学位論文要旨



No 213138
著者(漢字) 山本,仁志
著者(英字)
著者(カナ) ヤマモト,マサシ
標題(和) 林道機能維持に関わる林道路面の特性と評価法に関する研究
標題(洋)
報告番号 213138
報告番号 乙13138
学位授与日 1997.01.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第13138号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小林,洋司
 東京大学 教授 太田,猛彦
 東京大学 教授 箕輪,光博
 東京大学 助教授 酒井,秀夫
 東京大学 助教授 仁多見,俊夫
内容要旨

 林道機能維持は,森林の保全と林業の活性化の持続のために必要である。林道機能維持には,林道の維持補修時期,範囲を客感的に決定しなければならない。そのためには,林道の良否の評価法がいる。しかし林道は,広大な山地に林道網を形成し,その延長も長い。一般道路の平坦性は,走行や交通の安全と快適さのために路面の凹凸を種々の測定機によって測定し,一定の基準化された評価法で,維持補修がなされている。林道においても同様に平坦性の確保は必要である。筆者は,林道路面の平坦性の測定には,特別な機材装置を使用することなく,迅速で,かつ適切な測定ができ,集計結果も順位判定が明確な単純なものである評価法が望ましいと考える。林道路面の平坦性については,一般道路や自動車工学で行われる車両の走行機能や耐久性に関与する振動源としての路面凹凸ではなく,振動源も含まれるが林道機能維持に関与する水溜まりを生ずる窪みや轍掘れ,雨裂,切取りのり面から生ずる崩落土砂の堆積による盛上がりなどを対象とする路面凹凸であり,路面表面の凹凸そのものである。砂利舗装の砂利や細骨材の粒径による小さな凹凸は除外する。そこで,林道機能維持に関わる要因の一つとして,路面の凹凸と切取りのり面の崩土を考えた。林道機能維持管理のために,林道路面視覚的評価法と切取りのり面崩落土砂量推定法を論議し,林道機能維持管理の指標を探求するものである。

 第一章では,林道路面の特質を挙げ,林道維持とそれに関わる切取りのり面崩落土砂について述べた。一般に林道の維持管理は,行政的立場からは,現状の規格,構造のまま適切に保持する行為をいうが,車両通行をより安全に,かつ快適にするために局所的構造の改良(カーブの拡幅,道路標識の設置など)および質的向上(路盤改良など)を図ることが林道耐用年数の面からも必要とされている。特に,近年緑資源に対する国民の関心の高まりから,林業以外の車両は,増加の一途をたどっている。そのため林道機能維持が重要である。また大規模な崩壊もさることながら常時の降雨に対して,少量ながら崩落する土砂量は,のり尻,路面上に堆積,路面の平坦性を失うばかりでなく,大規模な路体破壊につながりかねないと考えられる。

 第二章では,視覚で区分を表現できる調査項目で林道路面良否を分類する林道路面視覚的評価法を述べた。この分類判定を行う調査項目として,林道路面の状況を表し,視覚で区分を表現できる調査項目を数多く取り上げ,林道路面良否を判定するために,視覚的評価を行う基準尺度・物指を作成した。いくつかの路面の状態を表す形容的表現項目として13アイテム・39カテゴリーをあげ,数量化理論に基づいて,カテゴリー量と林道路面サンプル量の区分領域を算定した。しかしながら,実際に13調査項目について検討した結果,この13アイテム39カテゴリーの形容的表現項目の基準尺度では,一般的に利用するには,非常に目盛が複雑であり,林道路面の平坦性の判定には,人的,経済的負担が大きい。その項目の適合性,近似性,調査項目の数をクラスター分析によって検討した結果,7アイテム14カテゴリーにした場合と13アイテム・39カテゴリーした場合とでは,相関係数がほとんど変わらなかった。この調査項目に数量化II類よって,カテゴリーに点数を与え,カテゴリーにより対象林道路面の良否を分類判定する。新たに判定しょうとする林道路面に対して該当するカテゴリーを調査し,林道路面のカテゴリー点数の総合計が-0.6027より小さければ,林道路面が良い,-0.6027から0.3389の間にあれば,林道路面は普通,0.3389より大きければ,林道路面が悪いと判定できる。この7つのフルイ分けを,林道路面の凹凸を計る平坦性評価の基準尺度とした。

 第三章では,林道路面良否にかかわる林道切取りのり面崩落堆積土砂量について新潟大学附属佐渡演習林と国有林五頭山塊の6林道において,のり面形状測量を行った。切取りのり面崩落堆積土砂量に関する環境要因として,のり面勾配,地形勾配,のり長,切込み量,標高,のり面方位,のり面位置,のり面形状型の8アイテムをとりあげ,データ数499個から崩落堆積土砂量を数量化I類を用いて推定した。切取りのり面崩落土砂量を8のり面形状要因から数量化I類によって推定した結果,その重相関係数は,0.66であった。また,土の基本的性質を示す林道切取りのり面表土の11土質工学的要因で,同様に推定したところ土質工学的要因に対する重相関係数は,0.73と高くなった。観測,データ解析の負担を軽減する立場から,重相関係数を低くすることなく,できるだけ要因の数を減らすことを試みた。土の含水量と2,000m標準フルイ通過率の2土質工学的要因とのり面方位,のり長,のり勾配,のり面形状型の4のり面形状要因とで,崩落土砂量の推定を行った結果,重相関係数は,0.78の結果が得られた。これを合理的な切取りのり面崩落土砂量の推定法とした。

 第四章では,林道保全上の問題としては,車両による振動源も含まれるが,本研究では,窪み,轍掘れなどの路面の凹凸に雨水の排水が滞留することによる路体維持の影響に重点を置き,視覚的に識別できるような路面凹凸を含むプロフィルを対象とした。このため,路面の凹凸をレベルと標尺を用いて,直接測定する方法と,2mのベースライン(ポールを水平に置く)に対する凹凸を測定する方法とにより,一定区間(2m)ごとの最大凹凸量と波形を解析,検討した。平坦性の特質を明らかにするために,林道の凹凸をMEM法(スペクトル推定法の一つ)によるパワースペクトル分析によって周波数,スペクトル量を求めた。平坦性にかかわる路面凹凸(窪み)の大小と深さについて分析し,スペクトル量の大きなもの程窪みの深さが深くなることが分かった。また,視覚的に認識できる窪み(2m以下の窪み)を解析したところ,1.3mの波長が顕著であることから,林道路面視覚的評価法における「1m以上窪み」に相当すると考えられ,視覚的評価法の路面凹凸の一つの基準が得られた。

 第五章,第六章では,林道路面の良否を総合的に評価するための総合考察とまとめである。適切な搬出計画と林野管理を行うために,対象路網の路面の良否のランクづけが必要となる。あるいは林道維持のために,維持補修の時期,期間,規模,経済性などを考慮して,毎年春或いは森林管理作業計画時に短期間の調査が必要である。そのためには簡易な調査方法と迅速な解析方法が要求される。林道良否の決定方法の一つに林道路面の凹凸,平坦性の評価と切取り面の崩落土砂量の評価がある。また,林道網を短期間に評価することにより,林道の良否の適切な順位づけも可能となる。林道路面視覚的評価法と切取りのり面崩落土砂量推定法は,調査が単純で特別な機材装置を使用することなく,迅速に,かつ適切に行え,データの集計解析が早く,基準化された結果であるという目的に沿ったものと考えられる。この調査に必要な調査用具は,視覚的林道路面項目調査用紙,切取りのり面崩落土砂量推定項目用紙,のり面形状型カード,クリノメータ,メートル縄,土砂採取用具,土砂採取袋であり,データ解析に必要な用具は,2,000m標準フルイ,土砂乾燥用具,はかりである。

 新潟県民有林林道に林道路面視覚的評価法を適用したところ,良い路面,悪い路面が判定できた。また崩落土砂量の推定では,角田山の林道切取りのり面で,切取りのり面ごとの土砂量の多い少ないという順位がついた。

 この視覚的評価法と土砂量推定法は,林道メンテナンス定規で,林道路面の視覚的観測と切取りのり面の簡易な測定によって,林道路面の平坦性及び切取りのり面の状態を評価判定し,定量的順位づけが行える林道機能維持の判定法である。

 要するに本研究は林道機能維持管理のために,林道路面の評価を目的として路面凹凸の視覚的評価法と切取りのり面崩落土砂量推定法を探求したものである。

審査要旨

 林道の機能維持は、森林の保全と林業の活性化にとって重要である。林道の機能維持には、林道の維持補修時期、範囲を客観的に決定するために、林道の良否の評価法を確立することが必要である。そこで本論文は、林道の機能維持に関わる要因として、路面の凹凸と切取りのり面の崩土を対象とし、林道の機能維持管理のために、林道路面の視覚的評価法と切取りのり面崩落土砂量推定法を検討し、林道の機能維持管理の指標を究明したものである。

 第1章では、林道路面の特質と林道維持に関わる切取りのり面崩落土砂について概説している。

 第2章では、林道路面の視覚的評価法を述べている。この分類判定を行う調査項目として、林道路面の状況を評価し、視覚で表現できる調査項目を数多く取り上げ、その項目の適合性、近似性について、調査項目の数をクラスター分析で検討し、7アイテム・14カテゴリーを抽出した。この調査項目に数量化II類によって、カテゴリーに点数を与え、対象林道路面の良否を分類判定する。新たに判定しようとする林道路面に対して該当するカテゴリーを調査し、林道路面のカテゴリー点数の総合計が-0.603より小さければ良い、-0.603から0.339の間にあれば普通、0.339より大きければ悪いと判定できる。この7アイテムを、林道路面の凹凸を計る平坦性評価の基準尺度とした。

 第3章では、林道維持に関わる切取りのり面崩落土砂量を数量化I類を用いて推定した。切取りのり面崩落土砂量を8つののり面形状要因から数量化I類によって推定した結果、その重相関係数は、0.66であった。一方、11の土質工学的要因で、推定したところ、重相関係数は0.73と高くなった。観測、データ解析の負担を軽減する立場から、重相関係数を低くすることなく、要因の数を減らすことを試みた。その結果、土の含水比と2,000m標準フルイ通過率の2つの土質工学的要因と、のり面方位、のり長、のり勾配、のり面形状型の4つののり面形状要因を抽出した。これを用いて崩落土砂量を推定した結果、重相関係数0.78が得られた。これを合理的な切取りのり面崩落土砂量の推定法とした。

 第4章では、林道路面の凹凸の特質を明らかにするために、林道の凹凸をMEM法(スペクトル推定法の一つ)によるパワースペクトル分析によって検討した、路面凹凸(窪み)の大小と深さを分析したところ、スペクトル量の大きなもの程窪みの深さが深くなることが確認された。また、視覚的に認識できる窪み(2m以下の窪み)を解析すると、1.3mの波長が顕著であった。これは、林道路面視覚的評価法における「1m以上窪み」に相当すると考えられ、視覚的評価法の路面凹凸の基準が得られた。

 第5章、第6章では、林道路面の良否を総合的に評価するための総合考察とまとめである。林道路面視覚的評価法と切取りのり面崩落土砂量推定法は、調査が単純で特別な機材装置を使用することなく、迅速に、かつ適切に行うことができ、データの集計解析が早く、基準化された結果であるという目的に沿ったものと考えられる。新潟県民有林林道にこの林道路面視覚的評価法を適用したところ、良い路面、悪い路面が判定できた。また崩落土砂量の推定では、角田山林道の切取りのり面で、切取りのり面ごとの土砂量の多い少ないという順位をつけることができた。

 この視覚的評価法と土砂量推定法は、林道メンテナンス定規として、林道路面の視覚的観測と切取りのり面の簡易な測定によって、林道路面の平坦性及び切取りのり面の状態を評価判定し、定量的順位づけを行うことができる。本研究は林道機能維持管理のために、路面凹凸の視覚的評価法と切取りのり面崩落土砂量推定法を探求したものである。

 以上のように、本研究は学術上のみならず応用上も価値が高い。よって審査員一同は、本論文が博士(農学)の学位を授与するにふさわしいと判断した。

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