画像認識やその工学的応用の分野において、テクスチャー画像のセグメンテーションやマッチングに関する研究成果は、その重要性にもかかわらず、顕著であるとは言い難く、実用化にはほど遠い状態にある.研究が遅々として進まない要因に、テクスチャーの周期性の自動検出そのものに視野制御の課題が未解決であり、またテクスチャー境界の検出についても決定的な方法が見い出されていないことがある. 本論文は、このような背景のもとで、視野を適宜に制御することのできるGabor関数に基づいてウェーブレット関数を定義し、これを用いてテクスチャ特徴ベクトルを抽出し、その空間微分を統合してテクスチャー勾配とテクスチャーエッジを検出する新しい方法論を展開したものである.本論文は「ウェーブレット相関に基づく画像解析」と題し、6章よりなる. 第1章は「まえがき」で、人間の視覚情報処理機構を工学的に実現させる立場で本研究を開始した動機を述べるとともに、画像認識における本研究の背景と研究現状をまとめている.特に、本研究では、テクスチャー領域内に存在するテクスチャーの繰り返しが数回である場合を想定しつつ、テクスチャー特徴ごとに視野パラメータを変させる方法に導入しなければならないことの理(ことわり)を、テクスチャー画像解析の本質的課題に関係づけて、明らかにしている. 第2章は「空間・周波数解析の基礎」と題し、第3章以降で用いるGabor関数に基づいて定義したウェーブレット関数とウェーブレット分解を説明し、それらの性質や条件および設計方法などを論じている. 第3章は「テクスチャー画像のエッジ検出」と題し、テクスチャーエッジ勾配とテクスチャーエッジを検出する新しい手法を提案している.まず、ウェーブレット関数を用いてテクスチャー特徴ベクトルを抽出し、特徴ベクトルの各要素の空間微分をとり、その勾配ベクトルから成るモーメント行列関数の特異値分解によってテクスチャ勾配を定義している.また、テクスチャー勾配に基づくテクスチャーエッジの検出には、前者の2次微分フィルタの零交差点をエッジ点と見なす方法が知られているが、ここでは勾配を表す最大特異値の勾配方向(その固有ベクトル)の2次微分をとり、エッジの満たす条件を与えている.そして、この方法の有効性を理論的に実証するために、数式で表現できる1次元信号に対して詳しい解析を行い、パルス型やステップ型のノイズが重畳した際の本手法の耐性を論じ、合わせて、ノイズを抑制するための低域フィルターによる補正法を論じている. 第4章は[テクスチャー画像のセグメンテーション]と題し、前章で提案したテクスチャー勾配とテクスチャーエッジの検出法のセグメンテーションへの応用法について考察している.具体的には、勾配やエッジ等の境界情報を用いた方法として再帰的に組んだセグメンテーション算法を提案している.また、テクスチャー勾配を求めるときに必要となる視野パラメータが大きければ細かいセグメンテーションはできないという考えに基づいて、階層化手法を提案し、視野パラメータと階層の初期レベルとの関係を導いている. 第5章は「ウェーブレット相関による画像のマッチング」と題し、従来の手法であるマッチングの基本となった局所的相関に代えて、ウェーブレット相関と呼ぶ計算量を導入している.この方法では、各周波数成分が公平に検出されないという局所的相関の欠点を改良するため、局所的相関の記法を拡張し、各周波数成分の公平な検出を可能にしている.また、ウェーブレット相関と局所的相関やラプラシアン距離との比較実験を行い、その優位性を検証している.そして、ウェーブレット相関の狭帯域の性質を利用した、大局的なマッチング手法を提案し、DPマッチング法と性能比較を行っている. 最後に、第6章を「まとめ」と題し、研究の成果をまとめた後、今後の研究課題を挙げている. 以上を要するに、本論文はテクスチャー画像解析の基本となるテクスチャー勾配とテクスチャーエッジの新しい検出法を示すとともに、振幅出力と位相出力を同時に扱い、かつ複数フィルタ出力の統合をも行い得た「ウェーブレット相関」という新しい概念を提案し、その有効性と有用性を理論的かつ実験的に示したものであり、画像認識工学の発展に大きく貢献するものである.よって博士(工学)の学位論文として合格と認める. |