本論文は、熱延プロセス工程を調整することにより、低炭素鋼の材質予測と材質制御を行った結果を述べたものであり、7章よりなっている。 第1章の序論では、熱延鋼材に対する社会的需要と要求について紹介するとともに、研究の背景および目的について述べている。熱延鋼材については、低コスト化を計りつつ高品質化を目指すという厳しい要求が出されている。このため、鋼材の合金成分をなるべく集約化し、材質造り分けは熱延工程の制御によって行うことが一般化しつつある。本章では、材質特性を支配する金属学的要因を整理するとともに、熱延プロセス最適化の方策がまとめて述べられている。 第2章は、オーステナイト()の組織変化を予測するためのモデルの構築とその妥当性を検証した結果を述べている。熱間加工中の鋼材の組織に影響する因子として結晶粒成長、ひずみの動的回復、動的再結晶および静的再結晶を取り上げた。熱間加工シミュレーターを用いた実験結果をもとに、これらの個々の因子の効果を記述するモデル式を導出している。モデル式の導出にあたっては、単なる重回帰式による記述を避け、金属組織学的要因が明確になるような形とするように配慮されている。その結果、導出されたモデル式が様々な加工条件に適用しうるものとなっている。実際に、これらの式をもとに実機における熱延中の結晶粒径変化を予測出来ることを確かめるとともに、圧延材の最終的な結晶粒径を精度よく評価することに成功している。 第3章では、炭素濃度がおよそ0.2wt%以下の低炭素鋼を中心に、からの変態挙動を調べた結果を述べている。等温変態シミュレータによる実験結果をもとに、これらの鋼材の等温変態組織がフェライト()、パーライト、ベイナイトからなっていることを確かめるとともに、変態率をC、Mn量および温度の関数として記述している。また、これらの変態に及ぼすSiの効果および圧延ひずみの効果についても検討を加え、熱延鋼材の組織の面積率を表現する基本式を導いている。 第4章では、低炭素鋼の域圧延材の材質予測を行った結果について述べている。まず、第3章で求めたモデル式を用いて、連続冷却中の変態組織面積率を見積もる方法を確立した。また、/変換比の評価式を実験的に求め、第2章の結果を使って粒径から粒径の見積もりを行っている。さらに、、パーライトおよびベイナイトの硬さを、生成温度、C、Mn、Siの関数として定式化するとともに、これら3つの相の硬さと面積率から降伏応力(YS)、引っ張り強さ(TS)、伸び(EL)を評価する回帰式を導いた。この回帰式は、実機圧延した低炭素鋼のYS,TS,ELをかなり精度よく予測できることを示している。 第5章は、二相域圧延材の面積率と粒径予測を行った結果である。二相域圧延を考慮するために、新たにの再結晶および加工誘起変態を実験的に調べ、変態の促進と粒径の時間変化を定式化した。この結果を、第2章および第3章で求めたモデル式と組み合わせることによって、二相域圧延材の面積率と粒径の見積もりを可能とした。実際に、圧延中の材料の温度履歴を精度よく評価すれば、その結果をもとに実機圧延材の面積率と粒径を予測できることを明らかにした。 第6章は、熱延鋼板端部の混粒組織制御について述べている。低炭素鋼の仕上げ圧延温度の低下に伴い、鋼板端部の表層から粗大なが生成し、いわゆる混粒組織が発生する。この組織は、鋼板の延性劣化をもたらし、機械加工時に割れを生じる原因となる。これは、仕上げ圧延中に変態が開始し、十分に再結晶しないまま結晶粒の粗大化が生じるためであるといわれている。ここでは、前述の再結晶モデルと変態予測モデルをもとに混粒発生予測モデルを提示している。これが、熱延低炭素鋼板の混粒組織形成を精度良く記述するものであることを確かめるとともに、混粒発生防止のためのエッヂヒーターの温度制御法を提案している。この制御法は、すでに製鉄所の実作業で有効に利用されている。 第7章は総括である。以上要するに、本研究は低炭素鋼の熱延プロセス制御による材質特性の予測ならびに調整に関する貴重な技術データを提供するものであり、金属材料学の発展に寄与するところ大である。 よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |