本研究は高齢者や合併症を有する症例に対する、肺癌などの肺疾患に対する手術の必要性が今後増加し、その重要性が増加すると考えられる胸腔鏡下手術手技を用いた低侵襲の肺葉切除術の術式を開発し、この術式を用いた手術が安全に行い得るかどうかの検討を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.胸腔鏡下手術手技を用いて肺の手術を行う場合に、助手が使用するモニターを術者の背側に倒立に置くことにより、助手が術者と同一の前後左右感覚を得ることができることが示された。 2.胸腔鏡下手術で肺葉切除術を行う場合には、胸腔の大きさが限定されているため、葉間からアプローチし、通常の肺静脈、肺動脈、気管支の順に処理するかわりに肺動脈、気管支、肺静脈の順に処理を行うと手技的に容易であることが示された。 3.内視鏡下で使用するための30cmの長さの柄の付いた綿球と、内視鏡下手術用の直角鉗子を開発した。これらの器械は肺動静脈、気管支の安全な剥離に有用であることが示された。 4.今回の術式を体重60から90kgの豚17頭に用いたところ、出血量が少なく、手術時間も2時間前後で行い得ることが示された。 5.この手技を実際に臨床で肺区域切除術に用いてみたところ、有用で安全に胸腔鏡下の区域切除を行い得た。 以上、本論文は胸腔鏡下手術手技を使用した、低侵襲の肺葉切除術が大動物において安全に行い得ることを明らかにした。本研究は従来、治療法がないとして放置されてきた、高齢者やハイリスクの肺癌患者にも、外科治療を行い得る可能性のあることを明らかにした。高齢化社会を迎え、高齢者肺癌治療に於て重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |