学位論文要旨



No 213190
著者(漢字) オーケ,ローセンクイスト
著者(英字) Åke,Rosenqvist
著者(カナ) オーケ,ローセンクイスト
標題(和) マルチバンド及び偏向合成開口レーダー画像を用いたゴムの木、油ヤシ及び水稲の後方散乱特性の解析
標題(洋) Analysis of the Backscatter Characteristics of Rubber,Oil palm and Irrigated rice in Multi-band Polarimetric Synthetic Aperture Radar Imagery
報告番号 213190
報告番号 乙13190
学位授与日 1997.02.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13190号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 村井,俊治
 東京大学 教授 虫明,功臣
 東京大学 教授 高木,幹雄
 東京大学 助教授 柴崎,亮介
 東京大学 助教授 清水,英範
内容要旨

 合成開口レーダー(SAR)の画像は、レーダーの後方散乱波が対象物の特性に依存するばかりでなく、SARの特性自体にも依存する。レーダー波の波長、偏向、観測角、またある程度ではあるがアンテナの照射方向を含むセンサー・パラメーターが全てなんらかの形でレーダー信号に影響し、SAR画像の理解や解釈を複雑にしている。SARデータを要求する際、エンドユーザー自身がそれらセンサーのパラメーターを指定できるようになる衛星開発の将来を考えると、特定のアプリケーションに対するこれらのパラメータの意味や影響の基本的な理解が不可欠となる。

 本研究は、実際のSARの画像の例を示すことによって、対象物と信号間の相互関係やSARのセンサーパラメーターの影響に関するマイクロ波リモートセンシングの挙動を説明するとともに、センサー自身と地表面のそれぞれの因子を一つずつ系統的に解析することを目的としている。研究の対象として(1)ゴムの木、(2)油ヤシ、(3)水稲を選択した。理由はそれらが熱帯地域や亜熱帯/温帯地域で3つの重要な植生タイプを形成しているとともに、それらはレーダー信号に異なる影響を及ぼす特性をもつ対象物を代表しているからである。本論文は、以下に述べるセンサーを使ってSARの特性とこれらの植生タイプの関係を解析した最初の研究の成果である。

 ゴムの木と油ヤシに対する基本的な後方散乱の特性を、最初にJERS-1のLHHバンドとERS-1のCVVバンドのデータを使って調べた。その後、SARのセンサー構成を変えた場合の影響が多波長、多偏向であるSIR-C/X-SARのデータを使って解析した。その結果、これら2種類の木の上部に対するレーダー波の反応は異なる後方散乱のメカニズムに従うこと、またそれらはセンサー・パラメーター(波長、偏向および入射角)を変化によって異なる反応をすることが示された。

 水稲に対するJERS-1のLHHバンドの基本的な後方散乱の特性とその時期的な変化も研究した。本研究では異なる稲作方式がとられている2つの主要な水田(マレーシアと日本)を取り上げた。稲作方式の違いが、ある条件下で非常に強い後方散乱を生じさせることを例証した。また、水田のモニタリングに関するJERS-1の利用可能性を評価した。

 以上を要約すると本論文は、SARセンサーのパラメータがゴムの木、油ヤシおよび水田の三つの植生タイプの後方散乱にどう影響を及ぼすかを明らかにするとともに、ゴムの木および油ヤシの植生タイプの調査のための最適なSARパラメータの構成を提案したもので、一言で言えばSAR画像を理解するための基礎的特性の挙動を明らかにしたと言える。

審査要旨

 論文の題目は「マルチバンド及び偏向合成開口レーダ画像を用いたゴムの木、油ヤシ及び水稲の後方散乱特性の解析」であり、6章で構成される。

 第1章は概論であり、合成開口レーダ(SAR)の重要性とともにその複雑な特性を記述し、従来どのような研究がなされてきたかをレビューしている。レーダ画像は波長、偏向、観測角、アンテナの照射方向および対象物の特性などのパラメータに大きく依存することが解説されている。

 第2章は研究の目的を明らかにしている。研究対象を何故ゴムの木、油ヤシ、水稲に限定したかを述べたあと、SAR画像のパラメータがどのような挙動を示すかを系統的に解析することが本研究の目的であると述べている。

 第3章は本論文の構成を系統的に解説し、本論文のガイドを示している。すなわち第4章はゴムの木および油ヤシのデータ収集、前処理、データ分析、検討であり、第5章は水稲のそれであり、第6章で二つを総合化して結論を導き出している。

 第4章は「ゴムの木および油ヤシのSAR後方散乱特性の解析」についてのべている。第4章では、J-ERSのLバンドのSAR,ERS-1のCバンドのSARおよびスペースシャトルのXバンドのSARの三つの異なるSARの各パラメータに関する後方散乱特性の相違について体系的に調査、分析を行っている。

 第5章は「水稲のLバンドSAR画像の後方散乱特性の解析」について述べている。本章では、JERSのLバンドのSAR画像を用いてケダ/ペルリス(マレーシア)と新潟(日本)の二ケ所をテスト地区として水稲の生育状況および耕作方法の相違などに関する後方散乱特性の相違等を系統的に調査、分析している。

 第6章は結論である。第4章および第5章で得た知見から、逆にゴムの木、油ヤシ、水稲を識別するにはどのようなSARの最適なパラメータを構成したらよいかを提言している。SAR画像の特性はきわめて複雑であるが、パラメータを適切に選択すれば、目的に対応して系統的に対象物で調査する可能性があることを示した。これは将来、利用者がSARのパラメータを指定できることが予想される状況の下では、このような研究はきわめて有用である。

 以上を要約するに、本論文はゴムの木、油ヤシ、水田という熱帯/亜熱帯/温帯で重要な植生に着目して、各種のSARのパラメータが後方散乱へどのような影響を及ぼすかを明らかにした。ゴムの木および油ヤシについては現在および近い将来利用可能なSAR画像の中で、最適パラメータの提言を試みた。本論文はSAR画像を理解するための基礎的特性を明らかにした貴重な成果でありリモートセンシング工学に多大の貢献をしたといえる。

 よって本論文は学位請求論文として合格と認める。

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