学位論文要旨



No 213206
著者(漢字) 金,聖烈
著者(英字)
著者(カナ) キム,ソンヨル
標題(和) サイド スキャン ソーナ映像資料処理による韓国東南海域迎日湾における海底面の音響特性
標題(洋) Seafloor acoustic characteristics in Yeong-iL Bay,southeast Korea,from side scan sonar image processing
報告番号 213206
報告番号 乙13206
学位授与日 1997.02.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 第13206号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 平,朝彦
 東京大学 教授 末広,潔
 東京大学 教授 玉木,賢策
 東京大学 助教授 徳山,英一
 東京大学 助教授 藤本,博己
内容要旨

 韓半島の東南方に位置している迎日湾におけるサイドスキャンソーナの探査データを用いて海底面画像処理に関した研究を行なった.本研究ではデータ解析とモザイク図面作成のため新しい手法が提示され,研究海域の地質学的特色が確認された.本研究で提示したデータ処理の手法は1)ソーナの絶対位置の決定,2)左舷と右舷における音波強度の校正,3)サイドスキャンソーナの映像データから海底面構造線の抽出画像の生成の三つに要約される.作られた海底面探査のモザイク図面を利用して海底表層堆積物の物性特性が検討され,研究海域における海底面の地質構造的特色を音響学的に解釈した.

 一般的にサイドスキャンソーナ探査は調査船の後尾より,曳航されるため,ソーナの位置に関した情報を得ることが困難で正確なモザイク図面を作るのは難しい.本研究ではソーナの反射波信号の中から海水面の反射波を利用して探査船との水平距離を補正した後,探査船と曳航体の相互位置関係を幾何学的な手法を用いて計算し,一定時間以後からは安定したソーナの位置を順次的に決定する方法が適用された.この方法を利用した海底面の画像モザイク図面では特に矛盾した結果は生じなかった.

 左舷と右舷の音波の強度差はしばしば発生する.従って,モザイク図面の作成にはこれらの補正を必要とする.本研究では装備自体に内蔵されている利得函数に問題があるとみなし,受信音波の振幅減衰現象を照射域の面積変化に基づく実験的な補正方式を求めて適用した結果,両舷の音波強度を校正することが可能となった.

 サイドスキャンソーナの探査データの地質学的解釈は豊かな経験と知識が要求される.しかしながら,一旦電算化処理による海底面構造の抽出が可能ならば構造解釈に大きな役割を果たせることが出来るという立場から新しい処理方法が開発された.モザイク図面作業に先立って,一次的に探査データは格子データに変換されるため,これら相互間の強度を一定な方向性を持って比較する方法を適用した.これによりもし,構造的にある変化があるとしたら,ほとんどの場合で線構造の映像データが抽出出来るようになった.従って,解釈技術が経験不足の場合でも海底面の構造的特性を着実に発見出来る利点がある.

 サイドスキャンソーナの映像資料モザイク結果を利用して次のようないくつかの観点から迎日湾における海底面音響特性に関した結果が見いだされた.海底表層堆積物の地質工学的特性データとの関係においては,砂の含量と音速そして減衰係数特性らは音波後方散乱の強度と比例関係を示し,粘土と泥質の含量,粒度及び分級度との関係は反比例の関係を示している.音波の後方散乱の強度特性により研究海域は大きく三つの地域に区別することが出来た.海底堆積物が分布する地域においては非常に低い音圧の強度を示しているが砕屑性火山岩または火山岩が分布している地域においては音圧の強度が高くなる.研究海域の大部分を占める第三紀堆積層においては中間程度の強度を示す.特に第三紀堆積層の海底面においては多くの構造線が発見されたが,これらを地層探査データと対比して解釈した結果,大規模な南北方向の構造線は走向断層構造帯,また北東東-南西西の方向にはいくつかの正断層構造線が発達しているのが明らかになった.特に本研究結果を通じて,迎日湾に分布している第三紀堆積層においてこれらの二つの方向に沿った構造線を確認したのは,サイドスキャンソーナ映像資料の精密なモザイク図面資料の制作結果から獲得された重要な結果である.

審査要旨

 本論文はサイドスキャンソナーによる海底からの音響データを用いて,海底地質研究のためのデータ解析の新しい方法を確立したものである.

 本論文は全6章からなる.まず,第1章では問題の所在と研究海域の地質が概要が述べられている.とくにサイドスキャンソナーによる精密な海底地質探査の必要性が論じられている.

 第2章では,用いたサイドスキャンソナーとデータ取得の方法について詳しくのべられている.

 第3章ではデータ解析のすべての基礎となるソナーの位置を船の航跡から求める新しいアルゴリズムの開発について述べてある.この方法はソナーが次の船の位置に向かって追尾をするという単純な仮定に基づいているが,種々のデータを検証してみると大変よく位置を表していることがわかった.この方法は有効であり,本論文の新しい成果の一つである.

 第4章では,後方散乱強度データのプロセッシングについて論じてある.ここでは,スラントレンジの補正,重なりの補正,強度のバランスについて新しい方法を開発した.これは,ソナーの両側の音波強度特性を詳しく検討して,理論計算と比較し,補正係数を確定してゆく方法である.また,海底地質線構造について,それに対して各方向から音波を照射した場合の強度計算を行う方法を開発して客観的な地質判断基準を作った.これらのプロセッシング方法は従来の方法に大幅な改善をもたらしたものであり評価できる.

 第5章では,以上のようにして得られた韓半島南東海域の海底地質についての解釈が述べてある.線構造と断層との関係や後方散乱強度と海底の底質との関係が論じられている.とくに散乱強度と粒度がよい相関にあることが示してあるのは重要な結果である.

 第6章では簡潔にして要を得たまとめがされている.

 本論文は海底地質の探査・解析方法に新しい分野を開いたもので,博士論文として評価できる.したがって博士(理学)の学位を授与できると認める.

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