学位論文要旨



No 213154
著者(漢字) 舘山,勝
著者(英字)
著者(カナ) タテヤマ,マサル
標題(和) 壁面剛性の効果を利用した補強土擁壁工法に関する研究
標題(洋)
報告番号 213154
報告番号 乙13154
学位授与日 1997.01.30
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13154号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 助教授 小長井,一男
 東京大学 助教授 古関,潤一
 東京大学 助教授 堀,宗朗
内容要旨

 従来の補強土工法では、壁面工は力学的役割を期待されておらず、主に分割壁面が用いられてきた。そこで壁面剛性が異なる5種類の模型補強土壁を作成して載荷試験を行った。

 図-1に載荷重・変位曲線を、図-2にせん断ひずみの等高線を示す。これらの結果から壁面剛性は補強土の安定性に大きく寄与し、特に曲げ剛性を有する一体壁を用いた実験では、分割した壁面工に比べて補強領域の拘束が大きく、破壊耐力が著しく向上することが分った。

図-1 壁面剛性の効果に関する模型実験結果図-2 載荷によるせん断ひずみの等高線

 この結果を基に、剛壁面を用いることを特徴とする2つの補強土工法を提案し開発した。図-3は開発した工法の概要図を示す。一つはジオテキスタイルを用いて鉛直盛土を構築する「補強盛土工法」であり、もう一つは既設盛土のり面を棒状補強材で補強しながら掘削する「盛土のり面急勾配化工法」である。

図-3 開発した2つの工法の概要図

 提案する工法は、局所的に過大に作用する荷重に対しても、全体曲げ剛性を有する壁面工によって力を分配し、全ての補強材で効率良く抵抗させるところに力学的な特長がある。このため従来の分割した壁面工に比べれば、短い補強長で安定を保つことが可能となる。また変形を拘束する効果も得られる。この2つの工法の実用化にあたって各種の模型実験、実物大施工実験、解析、設計・施工法の検討を行った。以下にその概要を示す。

 「補強盛土工法」に関しては、2ウェッジ法を基本とする設計法を提案し、各種感度計算を実施した。その結果、実務に耐え得る設計法であることを確認した。また本工法の補強材として用いるジオテキスタイルの設計強度を定める試験方法を提案し、42種類のジオテキスタイルを実際に試験した。図-4に試験によって求められた設計強度を算定する際に用いる低減係数の一覧を示す。

図-4 ジオテキスタイル設計強度低減係数一覧

 さらに補強盛土工法は一体壁面を有することから、橋台のような大荷重が作用する構造物を設置しても効率よく荷重を分配することができることに着目し、図-5に示す補強土橋台を提案した。この橋台を実現場で適用し、水平載荷試験、動態計測、解析を実施して安定性を確認した。

図-5 補強土橋台(名古屋車両基地)

 その結果、良質な盛土材料を用いて十分に締め固めた場合には、桁長15m程度まで全く問題なく支持できることが明らかになった。

 一方、「のり面急勾配化工法」は、補強盛土工法と異なり列車が走行した状態で盛土を掘削することになるため、特に施工時の変形抑制が重要となる。そこで盛土の掘削に先立ち鉛直地盤改良体を事前に打設する方法(壁面先行工法)を提案し、模型実験、施工実験、計測管理手法などの検討を行った。これらの検討により、掘削時の変形を小さく抑えることができることを確認した。設計法に関しては、概ね補強盛土工法と同様で良いと考えられるが、この工法で用いる補強材は棒状体であり設置角度も任意に設定できる違いがある。そこで設計補強材力の算定の際に設置角度に対する各種の補正係数を考慮することを提案した。図-6は設置角度に対する補正係数を示したものである。これらの研究によって、安全で効率的に盛土のり面を急勾配化する工法の実用化に対する目処を得た。

図-6 設置角度による補強材力の総合補正曲線

 さらに補強の効率化を図る目的で地盤改良の技術を応用した大径補強体を開発し、各種の実験を実施した。この補強体は大径(直径40cm)であるため、従来の補強材(直径5cm程度)に比べて配置密度や補強長が短くなり、著しい経済性の向上が図れる。

 図-7に模型実験結果を示す。大径補強材の場合には曲げ剛性が大きく、それによって高い補強効果が得られることが確認できた。

図-7 補強材剛性の効果に関する模型実験結果

 開発した2つの補強土工法は数多くの現場に適用され、工事費や工期の削減に寄与した。また実施工にあたっては施工時の計測、長期動態計測、列車走行中の動的計測を実施して開発した補強土工法の安定性を検証した。

審査要旨

 明治以前の鉄道・道路建設の基本的土木工事は、盛土・切土等の土工が大半であった。しかし、緩斜面を持つ盛土や切土は占有面積が広いこと、安定性に欠け変形しやすく保守点検に手間が掛かり、また高い構造物が建設しにくいこと等の欠点がある。この理由で、次第に鉄筋コンクリート・鋼構造物にとって替わられてきた。

 しかし現在でもまた将来も、安定な鉛直壁面が経済的に実現できれば、盛土・切土構造物が鉄筋コンクリート・鋼構造物よりも遙かに経済的になる場合が多い。従来鉛直壁面を持つ盛土を建設する場合は、背後の盛土を杭支持された鉄筋コンクリート擁壁で保持する形式が、鉛直のり面を持つ切土を建設する場合も、やはり鉄筋コンクリート擁壁で掘削面を保持する形式が多く採用されてきた。いずれの形式も、盛土・切土自体が自立能力を持つように改善するのではなく、他の擁壁構造物で土からの荷重を抵抗し、さらに擁壁構造物の底面で荷重が集中するために杭基礎等を用いることに特徴がある。

 これに対して、1960年代から盛土・切土内部に引っ張り剛性がある土以外の人工材料を配置して、土内部での引張りひずみの発生を抑制することにより土を強化して自立性を持たせて、壁面構造物とその基礎構造物を著しく簡略する補強土壁工法が開発されてきた。従来は、国内外で一体剛性の無い壁面工を用いていた。論文提出者は、壁面工の一体剛性の力学的役割を明らかにした。また、補強盛土工法では、盛土内に石油化学製品の面状の補強材を配置して、鉛直壁面を持つ盛土の完成後に一体剛性がある壁面工を建設する段階建設法を提案した。また地山を補強する工法の場合では、掘削前に仮設鉛直壁面工を地盤改良工法で建設し、大径の棒状補強材を地山内部に配置しながら段階的に掘削を行い、切土完成後に永久一体壁面工を建設する工法を提案した。いずれの工法も実用化され、鉄道土木工事で広く用いられるようになった。

 博士請求論文の第1編では、これらの補強土構造物が必要とされる経済的・工学的背景と、補強盛土工法と地山補強工法に関する既往の研究をとりまとめたものである。

 第2編は、補強盛土工法における壁面工の一体剛性の力学的役割を明らかにするために行った室内小型模型実験と野外実物大試験の結果をとりまとめている。いずれも、異なる壁面剛性を持つ模型に対して破壊に至る載荷試験を行っており、壁面剛性が高い模型補強構造物の方が安定性が高いことを確認している。また、試験結果を極限釣合法等の方法で数値解析を行い、設計法を開発するための基礎的知見を得ている。

 第3編は、剛な一体壁面工を持つ補強土擁壁工法の現場への適用に関する研究をとりまとめたものであり、現場載荷条件に対する安定性の実験的・解析的検討、設計での安定計算法の開発、補強材の力学的特性・試験法等の研究結果をとりまとめている。

 第4編は、剛な一体壁面工を持つ補強土擁壁の現場での多数の建設事例をまとめ、そこから得られた教訓・知見をとりまとめている。

 第5編は、剛な一体壁面工を持つ地山補強土工法の力学的検討と、この現場への適用に関する研究をとりまとめたものである。室内での異なる壁面剛性を持つ小型補強地山模型と野外での大型模型を破壊に至るまで載荷した実験を行って、壁面工剛性の力学的役割を確認し、その数値解析を行い、設計法を提案している。また、地山との接地面積を格段に大きくした大径棒状補強材を新たに開発していた。

 第5編は、剛な一体壁面工を持つ地山補強土工法の現場での多数の建設事例をまとめ、そこから得られた教訓・知見をとりまとめている。

 第7編は、結論である。

 以上要するに、盛土と切土に対する従来形式の擁壁工法に取って代わることの出来る新しい剛な一体壁面工を持つ補強盛土工法と地山補強工を新たに開発し、その設計法を確立し、実工事で普及させている。これらは、土質工学に分野において貢献することが大である。よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/51029