学位論文要旨



No 213140
著者(漢字) タイ,チュウ ラン
著者(英字) Lan,Tai Chiew
著者(カナ) タイ,チュウ ラン
標題(和) 複雑な曲面をモデルするためのレーブグラフに基づく位相幾何モデルとホモトピー曲面法
標題(洋) Reeb Graph-based Topological Model and Homotopy Surface Schemes for Modeling Complex Surfaces
報告番号 213140
報告番号 乙13140
学位授与日 1997.01.20
学位種別 論文博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 第13140号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 今井,浩
 東京大学 教授 平木,敬
 東京大学 教授 小柳,義夫
 東京大学 教授 萩谷,昌己
 東京大学 講師 品川,嘉久
内容要旨

 本論文は、複雑な曲面をモデルする際の、レーブグラフによる位相の抽象化と、ホモトピーによる幾何表現についての研究を述べる。頂上点、谷底点、鞍点などの臨界点は、形状を抽象化する際の本質的な特徴点となっている。これら臨界点をつなぐレーブグラフは、位相グラフを構成する。ホモトピーは、単位区間からの写像の族であり、幾何設計においては、この写像は、曲線である。三次元空間においては、ホモトピーの軌跡が、これらの曲線をつなぎ、表面を構成する。ホモトピーは、曲線の変形による曲面設計の新しい方法論である。これにより、曲面の次元が三次元空間内での扱いから、二次元空間内の曲線に落ち、制御しやすくなる。

 本論文では、複雑な曲面を生成するため、臨界点を結ぶレーブグラフおよび輪郭線の包含関係にに基づく位相モデルを定式化する。その後、位相構造が幾何構造とともに三次元空間に埋め込まれる。その際に、ホモトピーによる曲面設計を用いる。モース・オイラーオペレータが、モデル化された物体の構築と設計編集の位相的整合性を保つ。

 幾何設計を容易にするために、ホモトピーフィレットによる高次設計機能を提供する。フィレットは、臨界点近傍の二つの輪郭線を結ぶ。より普遍的な枠組で考えると、フィレットは、単純な物体を連結して、複雑な物体を作るツールの役割を果たす。フイレットは、軸曲線に沿った共通基底を生成することによって、基本となる物体二つを連結する。軸曲線は、二つの物体の相対的な向きと、連結されるレール輪郭線の近傍を考慮して生成される。共通基底を通じて、滑らかな連結を保証するよう、レール輪郭線の対応関係が作られる。ハンドルと分岐をフィレットとして付け加えていくことにより、複雑な位相構造をもつ物体を構築できる。そのような構築法は、ベースとなる物体の位置・方向の変化が自動的にフィレットに反映されるという利点を持つ。

 ホモトピーフィレットにおいては、軸曲線は、ベースとなる物体の情報から定義され、生成される曲面はふたつのレール輪郭線をつなぐ。より一般的な設計を支援するため、複数の任意の輪郭線と設計者が指定した軸曲線による曲面設計についても提案する。スイープ法がこの目的に合致する。スイープ法を使えば、三次元空間での面倒な曲線指定も不要になる。その代わりに、スイープ法では、輪郭線の位置と方向の指定は、軸カーブ(軌道)によって行なう。輪郭線は、二次元空間で設計され、ホモトピーが軸カーブに沿った変形を制御する。ホモトピーと軸カーブ(軌道)が同じパラメタを共有することにより、輪郭線変形が三次元空間内で実現される。

 ホモトピースイープは、軸カーブ(軌道)に沿う変形を行なうと同時に、一方の輪郭線から他方の輪郭線への変形のペースを制御する。この変形ペースは、スカラーの変形制御パラメタの関数として表される。異なる連続性要求を見たす二つの変形制御関数が定義される。モデル能力を高めるため、互いに垂直な方向のスイープ断面を制御する二つのスケール関数も導入する。また、ホモトピースイープの複数のセグメントにおけるC1連続性を満たすための十分条件も示す。これにより、間に生成される輪郭線を陽に操作することなく、輪郭線間に生成される形状を制御できるようになった。

 三角関数を用いて定義される周期的スイープは、任意の周期の任意の数の輪郭線の周期的変形を制御する。基本的に三角関数は、一様な周期的形状しか生成しないため、単位有界変形関数を替わりに導入する。この関数を操作することにより、不規則な繰返し形状を簡単に実現することができた。この単純で直観的な制御のおかげで、ユーザはより美しい設計に力をそそぐことができる。花や果実のような、自然界の周期的形状の、小さく、かつランダムな変化は、ランダムに変化させた変形関数による周期的スイープを使えば、容易にモデルすることができる。

審査要旨

 本論文は,複雑な曲面をモデルする際の、レーブグラフによる位相の抽象化と、ホモトピーによる幾何構造の設計と実現について論じている。三次元CADにおいて複雑な形状設計を行なうには,その位相構造を記述し,しかも効率的に処理することが必要である。しかし、従来の三次元形状記述は、多面体近似に基づくものであり、自由曲面からなる物体を系統的に記述することができなかった。この事について、第一章で詳しく述べられている。

 これに対して,提出者は臨界点を結ぶレーブグラフおよび輪郭線の包含関係に基づく位相モデルに基づいたホモトピーによる曲面設計を用い、幾何設計を容易にするために、ホモトピーフィレットによる高次設計機能を提案した。第二・三章で、この位相モデルについて説明し、物体の位相構造を編集する方法について提案している。第四章で、臨界点近傍の二つの輪郭線を結ぶフィレットの理論構築を行なっている。これにより、臨界点近傍の二つの輪郭線を結び、単純な物体を連結して、複雑な物体を生成することを可能にした。ハンドルと分岐をフィレットとして付け加えていくことにより、複雑な位相構造をもつ物体が構築できる。そのような構築法は、ベースとなる物体の位置・方向の変化が自動的にフィレットに反映されるという利点を持つ。

 第五章で、複数の任意の輪郭線と設計者が指定した軸曲線によるフィレット生成の方法であるホモトピースイープについて提案している。輪郭線は、二次元空間で設計され、ホモトピーが軸カーブに沿った変形を制御する。ホモトピーと軸カーブ(軌道)が同じパラメタを共有することにより、輪郭線変形が三次元空間内で実現される。ホモトピースイープは、軸カーブ(軌道)に沿う変形を行なうと同時に、一方の輪郭線から他方の輪郭線への変形のペースを制御する。この変形ペースは、スカラーの変形制御パラメタの関数として表される。異なる連続性要求を見たす二つの変形制御関数が定義されており、モデル能力を高めるため、互いに垂直な方向のスイープ断面を制御する二つのスケール関数も導入されている。また、ホモトピースイープの複数のセグメントにおけるC1連続性を満たすための十分条件も示した。これにより、間に生成される輪郭線を陽に操作することなく、輪郭線間に生成される形状を制御できるようになった。

 第六章では、三角関数を用いて定義される周期的スイープを提案している。これにより、任意の周期の任意の数の輪郭線の周期的変形を制御することが可能となった。基本的に三角関数は、一様な周期的形状しか生成しないため、単位有界変形関数を替わりに導入する。この関数を操作することにより、不規則な繰返し形状を簡単に実現している。

 このように本論文は,従来は不可能であった、自由曲面を持つ複雑な曲面を系統的に組み合わせて生成する理論を提案し、それに基づくシステムの実装および検証を行なっている。

 なお、本論文第三章は、品川嘉久、國井利泰両氏と、第四章はLoe Kia Fock、品川嘉久、國井利泰各氏と、第五章は、Loe Kia Fock、國井利泰両氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となって理論構築および検証を行なったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 以上のような理由により、審査担当者は,本論文は理学博士の博士(理学)として充分な内容を持つものであると一致して判定した。

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