No | 213112 | |
著者(漢字) | 高橋,盛男 | |
著者(英字) | Takahashi,Morio | |
著者(カナ) | タカハシ,モリオ | |
標題(和) | 胃潰瘍修復過程に於けるhepatocyte growth factorの役割 | |
標題(洋) | ROLE OF HEPATOCYTE GROWTH FACTOR IN THE REPAIR PROCESS OF GASTRIC ULCER | |
報告番号 | 213112 | |
報告番号 | 乙13112 | |
学位授与日 | 1996.12.25 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第13112号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 潰瘍修復の過程で様々な増殖因子が役割を持つことはよく認知されている。因子はそれぞれの修復過程で誘導され産生される。そして細胞の遊走、増殖、分化などの作用を通じて修復に貢献すると考えられる。hepatocyte growth factorは肝細胞の増殖促進因子として精製され、同定された。線維芽細胞やKupffer細胞の様な間葉系細胞で産生され上皮細胞に作用することが知られている。HGFの受容体であるc-METが胃粘膜に存在することは報告されているが、胃粘膜におけるHGFの役割に関して報告はない。 本研究では内因性及び外因性HGFの胃粘膜上皮細胞に対する作用を家兎胃粘膜細胞を用いたin-vitroの系で検討するとともに人胃潰瘍における役割も示したい。 1.初代培養家兎胃粘膜上皮細胞は家兎より胃を摘出し、胃粘膜を剥ぎ取り、細切後、コラゲナーゼ、EDTAを用いて胃粘膜上皮を分離した。分離した細胞は10%FBS入りF-12培養液にて培養した。線維芽細胞は同様の方法で3-4週間培養を継続することにより得られた。2.増殖の評価;crystal violet staining法、ならびに[3H]-thymidine-incorporation法にて評価した。3. Binding assay;胃粘膜上皮細胞の単層培養に125I-HGFと非標識HGF適当な割合で1時間、10℃で作用させた。そして洗浄後,NaOHで溶解し細胞に結合した125I-HGFの放射線を HGFは初代培養家兎胃粘膜上皮細胞の増殖を容量依存的に促進した。またEGF,インスリンも容量依存的に増殖を促進したが、それらの最大値と比較して最も著明に促進した。HGFの増殖促進作用はEGF,インスリンと相加的であった。HGFの増殖効果はチロシンキナーゼ拮抗薬であるgenisteinにより抑制された。また、HGFにより胃粘膜上皮細胞内のCa2+は上昇しなかった。 HGFは胃粘膜上皮細胞のrestitutionを他の因子と比べ極めて著明に促進した。 HGFは胃粘膜上皮細胞に対し特異的結合を示し、Scatchard analysisによりKd値は32±19.7pMであり、細胞当りの受容体数は488±124であった。(95% confidence interval) 線維芽細胞調製液にも上皮細胞の増殖促進作用ならびにrestitution促進作用がみられ、それは坑HGF抗体にて抑制された。 Northern blotによりHGF-mRNAの発現は胃粘膜線維芽細胞に認められたが上皮細胞にはなかった。 c-met mRNAは胃粘膜上皮細胞に発現していたが、胃粘膜線維芽細胞には発現が認められなかった。 免疫組織化学により人胃潰瘍辺緑の線維芽細胞にHGFは局在していた。 RT-PCR法により正常粘膜に比べ胃潰瘍辺縁にHGFmRNAは高発現していた。 胃粘膜の修復における増殖因子の役割は今迄に指摘されてきた。特に胃粘膜上皮細胞に関してはEGF,インスリン等が増殖を促進することにより修復に関与することが明らかにされてきた。ここでは肝細胞増殖因子が胃粘膜上皮細胞の増殖を促進するのか、またこれらの増殖因子と比べてどうなのかを調べた。外因性HGFは胃粘膜上皮細胞の増殖を促進するのみならず他の因子と比べて低濃度でかつ同程度以上に増殖促進することが示された。 HGFは胃粘膜上皮細胞の増殖を強く促進することは示されたが、胃粘膜修復においては、特に修復初期において遊走が重要である。いままでHGFを含め、増殖因子の遊走促進作用について知見はなかった。そこで培養細胞を用いたin vitroの系でrestitutionを評価する方法を開発した。この系では増殖はほとんど関与せず遊走のみに依存していた。外因性HGFは有意にrestitutionを促進し、それはEGFや10%FBSと比較してもより著明であった。以上よりHGFの胃粘膜上皮細胞修復における潜在的可能性が示唆された。 Binding assayにより、また受容体であるc-met mRNAの胃粘膜上皮における発現も確認し、これらHGFの作用が特異的受容体を介したものであることが確認された。 HGFが胃において生理的意味を持つのであれば内因性にHGFが存在するはずである。またその作用様式はどのようなものか興味深い。一般にHGFは間葉系細胞で産生され上皮系細胞に作用する。また様式としてはパラクラインで作用すると考えられている。しかし同一の組織でこの関係は未だに証明されていない。そこで本研究では粘膜上皮の下に存在する胃粘膜線維芽細胞でHGFは産生され、上皮に作用するのではないかという仮説をたてた。胃粘膜より線維芽細胞を培養しその培養調整液を胃粘膜上皮に作用させた。調製液は胃粘膜上皮細胞の増殖を促進し、その作用は坑HGF抗体で抑制された。これらの線維芽細胞と胃粘膜上皮細胞は全く同じ家兎胃粘膜組織から得られた細胞であることを考慮すると、この事実は仮説を強く支持するものであった。本研究ではさらに人胃潰瘍におけるHGFの役割を検証する意味で潰瘍辺縁におけるHGFの発現を調べた。RT-PCR法でも、また免疫組織化学でも潰瘍辺縁ではHGFは高発現していることが確認された。 以上、総合するとHGFは胃潰瘍辺縁において線維芽細胞で強く産生され、隣接する上皮細胞に作用して修復を促進することが示唆された。 | |
審査要旨 | 本研究では外因性HGFの胃粘膜上皮細胞に対する作用を初代培養家兎胃粘膜細胞を用いたin-vitroの系で検討し、また胃潰瘍に於ける内因性HGFの発現を明らかにし、HGFの人胃潰瘍における役割を示すことを目的としている。下記の結果を得ている。 1.HGFは初代培養家兎胃粘膜上皮細胞の増殖を容量依存的に促進した。またEGF,インスリンも容量依存的に増殖を促進したが、それらの最大値と比較して最も著明に促進した。HGFの増殖促進作用はEGF,インスリンと相加的であった。HGFの増殖効果はチロシンキナーゼ拮抗薬であるgenisteinにより抑制された。また、HGFにより胃粘膜上皮細胞内のCa2+は上昇しなかった。 2.初代培養家兎胃粘膜上皮細胞を用いた系にて、HGFは胃粘膜上皮細胞のrestitutionを他の因子と比べ極めて著明に促進した。 3.培養胃粘膜上皮細胞を用いてHGFのBinding assayを施行したところ、HGFは胃粘膜上皮細胞に対し特異的結合を示し、Scatchard analysisによりKd値は32±19.7pMであり、細胞当りの受容体数は488±124であった。(95% confidence interval) 4.線維芽細胞調製液にも上皮細胞の増殖促進作用ならびにrestitution促進作用がみられ、それは坑HGF抗体にて抑制された。 5.Northern blotによりHGF-mRNAの発現は胃粘膜線維芽細胞に認められたが上皮細胞にはなかった。 6.胃粘膜細胞に於けるHGFの特異的受容体c-met mRNAの発現 HGFの特異的受容体、c-mct mRNAは胃粘膜上皮細胞に発現していたが、胃粘膜線維芽細胞には発現が認められなかった。 7.免疫組織化学により人胃潰瘍辺縁の線維芽細胞にHGFは局在していた。 8.RT-PCR法により正常粘膜に比べ胃潰瘍辺縁にHGFmRNAは高発現していた。 以上、本論文はHGFが胃潰瘍辺縁に於て胃線維芽細胞で産生され上皮細胞に作用しその遊走、増殖を促進することにより潰瘍修復に働いていることを明らかにした。本研究は胃潰瘍に於けるHGFの役割を初めて示し、潰瘍修復のメカニズム解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に価するものと考えられる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/50687 |