学位論文要旨



No 213199
著者(漢字) 宮本,治一
著者(英字) Miyamoto,Harukazu
著者(カナ) ミヤモト,ハルカズ
標題(和) 高速高密度記録用光磁気多層膜媒体の研究
標題(洋) Multilayered Magneto-optical Recording Media for High-speed, High-density Storage
報告番号 213199
報告番号 乙13199
学位授与日 1997.02.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13199号
研究科 工学系研究科
専攻 物理工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 伊藤,良一
 東京大学 教授 藤原,毅夫
 東京大学 教授 黒田,和男
 東京大学 教授 三浦,登
 東京大学 教授 七尾,進
内容要旨

 高速高密度光磁気記録用媒体として光磁気多層膜の研究を行った。光磁気ディスク構造と記録特性の関係について,光,熱,磁気の3つの物理的観点から,実験及びシミュレーション結果に基づいて解析を行った。

 光学的観点から,多層光磁気膜におけるカー回転角と反射率を解析した。磁気円二色性媒体での多重反射モデルによるシミュレーションを用いることにより,多層光磁気記録膜に現れる逆極性のカー回転の実験結果を説明できた。金属反射膜を持った4層構造と,再生層を持った磁気2層膜の2種が光学的に優れた媒体構造であることが分かった。

 熱的観点から,磁界変調オーバライト特性と媒体の熱構造との関係を調べた。熱シミュレーションを磁区形成モデルと組み合わせることによって,媒体構造,記録特性,記録磁区形状の関係が明らかになった。金属熱拡散膜を持った4層構造媒体を用いることにより,磁界変調記録に特有の記録磁区の「尾」短くでき,高密度記録時に優れた記録再生特性を示すことがわかった。

 光強度変調オーバライト用磁気多層膜の検討を行った。光変調オーバライトにおいては,オーバライトのために2段階のレーザーパワーが必要なことと,層間の交換結合力を利用していることのために,種々の問題があらわれる。前者によって,記録再生のパワーマージンが狭い問題と,オーバライト時の隣接トラックの情報破壊の問題,すなわち,熱クロストークが起こり,後者によって,初期化後のノイズ上昇の問題と繰り返しオーバライト後の劣化が起こる。再生パワーマージンは,磁気転写の利用により拡大できることがわかったが,転写後若干のノイズ上昇が見られた。この,ノイズ上昇は転写不良に因るものであることが磁区観察より明らかになった。熱クロストークは,櫛形レーザーパルスと厚い熱拡散層の利用により媒体上での熱分布を制御することにより抑制できた。初期化後のノイズは,遷移金属リッチで実効保磁力の大きなメモリ層を用いて抑制できた。アレニウス解析により光変調オーバライトに特有の劣化モードがあることが見出されたが,この劣化モードも,同様に実効保磁力の大きなメモリ層を用いて抑制できた。これら問題を解決し光変調オーバライトとマークエッジ記録とを組み合わせることにより,直径130mmのディスク上で2GBの容量を持つオーバライトディスクを実現できた。

 高密度記録の方法として,光・磁界変調による微小磁区記録の可能性を検討した。高密度再生の方法として,磁性多層膜を用いた磁気超解像媒体上で,再生層上の磁区のコラプスによる急峻な再生信号変化を利用して微小記録磁区を再生する方法を提案し,その有効性を実証した。

 本研究の結論として,光・磁界変調記録と磁気超解像を利用した再生との組み合わせが,高速高密度光磁気記録として最も将来性があることが明らかになった。

審査要旨

 本論文は「Multilayered Magneto-optical Recording Media for High-speed,High-density Storage(高速高密度記録用光磁気多層膜媒体の研究)」と題し,高速高密度光磁気記録用媒体として光磁気多層膜を用いた光ディスクの構造と記録特性の関係について調べた研究をまとめたものである。

 光磁気記録の高速高密度化のためには,消去過程を必要とせずに情報の書換を行うオーバライト技術が重要であり,高密度化のためには微小な磁区を形成し高分解能で再生する技術が重要である。オーバライト技術としては,磁界変調オーバライトと光変調オーバライトの2種が,また,高分解能化技術としては,磁気超解像技術が既に提案されていたが,これらの技術に適した媒体特性および記録再生方法について十分に明らかにされていなかった。

 本論文の目的は,上記を背景として,光磁気ディスクの構造と記録再生特性の関係について,光,熱,磁気の3つの物理的観点から,実験及びシミュレーション結果に基づいて解析を行い,光磁気記録の高速高密度化に適した媒体構造及び記録再生方法を明らかにする事にある。

 論文は5章からなっている。

 第1章は「Introduction(序論)」であり,本研究の背景と目的,及び本論分の構成について述べている。

 第2章は「Optical and Thermal Design of MO Disks(光磁気ディスクの光学設計,熱設計)」と題し,光学的観点から多層光磁気膜におけるカー回転角と反射率を解析し,熱的観点から磁界変調オーバライト特性と媒体の熱構造との関係を調べている。磁気円二色性物質の多重反射モデルを用いた光学シミュレーションにより,多層光磁気記録膜に現れる逆極性のカー回転の実験結果を説明し,金属反射膜を持った4層構造と再生層を持った磁気2層膜の2種が光学的に優れた媒体構造であることを見出している。また,磁界変調オーバライトの記録磁区形状と媒体積層構造の関係を,シミュレーションと実験の両面から解析し,金属熱拡散膜を持った4層構造媒体を用いることにより,磁界変調記録に特有の記録磁区の「尾」短くでき,高密度記録時に優れた記録再生特性を示すことを見出している。

 第3章は「Magnetic Multilayer for Overwriting(オーバライト用磁気多層膜)」と題し,光強度変調オーバライト用磁気多層膜の特性を磁気及び熱の両面から調べている。光変調オーバライトにおいては,2段階のレーザーパワーが必要なことと,層間の交換結合力を利用していることのために,種々の問題があらわれる。前者によって,記録再生のパワーマージンが狭い問題と,オーバライト時の隣接トラックの情報破壊の問題,すなわち,熱クロストークが起こる。後者によって,初期化後のノイズ上昇の問題と繰り返しオーバライト後の劣化が起こる。本論文では,再生パワーマージンを,磁気転写を利用して拡大することを提案し,実証している。熱クロストークの問題は,櫛形レーザーパルスと厚い熱拡散層の利用により媒体上での熱分布を制御し抑制できることを示している。初期化後のノイズ上昇については,遷移金属リッチで実効保磁力の大きなメモリ層を用いて抑制できることを見いだしている。また,オーバライトの繰り返し後の媒体特性の劣化については,アレニウス解析を行うことにより,光変調オーバライトに特有の劣化モードがあることを見出し,この劣化モードを,実効保磁力の大きなメモリ層を用いて抑制している。さらに,これら問題を全て解決し光変調オーバライトとマークエッジ記録とを組み合わせることにより,直径130mmのディスク上で2GBの容量を持つオーバライトディスクを実現できることを実証している。

 第4章は「High-density Recording(高密度記録)」と題し,将来の高密度記録方法として,微小磁区記録,微小磁区再生の両面から検討をおこなっている。微小磁区記録方法としては,光・磁界変調により微小磁区の安定記録が可能なことを見出している。また,高密度再生の方法として,磁性多層膜を用いた磁気超解像媒体上での急峻な再生信号波形発生のメカニズムを,再生層上の磁区コラプスのモデルで説明し,この磁区コラプスを利用して微小記録磁区を再生する方法を提案し,さらに,その有効性を実証している

 第5章は本論文全体の結果を総括し,光・磁界変調記録と磁気超解像媒体との組み合わせが,高速高密度光磁気記録として最も将来性があること結論づけている。

 以上を要約すると,本論文では,光磁気記録の高速高密度化のために光磁気記録媒体の積層構造と記録再生特性の関係を,光,熱,磁気の三つの物理的側面から解析している。その中で,多層光磁気膜のカー効果,磁界変調記録の磁区形成等のシミュレーションによる解析方法を確立し,実験結果を照合してその有効性を検証している。また,熱クロストーク,初期化時ノイズ,繰り返しオーバライトによる媒体特性劣化,磁気超解像再生波形等については,現象をモデル化して解析し,それぞれに対する解決方法・利用方法を提案している。再生パワーマージンの拡大,微小磁区の再生に関しては,新しい記録再生方法を提案し,実験的に検証している。さらに,本研究の結果を総括して,光・磁界変調記録と磁気超解像媒体との組み合わせが,高速高密度光磁気記録として最も将来性があるとの知見を得ている。本研究は,多層光磁気記録媒体の記録再生特性の解析を通じて光磁気記録の高速高密度化への重要な指針を与えるものであり,物理工学への貢献が大きい。従って,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/50688