本研究は糖尿病に伴う高脂血症に及ぼすアポリポタンパク質E(アポE)およびリポタンパク質リパーゼ(LPL)の作用を明らかにするため、ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病マウスの高脂血症モデルを作製し、アポEおよびLPL過剰発現トランスジェニックマウスにおける脂質代謝の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.STZ誘発糖尿病マウスの血清脂質を解析した結果、インスリン作用不足に基づく内因性高脂血症が発症することを認めた。 2.STZ誘発糖尿病マウスの血漿中リポタンパク質をHPLCにて解析した結果、VLDL、LDLおよびレムナントが増加する脂質代謝異常であることが示された。 3.高脂血症発症機序として、STZ誘発糖尿病マウスの小腸粘膜細胞中ACAT活性を測定した結果、小腸ACAT活性上昇による食餌性コレステロール吸収の亢進が示された。さらに、脂肪組織の消失を観察しており、脂肪組織LPL活性の欠如によるVLDLの異化障害、脂肪組織からの脂肪動員の亢進による肝臓でのトリグリセリド合成亢進の可能性が示された。 4.アポE過剰発現トランスジェニックマウスを用いてSTZ誘発糖尿病マウスを作製した結果、アポEの過剰発現は、高コレステロール血症発症を約50%抑制し、高トリグリセリド血症発症を完全に抑制することが示された。 5.アポE過剰発現による高脂血症発症の抑制は、過剰発現したアポEがVLDL、LDLおよびレムナントに分布し、これらリポタンパク質の肝リポタンパク質レセプターへの親和性が高まり血中からのクリアランスが促進したためであることが明らかとなった。 6.LPL過剰発現トランスジェニックマウスを用いてSTZ誘発糖尿病マウスを作製した結果、LPLの過剰発現は、高コレステロール血症発症を約71%抑制し、高トリグリセリド血症発症を完全に抑制することが示された。 7.LPL過剰発現による高脂血症発症の抑制は、LPLの過剰発現によりVLDLおよびレムナント中のトリグリセリドが速やかに加水分解され、これらリポタンパク質の代謝促進によって血中からのクリアランスが促進したためであることが明らかとなった。 以上、本論文はSTZ誘発糖尿病マウスが糖尿病に伴う高脂血症モデルとして有用であることを明らかにするとともに、その発症機序を明らかにした。また、アポEおよびLPLの過剰発現が糖尿病に伴う高脂血症の改善に有効であることを明らかにした。本研究はトランスジェニックマウスを用いて特定遺伝子の機能ならびに疾患との関連を解析した報告であり、アポEおよびLPLの糖尿病に伴う高脂血症における役割の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |