一般用医薬品の使用は、高齢化等により疾病構造が変化しため増加の一途を辿っている。一方、医療費の増加が社会問題となり、処方箋薬から一般用医薬品へのスイッチ化の動きがある。一般用医薬品は使用、評価の面において医療用医薬品と異なるにも拘らず、同じ視点で扱われるために研究・開発上問題が多い。 一般用医薬品の重要性が高まる中、厚生省は将来の医薬品のあり方を検討するために昭和57年に懇談会を設け二年後に答申を出した。引き続き製薬団体においても特別委員会を設置し検討を行った。著者はこれらの委員会に専門委員として参加し、厚生省に提出した著者の論文の主旨が、後に「一般用医薬品の評価に関する研究班」として組織された。これらの委員会、研究班の討議の結論は、 1.一般用医薬品に疾病予防、初期治療、病後ケア等の機能を充実・付加させること。 2.そのために新しい守備範囲を画定しその評価法を設定すること。 等を提言し、一般用医薬品の保健・医療の領域における重要性の認識から対策の必要性を答申したが、その後一般用医薬品の研究は進まなかった。 著者は一般用医薬品にこのような機能を持たせ、新しい評価を与えるためには一般用医薬品に関する本格的な研究が必要であるとし、一般用医薬品の発展の背景、経緯とその特殊性に注目し、特に適用対象の生理臨床的分析、薬理学的及び生理学的作用の特性面を検討し、以下一般用医薬品に関する新しい知見を提出した。 1.一般用医薬品の研究・開発、並びに承認についての問題点 欧米においては膨大な医療費削減のために、処方箋薬のスイッチOTC化をはじめビタミンの予防機能、栄養食品表示・健康食品表示等の薬効的機能の付加等新しいセルフケアを意識した医薬品政策が積極的に展開されている。 わが国の医薬品の基本理念としては、医薬品は「疾病治療」用の医療用医薬品が中心におかれ、将来の高齢化社会における健康維持・疾病予防について地域の保健・医療システムに関する対策が乏しい。 一般用医薬品は、行政的には「医療用医薬品以外の医薬品」という取り扱いで、企業、学界にその魅力を失わせ本格的な研究・開発を阻害している。一般用医薬品の新しい研究・開発への重要な根拠として薬物の生理的作用を加味することを指摘した。 2.「薬効分類」は医療用医薬品の立場からで、一般用医薬品の分類に当てはめるには無理があること 現在の薬効分類は、医師の診断に基づく疾病治療の薬効を一覧にしたもので、医師が薬物治療に使う医薬品の分類である。一般用医薬品は医師の管理外で使用されるものであることから、一般用医薬品の承認は特に処方・成分量について、「安全性」が「有効性」の確保以上に配慮される。「安全性」の問題以外についても一般用医薬品の適用・目的・効能効果は、使用者が臨床的判断ができないにも拘らず、臨床医学の症候に基本がおかれている。また一般用医薬品に認められている薬効群はこの医療用薬効分類の中に位置づけられているため、一般用医薬品の研究・開発は医療用と同じ領域において行はざるを得ないことを指摘した。 3.一般用医薬品の評価に対する新しい考え方と独自の分類案の提出 一般用医薬品の主な「薬効群」については承認基準が設定されている。それ以外の薬効群については「緩和な薬理活性」を評価する審査の受け皿区分がないため、一般用医薬品の臨床効果とパラレルな薬理作用を評価することができない。ここに一般用医薬品の創薬研究が進展しない背景がある。 一般用医薬品は、その薬効の意味を臨床医学の知識のない一般人が用いるものである点から考えると、一般用医薬品の薬理活性は医療用医薬品とは異なる使用者特有の薬効の領域区分を与えることができるのではないかと仮定し、新しく新規区分(分類)を提起した。それは薬事法の定義から、一般用医薬品の目的と生理的・薬理的特性からの解析に基づいて提出したABCD四群に大別した考え方である。それは医療用医薬品の薬効とは異なる「緩和な薬効」と生体への生理作用を薬効群として評価するもので、一般用医薬品の独自の薬理活性に生理作用を加味した考え方である。 4.予防効果をもった一般用医薬品の提案 今後、潜伏期間の長い慢性疾患の増加が予測されている。動脈硬化症、高血圧症、痴呆や老化等は長期的に動脈血流の維持・改善、神経細胞機能・代謝の維持改善等を図ることによりある程度抑制が可能である。これらを目標として一部の生理的対象に対する一般用医薬品に予防薬を提案した。 5.薬剤師が参加する新臨床試験法の提出 薬局薬剤師の専門知識・問診技術は、すでに漢方薬局製剤取り扱い上求められているが、職能水準を一層充実させ一般用医薬品の特定分野に限って、開業医と薬局薬剤師の連携により行う臨床的試験法を新しく考案した。この試験法は被験者の申告に基づく臨床試験で、開始時と終了時を医師が総括する。その間を薬剤師がフォローし服薬指導を通して経過のチェックを行うものである。 本研究は、高齢化社会における保健と医療に重要な役割をもつ一般用医薬品の研究及び全く陽の当たっていなかった分野を開拓したもので、社会に貢献することが大きく、博士(薬学)の学位を授与するにふさわしいものと判断した。 |