胸部手術、肺切除前後の呼吸機能変化について、男女間の手術後呼吸機能変化に性差が見られるか否か?、換気パターンは手術前後で如何に変化するか?、術後呼吸困難感は客観的に如何に評価するか?について運動負荷試験により、東京大学医学部胸部外科に於いて平成2年9月から平成5年5月の間に胸部手術を施行した男性31人、女性16人、計47人について(1)安静時及び運動負荷時の呼吸機能諸量(2)安静時及び運動負荷時の換気パターン(3)運動負荷に伴う呼吸困難感の客観的指標の3項目の検査を行い、以下の結果が得られた。 1、手術前後の比較では安静時の肺活量、全肺気量は男性に有意の減少が見られたが、女性には有意の変化がなかった。運動負荷試験では分時肺換気量、一回換気量、酸素消費量、炭酸ガス産生量、METSに男女とも約26〜35%の有意の減少があり、女性は男性より減少が大きく、男性では最大負荷時の換気効率とVD/VT(生理学的死腔量/一回換気量の比)に有意に増加が見られたが、女性では有意の変化はなく、男性が女性より胸部手術後に換気応答が大きいことを示唆した。又運動負荷の回復時には術後は術前と比較して男性は有意の減少が見られたが、女性では有意の減少はなく、女性の回復は呼吸機能でも男性より速いことが分かった。 2、換気パターンの変化について一般に男女老若とも安静時では横隔膜優位のパターを示し、加齢により横隔膜優位の傾向がやや顕著となり、運動負荷によりこの傾向が更に強まる結果が見られた。又術後換気パターンの変化は年令別、性差には有意差は見られなかった。術前横隔膜優位の換気パターンのA群では術後胸郭運動の減少はなく、むしろ増加する傾向が見られた。術前胸郭優位のB群では術後横隔膜運動が顕著に増加し、胸郭優位から横隔膜優位のパターンに変化した。 3、呼吸困難の客観的指標として用いられている呼吸困難閾値負荷量(TLD),呼吸困難限界負荷量(BLD),Borgスケール・スロープ(BSS)により胸部手術後の呼吸困難について検討したが、患者の年令と術後日数とに有意の相関があることが示された。40才以下群より61才以上群には呼吸困難が有意に多かった。また術後200日以上になると呼吸困難が有意に改善することが明らかになった。 以上の如く本論文は肺手術前後の安静時及び運動負荷時呼吸機能を性別、手術内容、換気パターン別に検討したものであり、呼吸生理学的に興味ある知見を含む上に呼吸器臨床にも資するものがあると思われ、学位の授与に値するものと考えられる。 |