14〜20万klといった大容量の地上式9%Ni鋼製LNG貯槽を実現する場合には、貯槽の最大板厚は40〜50mmとなることから、高じん性な厚肉材の開発、母材、および溶接部の脆性破壊や不安定延性破壊に対する安全性の検証、厚肉化に伴う溶接の効率化と、今後ますます顕在化してくる熟練作業者の不足と高齢化、さらには若手溶接作業者の現場離れに対応できる新しい溶接技術の開発や、品質保証上からは厚肉溶接部の欠陥検出限界を明確にするとともに、従来の携帯式X線装置によるRTでは照射時間が著しく増加することから、非破壊検査の効率化が解決すべき重要な課題である。 本論文は、これら個々の技術的課題に取り組み、十分に信頼性の高い大容量LNG貯槽の建設が可能であることを明らかにしたものである。 本論文は6章より成っている。 第1章は序論であり、本研究の背景および目的についてまとめている。 第2章では低温貯槽の脆性破壊防止のコンセプトと低温貯槽の構造、および国内におけるLNG貯槽の構造、および14〜20万klといった大容量の地上式LNG貯槽を建設するに際しての技術的課題について明らかにしている。 第3章では、最初に9%Ni鋼の溶接の特殊性と9%Ni鋼製LNG貯槽に対する溶接施工法の現状について述べ、信頼性の高い大容量LNG貯槽を建設するにあたっての溶接施工面からの技術的課題を明らかにしている。次にLNG貯槽に適用されている主要溶接法であるSAW法とGTAW法に焦点を絞り、SAW法に関しては独自に開発した高電流密度SAW法とその実用化について、またGTAW法に関しては溶接能率の向上と現地溶接作業の省人化を目的に独自開発を行ったツインパルスホットワイヤ方式を特徴とする遠隔操作GTAW溶接システムの開発と、同装置を用いての狭開先化の検討結果について述べている。高電流SAW法、および遠隔操作GTAW溶接システムはいずれも現地工事に実用化し成果を上げているものである。 第4章では大容量LNG貯槽を対象に新たに開発された板厚38〜55mmの9%Ni鋼とその溶接部の破壊特性に関して各種試験片を用いて膨大な試験により検証し、脆性破壊に対する安全性を、脆性き裂発生阻止性能、および脆性き裂伝播阻止性能の点から検証するとともに、溶接HAZ部に想定したき裂が溶接金属にそれた場合の溶接金属部からの不安定延性破壊に対する安全性の検証を行ったほか、厚肉材に対する破壊防止のための必要じん性値と工業的試験でのじん性値との相関性についても考察を加えている。そして、これらの実証試験により得られた知見について述べている。 第5章では厚肉9%Ni鋼の非破壊検査の効率向上と欠陥検出限界を明確にするため、携帯式300kVpX線装置、および大形の420〜450kVpX線装置と工業用X線フィルムならびに、X線フィルムよりはるかに高感度のイメージングプレートに着目し、放電加工で作成した表面切欠の他に人為的に作成したスラグ巻込み、融合不良、内部き裂に対する欠陥検出限界について検討を行い、イメージングプレートは短時間照射で工業的X線フィルムと同等以上の欠陥識別性を有し、携帯式X線装置を用いて板厚50mmの厚肉材を10分程度の照射時間で検査できることを明らかにするとともに、溶接金属内に人為的に作成したき裂も、開口幅が0.005mmから0.03mm、深さ3.8mm(欠陥特性寸法:1.8mm)程度のものは検出できることを明らかにしている。 第6章は、第5章までに得られた結果を総括したものである。 以上の成果をもとに、新たに開発されたQLT処理の厚肉9%Ni鋼を用いて、すでに世界最大級の14万kl容量のPCLNG貯槽の建設が実現しており、また本研究で開発された遠隔操作溶接システムも、1996年8月より14万klの地下式LNG貯槽屋根部のナックルプレート(9%Ni鋼製、板厚35mm)立向き継手への実用化を果たしているなど、本成果は種々の場で実際に活用され始めている。このように、本論文は、9%Ni鋼を用いたLNG貯槽の実現に対して果たした役割は極めて大きく、工学分野へ多大の貢献を成した。よって本論文は博士(工学)への学位請求論文として合格と認められる。 |