学位論文要旨



No 213086
著者(漢字) 原田,毅士
著者(英字)
著者(カナ) ハラダ,ツヨシ
標題(和) ソリッドモデラにおけるフィレット面の位相構築と曲面生成に関する研究
標題(洋)
報告番号 213086
報告番号 乙13086
学位授与日 1996.12.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13086号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 木村,文彦
 東京大学 教授 鯉渕,興二
 東京大学 教授 杉原,厚吉
 東京大学 教授 鈴木,賢次郎
 東京大学 助教授 高増,潔
内容要旨

 本論文では,統合CAD/CAM/CAEシステムの中核となるソリッドモデラにおいて,工学的に重要なフィレット面を自動的に生成する新しい方法を提案する.

 統合CAD/CAM/CAEシステムで扱う工業製品の形状には,立体の角を滑らかに丸めたフィレット面が数多く含まれる.フィレット面には,断面半径が一定の円弧になる定半径フィレット面や,断面半径が変わる徐変フィレット面など多くの種類がある.また,これらの面が集まる立体の頂点部分では,面同士を滑らかに補完する別の種類のフィレット面,すなわちぼかし面が現れる.フィレット面は,意匠的に美しい形状を得る,機械部品の強度を高める,といった工学的に重要な意味を持つ.したがって,統合CAD/CAM/CAEシステムの中核となるソリッドモデラは,充実したフィレット面生成機能を持たなければならない.

 フィレット面の生成方法に関して従来の研究が持つ問題は,(A)位相要素の構築に関するもの,(B)幾何要素の生成に関するもの,の2点に集約できる.(A)の問題は,従来の研究のほとんどがサーフェスモデルを対象としているため,フィレット面やぼかし面が持つ複雑な面のつながりが自動的に構築されないことである.すなわち,従来の方法では,フィレット面の位相要素の構築が完全に自動化されていない.(B)の問題は,フィレット面の形状を表す曲面表現式が,元の曲面表現式をそのまま組み込んだ複雑な数式か,または他の面との滑らかさを犠牲にした近似式のどちらかになっていることである.元の曲面表現式を組み込む方法では,既存のフィレット面上に新しいフィレット面を追加していくと,曲面表現式が際限なく複雑になる.これは,曲面の計算コストやデータ量の単調増加につながる.また,近似式を用いる方法では,フィレット面と他の面との滑らかさが,CAMなどの後工程のシステムが要求する許容誤差の範囲内に収まらないことが多い.特に,4辺形ではない不規則な境界を持つぼかし面に対しては,他の面と滑らかにつながる近似曲面を生成するのが困難である.

 本研究では,フィレット面の生成に関する問題を,それぞれ以下に示すように解決した.(A)の問題に対しては,ソリッドモデルの原始的な操作群である基本操作を組み合わせた,フィレット面の位相要素の生成手順を確立した.この手順に従うと,構築が最も難しいぼかし面の位相要素を,他のフィレット面と同時に生成することができる.(B)の問題に対しては,フィレット面の形状を近似する曲面表現式としてGregory系パッチを採用し,それらのパッチによるフィレット面の境界曲線の内挿方法を確立した.Gregory系パッチは,制御点のみで定義される次数の低いパラメトリック曲面であり,しかもフィレット面と他の面との滑らかな接続を可能にする.Gregory系パッチを用いると,不規則な境界をもつぼかし面の内挿も容易である.

 本論文で提案するアルゴリズムは,フィレット面と元の面との境界曲線の生成,フィレット面を構成する位相要素の生成,フィレット面の形状を近似するパッチの生成,の3つの処理から成る.このうち,1番目の処理では,通常のニュートン法を曲線・曲面に適用した幾何学的ニュートン法を用いて,フィレット面と元の面との境界曲線を生成する.この処理は生成するフィレット面の種類によって異なるが,2番目,3番目の処理は種類によらず共通である.本研究では,境界曲線の生成処理を複数実装しており,標準的なローリングボール法や本論文で提案するスライディングサークル法に基づくものなど,合計4種類のフィレット面を生成可能である.新しい種類のフィレット面も,1番目の処理を変えるだけで簡単に追加できる.また,2番目の処理では,従来の技術であるオイラー操作を拡張した基本操作を組み合わせることにより,フィレット面を構成する面・稜線・頂点を生成する.この処理により,ぼかし面を含むフィレット面の位相要素が自動生成される.3番目の処理では,フィレット面の形状を近似するGregory系パッチの制御点を生成する.これらのパッチは,任意のパラメトリック曲面間に生成された,あらゆる種類のフィレット面の近似に用いられる.本アルゴリズムは,任意のパラメトリック曲面に対し適用可能である.

 以上,フィレット面の種類に一部の処理しか依存しない汎用性の高いアルゴリズムであること,フィレット面の位相要素の構築を完全に自動化したこと,任意のパラメトリック曲面間に滑らかなフィレット面を生成できること,の3点により,本論文で提案する方法は高い実用レベルにある.本論文の方法は,商用のソリッドモデラにすでに組み込まれており,図面生成システムやCAM/CAEシステム,立体樹脂モデル作成システムと接続されて,3次元の形状設計に有効利用されている.

審査要旨

 本論文は,曲面を含む複雑な立体形状構成において必須となるフィレット面を計算機上に実現されたソリッドモデリングシステムにより生成すること目的として,フィレット面の位相構造構築と曲面生成に関する基礎理論を確立し、計算機上に実装してその有効性を立証したものである。.

 フィレット面は、立体形状の稜線や頂点を丸めて形状を局所的に滑らかにする面のをいう.複雑なフィレット面の生成は,工業的、意匠的に重要である.しかし,フィレット面の生成には,稜線を丸めたときに現れる曲面が、頂点付近で複数枚干渉するために現れるぼかし面の隣接関係に関する位相構造構築が困難であるという問題がある.また,隣接する曲面との滑らかさを形状構成者の要求する許容誤差内に収めることが難しい,という問題もある.本論文では,ソリッドモデリングの位相構築基本操作を基にフィレット面の位相構築を自動的に行うアルゴリズムを開発し、さらに,有理Bezierパッチを拡張したGregory系パッチを用いて,隣接する面と滑らかに接続するフィレット曲面生成を行うことにより,上記の問題を解決する.

 本論文は7章よりなり,その概要は以下のようである.

 第1章は序論であり,本研究の目的について述べている.本研究は,ソリッドモデラにおいてフィレット面を自動生成するアルゴリズムを提案し,そのアルゴリズムに基づいてフィレット面生成機能を計算機上に実装して有効性を検証することを目的とする.

 第2章は,フィレット面に関する従来の研究と本研究を比較し,本研究の優位点について述べている.従来の研究では,ぼかし面を含むフィレット面の位相を自動構築する方法が示されておらず、また,生成された曲面が,計算コストのかかる複雑な曲面式であるか,または式が簡単であっても隣接面との滑らかさが十分でないか,のいずれかであった.本研究では,ソリッドモデリングの位相基本操作を組み合わせることでフィレット面の位相を自動生成し,Gregory系パッチを用いて計算コストと滑らかさの問題を同時に解決した.

 第3章は,本研究のフィレット面生成アルゴリズムの基礎となる理論を説明している.その一つはソリッドモデルの原始的な位相操作群であるオイラー操作の拡張についてである.もう一つはGregory系パッチについてである.これは有理Bezierパッチを拡張した曲面式であり,Bezierパッチに比べて隣接する面との接続の自由度が高いという特徴を持つ.

 第4章は,本研究のフィレット面生成アルゴリズムの概要を説明し、特に、位相の構築について詳述している.フィレット面生成アルゴリズムは,フィレット面と元の面の境界曲線の生成,フィレット面の位相の構築,フィレット面の形状を表現する曲面の生成,という3つの処理から成る.1番目の処理では,繰り返し計算に関するニュートン法を幾何学的に解釈しなおした計算法を用いて,フィレット面と元の面の境界曲線を生成する.フィレット面には標準的なローリングボール法に基づく一定半径のものや断面半径が徐々に変わるものなど多くの種類がある.本研究のアルゴリズムは,境界曲線の生成処理を置き換えるだけで多種類のフィレット面を生成できるため,汎用性が高い.2番目の処理では,オイラー操作を拡張した基本操作を組み合わせることにより,フィレット面の位相,すなわちフィレット面を構成する稜線や頂点を構築する.3番目の処理に関しては,第5章で詳細を説明する.

 第5章は,フィレット面の形状を近似する曲面の生成方法を説明している.フィレット面に対しては,2次曲面やトーラス面で表現可能な場合,それらの曲面が生成される.表現可能でない場合は,基礎パッチ法を用いてGregory系パッチが生成される.本研究は,フィレット面に隣接する面がフィレット面生成前から存在する元の立体の面、稜線に沿うフィレット面・ぼかし面のいずれかによって,基礎パッチ法に適用する曲面間の接平面連続の条件式を変えている.これにより,隣接するあらゆる種類の面との滑らかな接続が可能になる.

 第6章は,フィレット面生成機能を実装したソリッドモデラの応用例を述べている.複雑なフィレット面を生成できるソリッドモデラは,CAM/CAEシステム,立体樹脂モデル作成システムと接続されて,形状構成機能の有効性が検証された。.

 第7章は結論であり,本研究の有効性と今後の課題について述べている.本研究の成果により、複雑なフィレット面が簡単な操作で生成可能になった.フィレット面同士が自己干渉する場合など今後の拡張について議論した.

 以上のように,本論文は,ソリッドモデラにおいて複雑なフィレット面を自動生成するために,ソリッドモデラの基本位相構築操作によるフィレット面の位相構造構築、およびGregory系パッチによる滑らかな曲面生成を自動的に実現するアルゴリズムを確立したものであり,精密機械工学の今後の発展に寄与するところが大きい.

 よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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