論文の題目は「マルチバンド及び偏向合成開口レーダ画像を用いたゴムの木、油ヤシ及び水稲の後方散乱特性の解析」であり、6章で構成される。 第1章は概論であり、合成開口レーダ(SAR)の重要性とともにその複雑な特性を記述し、従来どのような研究がなされてきたかをレビューしている。レーダ画像は波長、偏向、観測角、アンテナの照射方向および対象物の特性などのパラメータに大きく依存することが解説されている。 第2章は研究の目的を明らかにしている。研究対象を何故ゴムの木、油ヤシ、水稲に限定したかを述べたあと、SAR画像のパラメータがどのような挙動を示すかを系統的に解析することが本研究の目的であると述べている。 第3章は本論文の構成を系統的に解説し、本論文のガイドを示している。すなわち第4章はゴムの木および油ヤシのデータ収集、前処理、データ分析、検討であり、第5章は水稲のそれであり、第6章で二つを総合化して結論を導き出している。 第4章は「ゴムの木および油ヤシのSAR後方散乱特性の解析」についてのべている。第4章では、J-ERSのLバンドのSAR,ERS-1のCバンドのSARおよびスペースシャトルのXバンドのSARの三つの異なるSARの各パラメータに関する後方散乱特性の相違について体系的に調査、分析を行っている。 第5章は「水稲のLバンドSAR画像の後方散乱特性の解析」について述べている。本章では、JERSのLバンドのSAR画像を用いてケダ/ペルリス(マレーシア)と新潟(日本)の二ケ所をテスト地区として水稲の生育状況および耕作方法の相違などに関する後方散乱特性の相違等を系統的に調査、分析している。 第6章は結論である。第4章および第5章で得た知見から、逆にゴムの木、油ヤシ、水稲を識別するにはどのようなSARの最適なパラメータを構成したらよいかを提言している。SAR画像の特性はきわめて複雑であるが、パラメータを適切に選択すれば、目的に対応して系統的に対象物で調査する可能性があることを示した。これは将来、利用者がSARのパラメータを指定できることが予想される状況の下では、このような研究はきわめて有用である。 以上を要約するに、本論文はゴムの木、油ヤシ、水田という熱帯/亜熱帯/温帯で重要な植生に着目して、各種のSARのパラメータが後方散乱へどのような影響を及ぼすかを明らかにした。ゴムの木および油ヤシについては現在および近い将来利用可能なSAR画像の中で、最適パラメータの提言を試みた。本論文はSAR画像を理解するための基礎的特性を明らかにした貴重な成果でありリモートセンシング工学に多大の貢献をしたといえる。 よって本論文は学位請求論文として合格と認める。 |