学位論文要旨



No 213095
著者(漢字) 亀井,康夫
著者(英字)
著者(カナ) カメイ,ヤスオ
標題(和) 酸素富化微粉炭燃焼技術を応用した高炉プロセスに関する研究
標題(洋)
報告番号 213095
報告番号 乙13095
学位授与日 1996.12.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13095号
研究科 工学系研究科
専攻 金属工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 佐野,信雄
 東京大学 教授 小川,修
 東京大学 教授 前田,正史
 東京大学 助教授 月橋,文孝
 東京大学 助教授 森田,一樹
内容要旨

 高炉法は,19世紀にその形態を整えて以来現在まで製鉄法の主流の座を占めてきており,わが国に於いても,現在では内容積が5000m3を超え,1万t/d以上の出銑量を誇る大型炉が出現している.

 高炉法の特徴は(1)羽口から吹き込まれた空気によるコークスの燃焼による熱供給と還元ガス製造,(2)炉頂から装入され炉内を降下する原料の,下部から上昇してくる前記高温還元ガスとの向流式熱交換による昇温と還元,(3)炉下部における鉱石溶解と銑滓分離の主要機能を高シャフトを活用した1つの反応容器内で行い,高い熱効率を達成する点にある.

 この場合,安定操業を確保するためには炉内の通気性の確保が不可欠であり,鉱石,コークスとも適切な粒子径と強度を有することが要求される.そのためには,良質の原料と大規模な塊成化設備を必要とし,この点が高炉法の欠点となっている.

 しかし,最近では,高品質の塊鉱石とコークス用原料炭の不足等原料事情が悪化するとともに,高度経済成長期から安定成長期へと経済環境が変貌する中で,戦後建設された設備が更新時期を迎えようとしている.

 このような状況下で将来への対応を鑑みた場合,高炉法は一般炭に比べ高価な原料炭を使用すること,高炉の大型化および操業の高度化に伴い鉱石およびコークスとも良質の原料を要すること,上工程の集約化による高炉基数の減少により,生産弾力性,特に高生産性の実現が強く望まれていること,近い将来に現存コークス炉の更新期を迎え,その多額な設備投資が鉄鋼業にとって大きな負担になること等から,高炉法の存続の是非が問われる時期に立ち至っているといっても過言では無い.このような背景から,高炉法のさらなる発展の可能性を追求し,従来の限界を超える新しい操業法の探求は製銑技術者の回避し得ぬ課題となっている.

 本研究は,このような時代の要請に応えるべく,高炉法の高熱効率を維持しながら高生産性を達成することをめざして新たに考案され研究開発された,酸素富化微粉炭燃焼技術を応用した高炉プロセス(以下「酸素高炉法」と称す)に関するものである.

 本研究では,まず数式モデルにより微粉炭多量吹込みを併用する高酸素濃度常温送風を実施する高炉プロセスの特性を解析し,高出銑比と低燃料比を両立できる可能性があることを見いだした.次に,小型試験炉を使用して本プロセスの実証試験を実施し,数学モデルで得られた検討結果が,実際に操業可能であることを実験的に検証した.さらに,酸素富化した高温送風時の微粉炭燃焼特性の実験的検討を実施し,吹込み条件を適正に選択することにより,微粉炭多量吹込み時でも高燃焼率で微粉炭が燃焼することを確認した.

 また,本法は酸素を使用するので容易に炉内の高温化がはかれるとともに,微粉炭を多量に吹き込むことにより炉内高温域を拡大でき,溶融還元主体のフェロアロイの製造にも適していると考えられることから,本研究では高炭素フェロマンガン及び高炭素フェロクロム製造への適用についても検討した.

 さらに,本法では,安価な一般炭を多量に使用しかつ高熱効率が得られることから,近年本格的なリサイクル時代を迎えようとしているスクラップ溶解への適用についても検討した.

 以下,各検討課題毎に研究要旨を述べる.

(1)数学モデルによる酸素高炉プロセスの解析

 高炉1次元数学モデルを使用し,酸素富化微粉炭燃焼技術を応用して,高出銑比と低燃料比を両立させる高炉の操業方法について検討した.送風中の酸素濃度を単純に増加させる操業では,フレーム温度が過度に上昇し,いわゆるシャフト部熱不足問題が発生して燃料比が増加してしまうが,高酸素濃度送風下において微粉炭などの補助燃料吹込みを併用することにより,高出銑比と低燃料比を両立させることができることを示した.また本法では,燃料比を低位に維持するためにシャフト高さを必要とすることから,低シャフト型の酸素低炉やシャフト部への加熱ガス吹込みを併用する酸素高炉とは区別される新しいタイプの酸素高炉であることを示した.

(2)小型試験高炉による酸素高炉法の検討

 数式モデルによる検討結果の妥当性を検証するため,小型試験炉を使用して,微粉炭の多量吹込みを併用する酸素高炉法に関する実験的な検討を実施した.小型試験炉では微粉炭/酸素比率で1.2kg/Nm3の微粉炭が問題なく使用でき,微粉炭比=407kg/t,コークス比=258kg/t,出銑比=7.35t/d・m3の成績が得られ,数学モデルの検討結果が実際に操業可能であることを検証した.また,微粉炭/酸素比率1.2kg/Nm3のレベルまで微粉炭使用が可能であるとすれば,高炉一次元数学モデルの検討から,大型炉では微粉炭比=375kg/t,燃料比=555kg/t,出銑比=3.30t/d・m3が達成可能と推定され,低燃料比を維持しつつ高出銑比が可能である結果が得られた.

(3)酸素富化高温送風時の微粉炭燃焼特性の検討

 酸素高炉法における微粉炭燃焼性改善効果を稼働高炉への微粉炭吹込みへ適用すべく,実炉の熱風送風羽口条件を近似した高炉下部実験炉を使用した微粉炭燃焼実験と高炉のブローパイプを模した冷間試験により,実験的検討を実施した.バーナー口径と吹込み位置を選択して,微粉炭と熱風との混合を促進することにより,微粉炭燃焼率を改善することができることを示した.特に,酸素富化バーナーを使用することにより,微粉炭燃焼率を飛躍的に向上させることができることを確認した.本検討結果より,酸素を10%富化することにより,実炉で燃焼率を低下させることなく,約200kg/pt程度まで微粉炭を使用し得る見通しを得た.

(4)高炭素フェロマンガン製造への適用

 小型試験炉を使用して本法による高炭素フェロマンガン製造の実験的検討を実施し,微粉炭比=1502kg/t,コークス比(非粘結炭56%配合)=1087kg/t,出銑比3.11t/d・m3で[Mn]=75%の高炭素フェロマンガンを安定して製造することができることを示した.本試験結果をもとにMn製錬収支モデルを作成し,コマーシャルプラント(170t/d規模)の諸元を予測した結果,燃料比は高炉法と比較してやや高くなるものの,微粉炭を多量に使用するため石炭比の低下が可能であり,脱電力プロセスとして成立しうる見通しが得られた.

(5)高炭素フェロクロム製造への適用

 小型試験炉を使用して高炭素フェロクロム製造の実験的検討を実施し,[Cr]=40〜60%の高炭素フェロクロムを製造することができ,本法による高炭素フェロクロム製造への適用の有用性を確認できた.また,Cr鉱石に造滓材を添加して焼結鉱にすることにより,還元・滴下性状とも改善されることを確認するとともに,CaO/SiO2=1.0〜1.3,スラグ量=1100〜1300kg/t-(Cr+Fe)が適正性状であることを見いだした.適正に配合されたCr鉱石焼結鉱を使用することにより,炉況が安定するとともに燃料比,生産性が向上することを確認した.本法の商用炉で[Cr]=52.2%の高炭素フェロクロムを製造する場合の燃料比は1967kg/tであり,副生ガスを控除したネット消費エネルギーは25GJ/tと電炉法のネット消費エネルギー44GJ/tよりもかなり少なくてすむと見積もられた.

(6)スクラップ溶解への適用

 小型試験炉を使用してスクラップ溶解の実験的検討を実施し,高炉用コークスを使用してもスクラップ(配合率100%)溶解が可能であり,高炉溶銑並の高加炭,高脱硫の溶鉄製造が可能であることを示すとともに,燃料比=240〜290kg/t,出銑比=14.7t/d・m3の実績が得られた.燃料比を低下させ生産性を向上させるには,シャフト部から炉内へ空気を吹き込み二次燃焼させることが有効であることを小型試験炉を使用して実証した.また,実験結果をもとにして電気炉、及び転炉によるスクラップ溶解法とのエネルギー消費量の比較を行い,いずれの方法よりもエネルギー消費を節減しうる可能性を確認した.従って,本方法は,将来スクラップの大量使用が必要となった時点におけるスクラップ溶解の有力手段になりうるものと考えられる.

 以上のように,本研究では酸素富化微粉炭燃焼技術を応用した高炉プロセスにより,高出銑比と低燃料比を両立できる銑鉄製造が可能であることを,理論及び実験的に明らかにするとともに,高炭素フェロマンガン製造,高炭素フェロクロム製造及びスクラップ溶解にも有力なプロセスとして機能しうることを明らかにした.

審査要旨

 本論文は製鉄用高炉法の高熱効果を維持しつつ、高生産性を達成する事を目的として、羽口からの微粉炭吹き込みと高酸素濃度の常温送風を組み合わせた新しい酸素高炉法を考案し、このための基礎技術の開発とその応用について述べたものであり、全8章より成る。

 第1章は高酸素送風の観点から見た高炉法の歴史を簡単に紹介した後、本研究の目的と、内容について述べている。

 第2章では1次元数学モデルを用いて酸素送風による高出銑比と低燃料比の双方を達成するための高炉の操業方法について検討したものである。単純に高酸素送風をすれば、フレーム温度のみが過度に上昇し、シャフト部が低温になるために、燃料比が増加するので、羽口から微粉炭を吹き込み、温度を平滑化させ、かつ従来から提案されている酸素高炉とは異なりシャフト高さをある程度維持しなければならないと結論している。この場合、コークス比が低下するため、融着帯が厚くなるので、鉱石やコークスの厳密な品質管理が必要となる。

 第3章では小型試験炉を使用して微粉炭吹き込みを併用した酸素高炉の試験を行い、微粉炭/酸素比率1.2kg/N・m3,微粉炭比407kg/t,コークス比258kg/t,出銑比7.35t/d・m3,を達成した。この結果を大型炉に外挿すれば、微粉炭比375kg/t,燃料比555kg/t,出銑比3.30t/d・m3が得られることになるが、これを実現するためにはコークス使用量が少ないために発生する通風の問題等について更に検討を要する。

 第4章では実寸大の高炉下部実験炉を使用して、微粉炭燃焼実験を行い、バーナー口径と吹き込み位置の適当な選択及び、酸素アトマイズバーナーの使用により、微粉炭燃焼率を飛躍的に向上させることができた。10%酸素富化空気の送風を併用し、実炉で燃焼率を低下させることなしに200kg/t程度まで微粉炭を使用できる見通しを得た。

 第5章では上記の技術の応用例として堅型試験炉を用いて、高炭素フェロマンガン製造試験を行った。その結果、微粉炭比1502kg/t,コークス比(非粘結炭56%配合)1087kg/tで、[%Mn]=75の高炭素フェロマンガンが3.11t/d・m3の出鉄比で製造できた。これを170t/dの商業炉に拡張すれば燃料比は現行の高炉法よりもやや高くなるものの、塊状石炭比の低下が可能であり、現在主流である電気炉法に対し、脱電力プロセスとして成立し得る見通しを得た。

 第6章では、第5章と同じ方法で40〜60%のクロムを含む高炭素フェロクロムの製造試験結果について述べたものである。鉱石にフラックス加えて、スラグのCaO/SiO2=1.0〜1.3に調整し、還元滴下性状を改善することにより、炉況が安定し、燃料比及び生産性が改善された。本法を実用炉に拡張すると、燃料比が1967kg/tと見積もられ、副生ガスを控除した消費エネルギーは25GJ/tと現行の電気炉法の44GJ/t比べ大幅に低下することが期待できる。

 第7章は前章で述べたものと同じ設備を用い、鋼スクラップの溶解実験を行った結果について述べている。高炉用コークスを使うことには経済的に難があるが、燃料比240〜290kg/tで、脱硫された溶銑が14.7t/d・m3の出銑比で製造できた。シャフト部に二次燃焼用空気を吹き込めばさらに燃料比が低下し、生産性も向上することが実証されている。この場合エネルギー消費量は電気炉、転炉法のいずれよりも低くなると計算している。ここで得られた要素技術を他の方法と組み合わせればスクラップの大量溶解技術として有望と判断される。

 第8章は結論である。

 最後に本法を実用化するために解決すべき問題点として鉱石類の被還元性を向上させ、軟化開始から溶解までの領域を狭く融着帯厚さが過大にならないように配慮し、さらにコークスの強度の向上と粒径の拡大、滴下スラグ量を低下させるための石炭銘柄の選択等、実際にはかなり難しい事項が挙げられれている。また装入物の分布を厳しく制御し、ガスが炉周辺に過度に流れないようにして炉体からの熱損失を防止すること、各羽口から微粉炭吹き込み量のばらつきを制御して、なるべく均一に装入物を円周方向に分布させることが安定操業に必要としている。

 本研究で開発した酸素高炉は実用化に向けて多くの課題を残してはいるが、原料事情を考慮した将来の銑鉄製造法として有望であり、鉄冶金学及び鉄鋼製造技術の発展に大いに貢献している。

 よって本論文は、博士(工学)学位請求論文として合格と認められる。

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