生成した後で,それぞれの4辺形領域を自由曲面で内挿する手法がある.しかし,分割の方法によっては,内挿された曲面形状がうねったり,パッチのコーナーにおける法線ベクトルが定義できないパッチが生成されたりする.このようなパッチが生成されたときには,設計者は曲線メッシュを変形したり,内部曲線をメッシュに追加して形状を補正する.しかし,このような変形法ではメッシュは複雑になり,データ量の増加や形状変形時の操作性に支障をきたすことになる.

 曲線メッシュを自由曲面で滑らかに内插するときには,各パッチ間の共有境界におけるG1連続性(接平面連続性)を保証する微分方程式を解き,パッチ間をG1連続に接続する.しかし,このような方法により生成された自由曲面は,境界曲線上ではG1連続性が保証されていても,曲面形状を全体的に評価したときに,形状がうねっていることがある.これまでは,曲線メッシュに曲線を追加したり,既存の曲線の形状を変形することによって,うねりのある曲面形状を補正した.しかし,曲線メッシュを内挿するための曲面表現式の限界や,G1連続性を表す微分方程式の解法の複雑化などの理由から,一般にパッチ間の連続性を保ちながらこのような曲線変形を行なうことは容易ではない.しかも,うねりが広範囲にわたっているときにはこのような形状変形は困難である.

 NURBS表現は自由度が大きく,様々な曲線,曲面形状を単一の表現式で扱うことができる.例えば,NURBS曲線は解析曲線や,(有理)Bezier曲線を曲線区分とする複合曲線を表現できる.このことから,NURBS表現を用いることによって曲線メッシュは大きな領域となり,できるだけ少ない曲線メッシュで意図する曲面形状を表現できる.また,NURBS曲線,曲面の制御点やノットベクトルと,形状の関係は明確なので,制御点の移動やノットベクトルの変更によって,柔軟な形状変形が可能である.このことから,上で述べた課題はある程度解決できる.しかし,NURBS曲面では,不規則な曲線メッシュを滑らかに内挿することができないという大きな問題が残される.規則的なメッシュのみを用いて,意図する形状を生成しなければならないとしたら,これは設計者にとって大きな制約となる.

 本研究では,前述した技術的な課題を解決した曲面表現とその接続,内挿法および形状制御方法について提案する.まず,課題1を解決するために,一般Coonsパッチを拡張し,Gregoryパッチ,有理境界Gregoryパッチの特徴を継承した一般境界Gregoryパッチを提案する.一般境界Gregoryパッチを用いることによって,複合曲線を含んだ不規則な曲線メッシュを滑らかに内挿することができる.複合曲線で囲まれた領域は大きな領域となり,意図する曲面形状ができるだけ少ない曲線メッシュで表現できるようになるため,データ量の増加も最小限に抑えられる.

 次に,課題2を解決するために,Gregoryパッチによる内挿法を拡張し,境界横断導関数を基礎とした新しい制御点と,この制御点を用いた形状制御方法について提案する.この新しい制御点では,曲面の境界上の接平面と曲率を制御することができるので,うねりのある曲面形状を容易にかつ直観的に補正することが可能である.しかもこの方法では,設計者は曲面間の連続性や曲線,曲面のタイプなどを考慮する必要はない.

 最後に,課題3を解決したNURBS境界Gregoryパッチを提案する.NURBS境界Gregoryパッチは,課題1を解決するために考案された一般境界Gregoryパッチを拡張した曲面式である.NURBS境界Gregoryパッチを用いることによって,従来提案されていた各種Gregory系曲面だけでなくNURBS曲面とG1連続に接続することができる.また,課題2を解決するために考案された形状制御方法も適用することができる.NURBS境界GregoryパッチとNURBS曲面を適切に使い分けることによって,NURBS曲面の欠点を補い,NURBS表現の利点を生かした形状設計手法をも取り込むことができる.

 上で述べた手法により,冒頭で述べた曲面形状モデラーに対する3つの技術的課題は解決され,意図する自由曲面形状を容易に設計することができるようになる.本論文で述べた曲面表現,接続,内挿法及び形状制御法は,商用のソリッドモデラーに実装され,その実用性,効果が確認されている.

審査要旨

 本論文は,計算機を利用して複雑な自由曲面形状設計を支援するための手法を確立することを目的として,自由曲面に対するGregory系曲面表現式を拡張することにより,不規則な曲線メッシュを滑らかに内挿するための自由曲面間の接続法を開発し、強力な自由曲面の形状生成制御法を明らかにしたものである.

 CAD(計算機支援設計)システムにおいて,設計者の意図に従って複雑な自由曲面を自在に設計できることが望まれている.複雑な自由曲面は,製品の意匠的な美しさを決定する一因であり,同じ機能を持つ他の製品との競争力を増すために重要である。しかしその生成には,曲面形状を表現するためのデータ量が多い,曲面の接平面連続性を維持しながら曲面形状を変形するのが容易ではない,様々な曲線,曲面のタイプが混在するため,タイプごとの性質を考慮して曲面を生成するのは手間がかかる,などの問題がある.本論文では,隣接面との接続性にすぐれたGregory系曲面を拡張した一般境界GregoryパッチやNURBS境界Gregoryパッチと称する曲面式を提案し,これらを利用した曲面間の接続,内挿法,自由曲面の形状制御法により上記の問題を解決した.

 本論文は7章よりなり,その概要は以下のようである.

 第1章は,序論であり,本研究の背景と目的および解決するべき課題について述べ,課題を解決するための考え方について説明している.

 第2章は,第3章以下で述べる手法を説明するための準備的な章である.ここでは,すでに提案されている主要な曲面表現とその特徴について述べた後で,本研究の基礎となるGregoryパッチと有理境界Gregoryパッチによる曲面間のG1(接平面連続)接続法について述べる.次に,ここで述べた接続法を用いて,3辺形や5辺形のような非4辺形領域を持つ不規則な曲線メッシュの内挿法について説明する.

 第3章は,集合演算などで生成される干渉線(複合曲線)を含んだ曲線メッシュを内挿するための曲面表現である一般境界Gregoryパッチについて述べ,それを用いた接続,内挿法について説明した章である.一般境界GregoryパッチはGregoryパッチを拡張し,境界曲線として複合曲線を許した曲面表現で,粗い曲線メッシュで意図する曲面形状を生成することができる.また,従来複数枚のパッチで内挿されていた曲線メッシュを,1枚のパッチで内挿できるため,領域の分割による曲面形状のうねりの発生を抑制することができる.

 第4章は,第3章および第5章で述べるGregory系曲面を統一的に形状制御、変形するための手法を示した章である.本研究では,境界上の任意の点における境界を横切る微分ベクトルを指定し,これを考慮したGregory系曲面間の接続,内挿法について説明する.曲面形状を直観的に制御するために,境界横断導関数を基礎とした制御点の概念を示し,この制御点を用いた形状制御変形法として,曲面の1つの境界に着目して曲面形状を変形する局所的な変形方法と曲面全体を同時に変形する大域的な変形方法について述べる.

 第5章は,第3章で述べた一般境界Gregoryパッチを拡張した曲面式であるNURBS境界Gregoryパッチについて述べ,それを用いた接続,内挿法及び形状制御法について説明する章である.NURBS境界Gregoryパッチは,NURBS曲面とG1連続に接続することができる.しかも,不規則な曲線メッシュをなめらかに内挿することができる曲面式であり,第4章で述べる曲面形状制御法も適用することができる.

 第6章は,第3,4,5章で述べた手法を実際の曲面形状の設計に応用した例を示した章である.ここでは,まず第3章で述べた一般境界Gregoryパッチによる曲線メッシュの接続,内挿法を自由曲面の設計へ応用する例を示す.次に,第4章で述べた局所的な形状制御法と大域的な形状制御法を,自由曲面の設計へ応用する例を示す.最後に,第5章で述べたNURBS境界Gregoryパッチによる曲線メッシュの接続,内挿法を自由曲面の設計へ応用する例を示し,NURBS境界Gregoryパッチを用いた形状制御法を自由曲面の設計へ応用する例も示す.また,NURBS境界Gregoryパッチをフィレット面生成に適用した例を示す.

 第7章は,結論であり,第3,4,5章で述べた研究を総括し,今後の課題を述べた章である.

 以上をまとめて,本論文は,複雑な自由曲面形状を表現できる曲面表現式を提案し、これを利用した曲面間の接続,内挿および形状制御についての基礎理論と実用的な計算手法を示し、実用的な意匠形状設計に適用してその有効性を立証したものである。本論文の成果は精密機械工学の今後の発展に寄与するところが大きい.

 よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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