学位論文要旨



No 213203
著者(漢字) 池田,貴
著者(英字)
著者(カナ) イケダ,タカシ
標題(和) 電子ビーム溶解法およびプラズマ溶解法を用いた太陽電池用シリコンの精製法
標題(洋)
報告番号 213203
報告番号 乙13203
学位授与日 1997.02.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13203号
研究科 工学系研究科
専攻 金属工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 前田,正史
 東京大学 教授 佐野,信雄
 東京大学 教授 梅田,高照
 東京大学 教授 鈴木,俊夫
 東京大学 助教授 月橋,文孝
内容要旨

 化石燃料の枯渇性、化石燃料の使用に伴う炭酸ガス濃度の増加による環境への負荷等の問題から、石油代替エネルギー資源の利用に関する研究が行われている。その中でも無尽蔵の太陽のエネルギーを資源として利用する技術が注目されている。

 太陽電池は、太陽放射エネルギーを直接電力に変えるため、クリーンなエネルギー変換方法である。しかし、コストが高いため一般家庭の電力用としてはまだ普及していない。コストを下げるために、現行のような、半導体用シリコンの残りやスクラップに依存したプロセスではコストの低下を望めないばかりか需要を満たすこともできなくなると予想される。太陽電池の伸びが30%であれば、最も長くもっても2000数年にはシリコンが不足すると予測できる。したがって、太陽電池用シリコンの製造プロセスを開発することが必要である。

 本研究では、スクラップに依存しない太陽電池用シリコンの製造と基板の製造プロセスを確立するために、安価な金属シリコンを出発原料にして気化精製、凝固精製により低コストの太陽電池用シリコンと基板を製造する方法を開発することを目的としている。

 水冷銅ルツボを用いて、プラズマアーク溶解法および電子ビーム溶解法による製造法を提案した。

1.気化精製実験

 プラズマアーク溶解実験の結果、シリコン中の不純物のうち60000Pa程度の減圧下ではCa,Bの減少傾向が認められたが、他の不純物の顕著な除去は認められなかった。

 水蒸気添加プラズマ溶解の結果、Bを効果的に除去することが可能であった。30分の溶解で12ppmから1ppm以下まで低下することがわかった。また、その除去速度は一次反応速度式で整理することができ、見掛けの反応速度定数は水蒸気濃度の増加に伴って大きくなり1.24vol%H2Oでは38x10-4/secであった。

 電子ビーム溶解実験の結果では、Fe,Ti,Bは、蒸発による除去はほとんどなされていないことがわかった。Ca,Al,P,C等の元素は気化除去されていることがわかった。また、溶解後の不純物の分布を調べた結果、Fe,Ti,Fe,Bではボトム部では減少しており、表面部では増加していることがわかった。逆にCa,Al,Pでは表面で減少していることがわかった。この結果より、気化除去が困難な元素も偏析を利用して除去できることがわかった。電子ビーム溶解による不純物の除去の律速段階は融体中の不純物の拡散段階にあることがわかった。

2.連続鋳造実験

 プラズマアーク、電子ビームを熱源として、水冷銅ルツボを用いたシリコンの連続鋳造法を開発し、凝固偏析によるシリコン中不純物の精製を行い次のような結果を得た。

 連続鋳造のスターティングブロックとしては、現時点ではカーボンを使用する以外にない。カーボンの使用によるシリコン中への炭素の混入は認められなかった。

 プラズマアーク溶解による精製では偏析によるわずかな精製効果は認められたが十分ではなかった。本実験のような規模の小さな実験では、プラズマの強い撹拌力のため方向性凝固をすることが困難であった。

 電子ビーム溶解による結果では、Fe,Tiなどの遷移金属元素を偏析により除去することが可能である。溶解出力が大きいほど、製造速度が遅いほど、精製効果を向上することがわかった。図1は、連続鋳造により製造したシリコンインゴット内の不純物(Fe)の濃度変化を示している。縦軸は濃度、横軸はインゴットの長さを規格化したものである。1mm/minで製造した場合、全長の70%まで初期濃度の1/100から1/1000まで精製されていることがわかる。生産速度の点から、製造速度1mm/min程度が適正であると考えられる。

 また、変動を小さくするためには、ルツボ温度の変動を少なくするように溶解することが効果的であると考えられる。

図1シリコンインゴット内のFe濃度の変化

 電子ビームによる連続鋳造は、上方からの加熱であること、比較的溶湯の流動の少ない溶解法であること、および溶湯が浅いため方向性凝固に適していることがわかった。

 また本方法で製造したシリコンインゴットからウェーハを切り出し、通常の電池化プロセスをへてセル化することにもほぼ問題が無いことがわかった。

 本方法は、大型化も比較的容易であったことから、低コストの太陽電池用シリコンの製造方法の一つとして実用化に寄与できるものと考える。

審査要旨

 本論文は、太陽電池用シリコン専用の製造プロセスの一つの方法として、低価格で入手可能な金属原料級シリコンを出発原料として冶金的な手法を用いて精製を行い、太陽電池基板用シリコンの低コスト製造プロセスを提案したものである。4章より成る。

 第1章では、現状の太陽電池基板の原料バランスについて調査している。現状は高純度多結晶シリコンを主発点とする半導体用シリコンスクラップ、もしくは、その級外原料に依存しており、太陽電池基板用シリコンの専用プロセスの開発の必要性を示した。さらに、これまでに行われている既往の、太陽電池用シリコンの精製法、凝固法に関する研究について総括的なレビュウを行っている。

 第2章では、熱源としてアルゴンアークプラズマおよび電子ビームをもちいた不純物元素の気化精製に関する研究結果について述べている。自身で開発した、回転トーチ型のプラズマアーク溶解法により、シリコンのような軽い元素でも飛散なく十分溶解維持できることを示した。この装置を用いて行った気化精製の結果、常圧に近い圧力下ではシリコン中の不純物のうちカルシウム,ボロン以外の不純物は顕著に除去されなかった。プラズマに水蒸気を添加して溶解した結果、歩留まりを高く維持した状態でボロンを十分低濃度(1ppm以下)に高速に除去することが可能であることを示した。除去速度はシリコン中の元素の濃度の一次反応速度式で整理することができ、その見掛けの反応速度定数は水蒸気濃度の増加に伴って大きくなることを示した。

 電子ビーム溶解による真空気化精製実験の結果、10-2Paの減圧下では鉄、チタン、ボロンは、ほとんど除去されなかったが、カルシウム、アルミニウム、リン等は十分な速度で蒸発除去できることを述べている。炭素も十分低濃度まで高速に除去されることがわかった。カルシウム、アルミニウムの除去速度はいずれもシリコン中濃度の1次反応速度式で整理できるが、計算による蒸気圧は最大3桁ほど異なるにも関わらず速度にほとんど差がないこと、適用した真空度では理想蒸発していると考えてよいが、その速度より1桁程度低い速度であることから、これらの元素は液側物質移動が律速していると予想できた。炭素の除去速度も1次反応速度で整理できた。リンは2次反応速度式で整理でき、反応速度の温度依存性がきわめて大きいこともあわせ、界面におけるP2種の生成が律速していることを示唆した。

 第3章では、第2章で除去することができなかった遷移金属不純物を凝固偏析により除去する方法を開発している。シリコンは凝固の際に膨張すること、脆性的な性質を持つことから、水冷の銅鋳型で連続鋳造することは困難と考えられていた。本研究では特殊な断面形状を持つ鋳型と、熱伝導を制御できるボトムスターティングブロックを用いることにより、プラズマアーク、電子ビームを熱源として、水冷銅ルツボによるシリコンの連続鋳造法を開発し、凝固偏析によるシリコン中不純物の精製実験を行っている。

 プラズマアークを熱源とした場合、連続鋳造は操業的に非常に困難であった。偏析によるわずかな精製効果は認められたが十分ではなかったとしている。プラズマの強い撹拌力のため方向性凝固を行うことは困難であるが、水蒸気添加によりボロンを連続的に除去することができるため、1次溶解法としては有効な方法であると述べている。

 電子ビーム熱源による連続鋳造の結果、鉄、チタンなどの遷移金属元素は、偏析により容易に除去することが可能であり、1/1000〜1/100まで不純物濃度を低下できることが示されている。溶解出力が大きいほど、凝固速度が遅いほど、精製効果を向上することが明らかになった。生産性を考慮した場合、凝固速度は1mm/min程度が適正であると述べている。水冷銅ルツボを用いることで、シリコン自身のセルフライニングによってルツボからの不純物の混入をおさえ、ほぼ半永久に使用できること、および大型化も比較的容易であることを示した。また、電子ビームによる連続鋳造は、上方からの制御性のよい加熱が可能であり、マクロ的な流動の少ない溶解法であり、溶湯深さも浅いため方向性凝固に適していることも示した。大型実験として8インチ級の凝固試験を試みて成功している。

 最後に、結論として4章にまとめてある。

 以上、本論文は、水冷銅ルツボと、熱源としてプラズマアーク、電子ビームを用いて金属シリコンの連続的な精製法を開発した。この方法は大型化も比較的容易であることから低コストの太陽電池用シリコン製造プロセスの実用化に寄与できるものと考えられる。

 以上のように本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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