学位論文要旨



No 213110
著者(漢字) アセップ,サペイ
著者(英字)
著者(カナ) アセップ,サペイ
標題(和) インドネシア国西ジャワ地区の水田・畑の土壌特性に関する研究
標題(洋) Studies on the soil characteristics of wet-paddy and upland fields in West Jawa,Indonesia
報告番号 213110
報告番号 乙13110
学位授与日 1996.12.20
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第13110号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中野,政詩
 東京大学 教授 中村,良太
 東京大学 教授 佐藤,洋平
 東京大学 助教授 宮崎,毅
 東京大学 助教授 山路,永司
内容要旨

 インドネシア国では、食料生産の振興を目指して穀倉地帯である西ジャワ地区における土地改良事業を鋭意進める必要に迫られている。改良農地の生産性は、その土壌の物理的な性質によって来る作物生産力の良否にかかっている。そこで、現況土壌の物理性がいかに作物の反収に適した状態に農業土木的に改良できるかが土地改良の一つの課題になる。しかし、西ジャワ地区に分布する土壌の物理性・力学性に関する情報はそれほど多いとは言えず、土地改良事業に際し土壌の改良目標の設定に困難を来す場合がしばしば生じている。

 本論分は、この観点に立って、西ジャワ地区の代表土壌として、ボゴール市周辺に分布する土壌でアロフェンを主要粘土鉱物とするダルマガ地区のラトソル土壌およびカオリナイトを主要粘土鉱物とするセルポン地区のラトソル土壌、ならびにスメクタイトを主要粘土鉱物とする赤黄色ポドソル土壌、カオリナイトを主要粘土鉱物とする沖積土壌等を取り上げ、それらの現況水田土壌および畑土壌について把握しうる限りの物理牲・力学性をJISに準拠した試験法によって詳細に明らかにし、ラトソル土壌の締め固めによる物理性・力学性の変化の形態を試験し、インドネシアにおける農業土木的土地改良事業に際し造成される農地土壌および土構造物の具備すべき条件を探索し、改良指針を作成した。

 1、まず、現況水田土壌の物理性・力学性であるが、土性はいずれも粘土であり、真比重はラトソル土壌と赤黄色ポドソル土壌で2.8前後と高い。とはいえラトソル土壌でもセルポン地区では2.6前後の通常の値を示した。

 乾燥密度は、いずれも1.1g/cm3前後と比較的大きく、とくに赤黄色ポドソル土壌では1.6g/cm3と砂質土なみの大きさであった。従って、固相率は40%前後であるが、赤黄色ポドソル土壌では50%を越える。

 水分特性曲線は、PF3.0でなお空気侵入時の水分量に近い多量の水分を保持するが、ラトソル土壌のうち特にダルマガ地区の土壌はその2/3の水分量近くにまで急減する。

 飽和透水系数は、10-6cm/sec前後にあるが、赤黄色ポドソル土壌では10-3cm/secと大きい。

 山中式土壌硬度は、赤黄色ポドソル土壌は1.0MPa前後であるが、その他の土壌は0.5MPa以下と極めて軟らかい。しかし沖積土の休閑水田では、表層は2.0MPa程度にまで硬くなっている。

 液性限界は80%前後にあるが、赤黄色ポドソル土壌は60%前後にある。しかし、いずれも塑性図上ではA線沿いに位置する。

 見かけの粘着力はダルマガ地区のラトソル土壌表層は1.7kgf/cm2と大きいが、その他はいずれも0.2kgf/cm2以下で極めて小さい。せん断抵抗角はダルマガ地区のラトソル土壌と赤黄色ポドソル土壌で10度前後であり、セルポン地区のラトソル土壌および沖積土では5度前後である。

 突き固めによる締固め時の最大乾燥密度は、ラトソル土壌では含水比35%前後で1.3g/cm3,赤黄色ポドソル土壌では含水比25%前後で1.6g/cm3となるが、沖積土は日本の火山灰土のように含水比の低下にともなって乾燥密度が1.2g/cm3から1.4g/cm3以上にまで徐々に増加する。

 2、現況畑土壌の物理性・力学性は、土性は同じくいずれも粘土であり、真比重はいずれも2.65程度を示し、水田土壌の値より小さい。

 乾燥密度はラトソル土壌は1.0g/cm3程度、赤黄色ポドソル土壌と沖積土は1.4g/cm3程度であり、水田土壌と較べてやや小さいがその差は僅かである。固相率は、従って、ラトソル土壌で40%程度、赤黄色ポドソル土壌と沖積土で50%程度であり、水田土壌と較べて差はない。

 水分特性曲線は、PF3.0でなお空気侵入時の水分量に近い多量の水分を保持すのは赤黄色ポドソル土壌だけであり、ラトソル土壌と沖積土はその2/3の水分量にまで急減する。水田土壌と較べて、セルポン地区のラトソル土壌と沖積土で水分保持機能の変化が大きい。

 飽和透水系数は、セルポン地区のラトソル土壌で10-4cm/secとなり、その他の土壌では10-3cm/sec程度となる。水田土壌と較べて、赤黄色ポドソル土壌では変わらないが、その他の土壌では際だって大きく変化している。しかし沖積土の70cm深さの地点は畑土壌でも10-6cm/secという小さい状態に残されている。

 山中式土壌硬度は、沖積土では3MPa程度と硬く60cm以深で1.5MPaと軟らかくなる。その他の土壌はいずれも1.0MPa程度と軟らかい。水田土壌と較べて、赤黄色土壌では変わらないが、その他の土壌では極めて硬く変化している。

 液性限界は、ラトソル土壌では80%程度であるが、その他の土壌は60%前後である。塑性図上では、ラトソル土壌はD線沿いに位置し、その他の土壌はA線沿いに位置する。水田土壌と較べて、ラトソル土壌では塑性指数が小さくなり、沖積土は液性限界が小さくなり、赤黄色ポドソル土壌は変っていない。

 見かけの粘着力は沖積土で2.0kgf/cm2であったが、その他では0.4kgf/cm2前後と小さい。せん断抵抗角は沖積土で50度を示したが、その他では13度前後であった。水田土壌と較べて、見かけ粘着力もせん断抵抗角も2倍以上に大きくなっている。

 突き固めによる締固め時の最大乾燥密度は、ラトソル土壌は最適含水比40%前後で1.2g/cm3前後になるが、その他では最適含水比25%前後で1.5g/cm3となる。水田土壌と較べて、最適含水比がやや大きくなり最大乾燥密度もやや大きい。その他では最適含水比は変わらずに最大乾燥密度がやや小さい。なお沖積土もピーク示すようになる。

 3、ダルマガ地区に広く分布するラトソル土壌の撹乱土の突き固めによる締固めに伴う物理性・力学性の変化の形状は、562.5kJ/m3のエネルギを用いるときには、1.2g/cm3の最大乾燥密度が得られ、その最適含水比は40%である。そのときの飽和透水系数が最小であり約1×10-7cm/secが得られる。また一軸圧縮強さは、562.5kJ/cm3のエネルギを用いるとき最適含水比より低水分量すなはち約30%で突き固めたときに約3.7kg/cm2が得られる。最適含水比で突き固めても約2.0kg/cm2の強さしか得られない。また、562.5kJ/m3のエネルギを用いて最適含水比で突き固めたものに更に60回ほど打撃を加えても、乾燥密度は表層のみで約1.3g/cm3と僅かに増えるが、飽和透水系数はほとんど変化せず安定している。

 しかし、225.0kJ/m3という約半分の小さなエネルギを用いるときは、最大乾燥密度は約1.15g/cm3とやや小さくなり、最適含水比は約45%とやや大きくなる。最小飽和透水系数は、最適含水比よりやや大きいところで得られ約5×10-7cm/secと大きくなる。また、一軸圧縮強さは、同じく約30%の含水比で得られ1.4kg/cm2と大変小さくなる。最適含水比で突き固めたものに更に60回の打撃を加えると、乾燥密度は僅かに増えて全層で約1.2g/cm3が得られ、飽和透水系数が1×10-7cm/sec近くにまで減少する。

 4、インドネシア国のラトソル土壌地帯における農地造成および土構造物の建設にあたっての土壌の農業土木的改良指針は、日本の改良基準を参考にしつつ西ジャワ地区の水資源事情を勘案し、以上のような物理性・力学性の現況ならびに変化の形態からみると、現況土壌を有効に使うとしたとき、次のように提言できる。すなはち、水田土壌の整備の場合、客土、深耕、破砕、締固め等の農業土木的手段を駆使して、土性は砂質ロームないし粘土とし、作土厚さは20cm程度、有効土層の厚さは50cm程度、減水深は5mmないし10mm程度、最小透水係数は10-5cm/secないし10-6cm/sec程度、地耐力は代かき時も刈取り期も耕盤層で2.0kgf/cm2以上とすることが良い。

 畑土壌の整備の場合では、土性は同じく砂質ロームから粘土、土壌硬度は10mmから24mm程度、間隙率は30%から80%程度、作土厚さは20cm以上、有効土層の厚さは40cmから100cm程度、PF1.8水分が10%から30%程度でPF1.8-3.0水分が10%以上、飽和透水係数は20mm/day以上とすることが良い。

 土水路、小ため池および土堤の建設では、土性は現況のままでも含水比を慎重に最適含水比に調整し破砕や締固めを入念に行い、乾燥密度を1.3g/cm3から1.6g/cm3、飽和透水係数は10-7cm/secを目標とすると良い。

 農道の路床の整備は、同じく現況の土性のままで破砕や締固めを入念にし、含水比を最適含水比より乾燥側に調整して、乾燥密度を1.1g/cm3近く、一軸圧縮強さを3.0kgf/cm2程度に目標を置くと良い。

審査要旨

 インドネシア国西ジャワ地区では、食料生産の振興を目指して多様な土地改良事業を推進しているが、この地区に分布する土壌の物理性・力学性の現況と工学的変化に関する情報が少ないために、農業土木的な改良手法の選択および改良目標の設定に困難を来している。

 本論文は、そこで、西ジャワ地区の代表土壌としてダルマガ地区およびセルポン地区のラトソル土壌、ならびに赤黄色ポドソル土壌、沖積土壌を取り上げ、それらの水田土壌および畑土壌について把握しうる限りの物理性・力学性をJISに準拠した試験法によって詳細に明らかにし、とくにラトソル土壌について締め固めによる物理性・力学性の変化の形態を試験して、土木的手法による改良の可能性を探り、指針を作成しようとしたものである。論文は7章よりなり、次のような成果にまとめられる。

 1、まず、現況水田土壌の物理性であるが、いずれも粘土に分類され、乾燥密度が1.1g/cm3前後と比較的大きい。とくに赤黄色ポドソル土壌では1.6g/cm3と砂質土なみの大きさである。水分特性は、PF3.0でダルマガ地区の土壌は空気侵入水分の2/3に滅じるが、他の土壌ではなお空気侵入水分に近い多量の水分を保持するものである。飽和透水系数は、赤黄色ポドソル土壌では10-3cm/secと大きいが、他の土壌では10-6cm/sec前後と小さい。土壌硬度は、赤黄色ポドソル土壌は1.0MPa前後であるが、その他の土壌は0.5MPa以下と極めて軟らかい。液性限界は80%前後にあるが、赤黄色ポドソル土壌は60%前後にあり、いずれも塑性図上ではA線沿いに位置する。

 2、同じく力学性では、見かけの粘着力はいずれも0.2kgf/cm2以下で極めて小さい。せん断抵抗角はダルマガ地区のラトソル土壌と赤黄色ポドソル土壌で10度前後であり、セルポン地区のラトソル土壌および沖積土では5度前後である。突き固めによる最大乾燥密度は、ラトソル土壌では含水比35%前後で1.3g/cm3、赤黄色ポドソル土壌では含水比25%前後で1.6g/cm3となるが、沖積土は日本の火山灰土のように含水比の低下にともない1.2g/cm3から1.4g/cm3以上にまで徐々に増加すること等を見つけた。

 3、次いで、現況畑土壌の物理性・力学性について、乾燥履歴を受けた場合の変化として解釈し、土性も乾燥密度も水田土壌のものと変わらない。固相率も差はない。水分特性は、セルポン地区のラトソル土壌と沖積土は低水分保持側に変化する。飽和透水系数は、いずれも10-3から10-4cm/secと際だって大きく変化する。土壌硬度は、沖積土の60cm以深でも1.5MP、その他の土壌でも1.0MPa程度と極めて硬く変る。液性限界は、沖積土で小さく変わる。塑性図上では、ラトソル土壌はD線沿いに変位する。見かけの粘着力およびせん断抵抗角は、いずれも2倍以上に大きくなる。突き固めでは、最適含水比がやや大きくなり最大乾燥密度もやや大きく変わるぐらいであるが、沖積土ではピーク示すようになること等を示した。

 4、ダルマガ地区に広く分布するラトソル土壌の撹乱土を突き固めた場合の物理性・力学性の変化では、1.2g/cm3の最大乾燥密度が得られ、その最適含水比は40%である。飽和透水系数は約1×10-7cm/secが得られる。また一軸圧縮強さは、最適含水比より低水分量すなはち約30%で突き固めたときに約3.7kg/cm2が得られる。また、さらに60回の打撃を加えても乾燥密度は表層のみで約1.3g/cm3と僅かに増えるが、飽和透水系数はほとんど変化しない事を示した。

 5、以上のことから西ジャワ地区の農業土木的土地改良指針について、現況土壌を活用して、水田整備の場合、客土、深耕、破砕、締固め等の農業土木的手段を駆使すれば、減水深は5mmないし10mm程度、地耐力は代かき時も刈取り期も耕盤層で2.0kgf/cm2以上とすることが出来る。畑整備の場合でも、間隙率は30%から80%程度、有効土層は40cmから100cm程度、PF1.8水分が10%から30%程度でPF1.8-3.0水分が10%以上とすることが出来る。土水路、小溜池および土堤の建設では、含水比を最適含水比に調整し破砕や締固めを入念に行えば、乾燥密度を1.3g/cm3から1.6g/cm3、飽和透水係数は10-7cm/secを目標とすることが出来る。農道の路床整備も、一軸圧縮強さを3.0kgf/cm2程度に目標を置くことが出来ると結論づけた。

 以上要するに、本論文は、西ジャワ地区の代表土壌の多様な物理性・力学性および土木的手段によるそれらの変化傾向を詳細に明らかにした上で、これを総括的に解釈して土地改良事業における土工の指針を策定し、作物生産の発展に寄与したもので、農地環境工学、水利環境工学および環境地水学の学術上、応用上貢献するところが少なくない。

 よって、審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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