本研究は、近年開発されたWorld Wide Web(WWW)が多施設臨床試験のデータ管理システムの構築のために優れた特徴を持つことに着目し、WWWによる症例登録・割付システムを開発して試験運用を行うことにより、実際の環境での運用可能性を検証するとともに、実用化のために解決すべき問題を指摘し、その解決策を提案したものである。 1.コンピュータの知識に乏しいことが通常の医師に利用してもらうユーザーインターフェイスとしては、Graphical User Interface(GUI)が望ましい。WWWは、他のGUI構築法と比較して、ほぼすべての機種のコンピュータをクライアントとして使用でき、各臨床試験毎にクライアント側に新たにソフトウエアをインストールする必要がない等の、コンピュータ環境の異なる互いに離れた施設が共同して行う多施設臨床試験のデータ管理システムのGUI構築に特に適した特徴を持つことを指摘し、WWWによる多施設臨床試験データ管理システムの構築を提唱するとともに、1)病院の環境でも容易に実現可能で安全度の高いセキュリティ保護方法の開発、2)臨床試験の施行期間が数ヶ月から数年と短いことから必要となる短時間で安価にデータ管理プログラムを開発するための実際的な方法の確立、3)医師を対象としてシステムの試験運用を行うことによる運用可能性の検証の3つ課題の解決が、実用化のために必要であることを論じた。 2.医療関連機関のファイアーウォール上にプロキシーサーバーを設置して、ファイアウォール上でデータの暗号化と施設同士の相互認証を行って各施設間を接続し、更にデータの暗号化とクライアント・サーバー間の認証を行う安全なネームサービスを導入することによって、ソフトウエアのみによるHTTPベースの仮想閉鎖ネットワークをインターネット上に構築するシステム(C-HTTP)を提案し、その実装を行った。このシステムは、各医師が個別に暗号・認証関係の設定を行わなくても、従来のクライアントをそのまま使用しながら、セキュリティを保護することが可能であり、コンピュータに習熟していない医師でも容易に利用が可能な点、及び個人レベルのセキュリティ管理に依存することなく施設レベルでのセキュリティ保護を行える点に特徴がある。 3.WWWによる入力データを処理するCGI(Common Gateway Interface)プログラムを自動生成するプログラムを設計し、実装した。本プログラムの特長は、1)メモリーオーバーライトやメタキャラクターのチェック等のセキュリティ保護機能を持ち、2)入力項目の欠損やデータ型のチェックが可能なCGIプログラムを生成できることにあり、本プログラムを使用することにより医学分野での使用に耐える安全で信頼性の高いCGIプログラムを短期間で安価に開発することが可能である。 4.WWWを利用した多施設臨床試験の症例登録・割付プログラムを開発して、試験運用を行い、現実の運用環境における実用性を立証した。開発したシステムは、18項目のチェックリストに対して欠損値や不正データのチェックを行った後に、症例の適格性チェックを行い、適格であれば最小化法による動的平衡割付で対照群と治療群に割付を行い、不適格であればその理由を表示するものである。3施設の医師、計30人の評価結果は、操作法の容易さ(「非常に容易」と「容易」をあわせて96.7%)、レスポンススピード(「非常に速い」と「速い」をあわせて90.0%)、FAXや電話と比較した場合の相対的な便利さ(「非常に便利」、「便利」及び「やや便利」をあわせて96.6%)と非常に良好なものであった。 以上、本研究は多施設臨床試験のデータ管理にWWWを用いることの多大な利点に着目し、WWWによる症例登録・割付システムの開発及びその試験運用を行った世界で最初の試みであるとともに、病院の環境でも運用が容易なセキュリティ管理方法を提案し、臨床試験での使用に耐える安全で信頼性の高いCGIプログラムの効率的な開発方法を提示する等、実用化のために必要な課題についての具体的かつ実際的な解決方法の提案を行っている。これらの結果は、今後のネットワークを利用した臨床研究のデータ管理の実用化に重要な役割を果たすものであり、更に医師主導の質の高い臨床医学研究を簡便かつ安価な経費で行うための重要な技術的基盤として臨床医学の進歩に貢献をなすと期待され、学位の授与に値する考えられる。 |