本論文は,複雑な曲面をモデルする際の、レーブグラフによる位相の抽象化と、ホモトピーによる幾何構造の設計と実現について論じている。三次元CADにおいて複雑な形状設計を行なうには,その位相構造を記述し,しかも効率的に処理することが必要である。しかし、従来の三次元形状記述は、多面体近似に基づくものであり、自由曲面からなる物体を系統的に記述することができなかった。この事について、第一章で詳しく述べられている。 これに対して,提出者は臨界点を結ぶレーブグラフおよび輪郭線の包含関係に基づく位相モデルに基づいたホモトピーによる曲面設計を用い、幾何設計を容易にするために、ホモトピーフィレットによる高次設計機能を提案した。第二・三章で、この位相モデルについて説明し、物体の位相構造を編集する方法について提案している。第四章で、臨界点近傍の二つの輪郭線を結ぶフィレットの理論構築を行なっている。これにより、臨界点近傍の二つの輪郭線を結び、単純な物体を連結して、複雑な物体を生成することを可能にした。ハンドルと分岐をフィレットとして付け加えていくことにより、複雑な位相構造をもつ物体が構築できる。そのような構築法は、ベースとなる物体の位置・方向の変化が自動的にフィレットに反映されるという利点を持つ。 第五章で、複数の任意の輪郭線と設計者が指定した軸曲線によるフィレット生成の方法であるホモトピースイープについて提案している。輪郭線は、二次元空間で設計され、ホモトピーが軸カーブに沿った変形を制御する。ホモトピーと軸カーブ(軌道)が同じパラメタを共有することにより、輪郭線変形が三次元空間内で実現される。ホモトピースイープは、軸カーブ(軌道)に沿う変形を行なうと同時に、一方の輪郭線から他方の輪郭線への変形のペースを制御する。この変形ペースは、スカラーの変形制御パラメタの関数として表される。異なる連続性要求を見たす二つの変形制御関数が定義されており、モデル能力を高めるため、互いに垂直な方向のスイープ断面を制御する二つのスケール関数も導入されている。また、ホモトピースイープの複数のセグメントにおけるC1連続性を満たすための十分条件も示した。これにより、間に生成される輪郭線を陽に操作することなく、輪郭線間に生成される形状を制御できるようになった。 第六章では、三角関数を用いて定義される周期的スイープを提案している。これにより、任意の周期の任意の数の輪郭線の周期的変形を制御することが可能となった。基本的に三角関数は、一様な周期的形状しか生成しないため、単位有界変形関数を替わりに導入する。この関数を操作することにより、不規則な繰返し形状を簡単に実現している。 このように本論文は,従来は不可能であった、自由曲面を持つ複雑な曲面を系統的に組み合わせて生成する理論を提案し、それに基づくシステムの実装および検証を行なっている。 なお、本論文第三章は、品川嘉久、國井利泰両氏と、第四章はLoe Kia Fock、品川嘉久、國井利泰各氏と、第五章は、Loe Kia Fock、國井利泰両氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となって理論構築および検証を行なったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 以上のような理由により、審査担当者は,本論文は理学博士の博士(理学)として充分な内容を持つものであると一致して判定した。 |