化石燃料の枯渇性、化石燃料の使用に伴う炭酸ガス濃度の増加による環境への負荷等の問題から、石油代替エネルギー資源の利用に関する研究が行われている。その中でも無尽蔵の太陽のエネルギーを資源として利用する技術が注目されている。 太陽電池は、太陽放射エネルギーを直接電力に変えるため、クリーンなエネルギー変換方法である。しかし、コストが高いため一般家庭の電力用としてはまだ普及していない。コストを下げるために、現行のような、半導体用シリコンの残りやスクラップに依存したプロセスではコストの低下を望めないばかりか需要を満たすこともできなくなると予想される。太陽電池の伸びが30%であれば、最も長くもっても2000数年にはシリコンが不足すると予測できる。したがって、太陽電池用シリコンの製造プロセスを開発することが必要である。 本研究では、スクラップに依存しない太陽電池用シリコンの製造と基板の製造プロセスを確立するために、安価な金属シリコンを出発原料にして気化精製、凝固精製により低コストの太陽電池用シリコンと基板を製造する方法を開発することを目的としている。 水冷銅ルツボを用いて、プラズマアーク溶解法および電子ビーム溶解法による製造法を提案した。 1.気化精製実験 プラズマアーク溶解実験の結果、シリコン中の不純物のうち60000Pa程度の減圧下ではCa,Bの減少傾向が認められたが、他の不純物の顕著な除去は認められなかった。 水蒸気添加プラズマ溶解の結果、Bを効果的に除去することが可能であった。30分の溶解で12ppmから1ppm以下まで低下することがわかった。また、その除去速度は一次反応速度式で整理することができ、見掛けの反応速度定数は水蒸気濃度の増加に伴って大きくなり1.24vol%H2Oでは38x10-4/secであった。 電子ビーム溶解実験の結果では、Fe,Ti,Bは、蒸発による除去はほとんどなされていないことがわかった。Ca,Al,P,C等の元素は気化除去されていることがわかった。また、溶解後の不純物の分布を調べた結果、Fe,Ti,Fe,Bではボトム部では減少しており、表面部では増加していることがわかった。逆にCa,Al,Pでは表面で減少していることがわかった。この結果より、気化除去が困難な元素も偏析を利用して除去できることがわかった。電子ビーム溶解による不純物の除去の律速段階は融体中の不純物の拡散段階にあることがわかった。 2.連続鋳造実験 プラズマアーク、電子ビームを熱源として、水冷銅ルツボを用いたシリコンの連続鋳造法を開発し、凝固偏析によるシリコン中不純物の精製を行い次のような結果を得た。 連続鋳造のスターティングブロックとしては、現時点ではカーボンを使用する以外にない。カーボンの使用によるシリコン中への炭素の混入は認められなかった。 プラズマアーク溶解による精製では偏析によるわずかな精製効果は認められたが十分ではなかった。本実験のような規模の小さな実験では、プラズマの強い撹拌力のため方向性凝固をすることが困難であった。 電子ビーム溶解による結果では、Fe,Tiなどの遷移金属元素を偏析により除去することが可能である。溶解出力が大きいほど、製造速度が遅いほど、精製効果を向上することがわかった。図1は、連続鋳造により製造したシリコンインゴット内の不純物(Fe)の濃度変化を示している。縦軸は濃度、横軸はインゴットの長さを規格化したものである。1mm/minで製造した場合、全長の70%まで初期濃度の1/100から1/1000まで精製されていることがわかる。生産速度の点から、製造速度1mm/min程度が適正であると考えられる。 また、変動を小さくするためには、ルツボ温度の変動を少なくするように溶解することが効果的であると考えられる。 図1シリコンインゴット内のFe濃度の変化 電子ビームによる連続鋳造は、上方からの加熱であること、比較的溶湯の流動の少ない溶解法であること、および溶湯が浅いため方向性凝固に適していることがわかった。 また本方法で製造したシリコンインゴットからウェーハを切り出し、通常の電池化プロセスをへてセル化することにもほぼ問題が無いことがわかった。 本方法は、大型化も比較的容易であったことから、低コストの太陽電池用シリコンの製造方法の一つとして実用化に寄与できるものと考える。 |