熱交換器等においては、熱交換を行う部材である管とそれを支持するための部材である管板とを固着させ且つそれら相互間における漏洩を防止する必要があり、その方法として溶接による方法やエキスパンダ加工(拡管加工)による方法等が用いられている。 熱交換器においては、熱交換効率・腐蝕防止等の観点から管と管板に特殊材料・異種材料が採用される場合が多くこの場合には溶接が不可能な場合も多々あり、また、溶接による方法は製作コストが高価につく等々を理由として、エキスパンダ加工による方法が主として採用されている。 ところで、エキスパンダ加工は、材料固有の性質のみを利用するものであり、また、板材及び管材の機械加工に関しそれ程の加工精度を必要とせず且つ手近で行えるため、この加工法は古く19世紀中頃にすでに開発され、その後、拡管工具・方法に種々の発明、改良がなされて今日まで百数十年の永きにわたってボイラーや熱交換器等に利用されてきている。 また、この拡管加工は、熱交換器という多方面に利用される機器に使用される工業上有用性の高い技術であることから、この間、拡管という管の塑性変形について、また、塑性変形と拡管加工の目的である耐漏洩性等についても多種多様の実験研究が行われ、理論研究もなされてきた。 生産管理の面においても、拡管機のトルクをコントロールすることによって管に一定の塑性変形を与えることができ、且つ、それによって一応の耐漏洩性が得られるという経験則から、永年にわたって蓄積されたデータを踏まえて、拡管機のトルクをコントロールするという簡便な手段によって加工精度をコントロールし、管の塑性変形の割合は管の内径の変化を計測して拡管率という数値を一定範囲内に抑えることによって、実用性ある生産管理が行われてきた。 ところで、拡管率という数値は、過去に蓄積された膨大な実績データにより、管および管板の材質、それらの寸法等を考慮して適用されるとしても、その数値そのものが各製造業者の施工技術レベルや作業者の熟練度等によって変動するものであって全製造業者に共通に適用しうるものでもなく、一応の目安程度にすぎないものである。 また、トルクコントロールおよび拡管率による施工管理方法は、作業ミス等により複数回拡管作業を行った場合には大きな拡管率となることから最良のものとも言えない。 さらに、拡管機のトルクは、素材の組み合わせ(管板については材質板厚、管については材質肉厚内径等)の因子の一が変っても変動するものであるから、一の組合わせで得られたデータを他の組合わせのデータとして適用することが困難であり、このため、素材の組合わせ・寸法等が新たな場合は、その都度拡管施工試験を行って確認する必要があり、一方、この施工試験は拡管加工の目的である耐漏洩試験も含め比較的手軽に行えるが故に、各製造業者が適宜行っているきているのが実情である。 その上、その拡管施工試験方法も、拡管についての理論的な裏付けがなされていないため統一的な試験方法は無く、各製造業者が独自の試験方法で行っていることから一般性のないものであり、さらに、拡管加工に関連する多数の因子間の関連性が理論的に解明されていないことから、その試験結果は、その実験に供される素材の組合わせ・素材の形状・それに使用されたマンドレル加工法等の加工全体にのみ適用が限定されるものとならざるを得ない。 従って、拡管技術については、いきおい経験則が支配的となり、現場施工者の経験にもとづく技術を主とし、かかる技術の統一性ある維持を確保すべく施工管理面の強化に主眼が置かれ、これが故に特定分野毎の施工管理の充実が図られる一方、関係全分野に共通するメルクマールごときものは存在していない。 その一方、エキスパンダ加工に関する実験は、「エキスパンダ加工のごとく多くの因子の影響を受ける加工にあっては、単なる実験の積み重ねは、正しい結論を得る上でははなはだ危険といわなければならない。」1性質のものであり、このような本質的な制約に加え前述のごとき諸事情の下で各製造業者が独自に行う施工試験のデータは必然的に普遍性に乏しいものとなり、施工試験結果の互換性は極めて少ないのが現状である。 1文献 エキスパンダー加工技術総覧 丸善株式会社、1966 頁78 エキスパンダ加工についての理論解析は、特定の問題に絞っては行われてきているが、拡管メカニズムを全体的に捉えた理論解析を行うには、マンドレル加工法に起因する単純に理論化できないという困難性、塑性理論を必要とすることよる理論の難解性、加工に寄与する因子の多さから簡易に計算できない等の多くの難問題が立ちはだかっていたため、実用に供し得る解析方法、解析結果は公表されていない。 わずかに発表されている理論解析も、拡管構造を理論化して扱い得るものとするために、二重円筒の二次元問題として、即ち、管板の厚さに等しい長さに内圧が作用し、且つ、二重円筒の円筒間には隙間が無いものとする簡略化の下に行われてきた。 しかし、管孔は管板に多数開孔されることから二重円筒としての理論化は実用上肯定されうるとしても、二重円筒を二次元問題として扱うことは、理論解析の有用性を著しく減殺する。 また、二重円筒の円筒間には隙間が無いとする扱いも、実際は、加工上、隙間の存在は避けて通ることはできず、且つ、隙間が拡管加工に及ぼす影響は無視することができない問題であることから、実用性を一層低いものとしている。 さらに、理論計算も、管と円板(管板)とが同一材料の場合であるとか、外筒の外径が無限大であるとか等の特殊な場合に限定されていたため一層実情との乖離が甚だしいものである。 このような諸理由により、理論解析と実験との比較そのものが不可能であり、従って理論解析の実用性は無に等しいとされてきた。 一方、近年における技術革新の進歩・高度化は、熱交換器にも性能の一層の向上が求められ、高度な材料の組合わせ等による高性能化が要求される一方、低価格が要求されることとなり、又、油圧(液圧)技術等の周辺技術の進歩を反映して、従来のマンドレル方式と異なった液圧又は弾性体(以下「液圧」と総称する。)を利用した新たな拡管技術が広く実用されるようになって来た。 ところで、この「液圧」を利用した拡管技術は、管内部から均等に圧力を加えるものであって、従来のマンドレル方式の拡管技術と性質を異にしており、理論的には、均等内圧を受ける円筒としての十分な理論解析ができれば、拡管のメカニズムを解明して実用に供し得る有用な理論が生み出される可能性が存在する。このような背景から、二重円筒による理論解析の有用性が再認識され且つ重要視されることとなった。 一方、実用性ある理論的な解明が永年なされず放置の状態におかれている実用分野においては、流用性の少ない施工試験を繰り返えしては、実験結果によって知り得た一点と一点との結んで結論を出さざる得ない状況が続いてきており、実用的な解決方法が永年望まれながらその出現がないことから、理論的な解明は不可能という諦観の気運が業界を支配している。 しかしながら、上述の如く、難問題が山積しており、学問的・理論的にのみアプローチを試みたのでは本問題の解決は不可能であり、ここに、19世紀以来、諸賢が試みても解決し得なかった理由があるように思われる。 そこで、本論文では、基本的には弾塑性理論に立脚し、それらの理論が内包する解決不可能な事象・問題については、拡管のメカニズムを 1.弾性変形の面から三次元問題として扱い得るようにするべく、薄肉円筒についての弾性変形理論を誘導して、その理論を厚肉円筒に適用し得るようにし、 2.塑性変形について三次元的に扱い得ることとするために、厚肉単円筒についての降伏実験を多数行い、その実験値を基礎とし、上記薄肉単円筒の弾性変形理論を加味することにより、有用性ある修正手法を確立することとし、 3.二重円筒の円筒間に隙間が存在する問題については、理論式を誘導して、実用性ある理論解を得ることを可能にし、 4.さらに、内・外面から圧力を受ける管の塑性変形についても、理論式を誘導することにより、 実用性ある解析を可能にした。 |