本論文は、明るい低温度星すなわちK-M型超巨星およびミラ型変光星を用いて、銀河系の大局的構造を明らかにしようとする試みであり、6章からなる。 第1章では銀河系の構造を調べる手段としてのM型星の性質と利点が述べられている。星周塵に被われ、赤外線域で強く光るM型星は、赤外線を用いるととりわけて遠方で観測が可能になる点を著者は強調している。 第2章ではインドネシアのボシュカ(Bosscha)天文台のシュミット望遠鏡を用いて行われた銀河系中心方向のM型星の探査観測について述べている。この観測は20天域について行われたが、本論文ではそのうち6天域から検出された2748の晩期M型巨星が研究された。著者はこれらの星の面密度を銀河系内のM型星分布モデルと比較して、星間吸収量の強度マップを作成した。このマップにはいくつかの窓(星間吸収の弱い天域)が見出され、そこでは距離5Kpcまでの晩期M型星が確認された。著者は観測方法の改善により更に遠方のM型星を検出することが可能であると結論している。また、同時にM型超巨星の検出作業も進め、研究した6枚の対物プリズム乾板の上に59の候補天体を見出した。 第3章では赤外線観測衛星IRASの全天探査データの解析が進められる。光学同定のある赤外天体に対してIRASで測定された色指数と絶対等級を調べた結果、超巨星とミラ型星とは色指数対スペクトル型の図上で異なる領域を占めることが判った。又、超巨星の色指数と波長12ミクロンでの絶対等級との間には強い相関が存在することが見出された。 第4章では第2章で検出され、位置や明るさが測定されてカタログとして発表された2116個のM型星についてIRAS天体との位置同定を試みている。188天体がIRASカタログ上に同定されたが、色指数から晩期M型超巨星またはミラ型星と推定される107星の絶対光度を調べた結果、大部分は光学的に確認されている超巨星と同じくらいの光度を有することが明らかとなった。これらの天体の空間分布からは、それらが銀河系渦巻腕の何れかに属することが示唆されている。 第5章ではIRAS赤外点源カタログとIRC赤外点源カタログ(波長2ミクロン)の2種について第3章の色指数対スペクトル型図で見出された関係及び色指数と絶対等級間の相関関係に基づく解析を行っている。銀経 l=345°-30°のIRC天体の中から晩期M型超巨星かミラ型星と思われる196天体が見出された。又、銀河バルジのIRAS天体は12ミクロンにおける絶対等級が太陽近傍の同種天体より1-2等明るいことが示唆された。 第6章ではIRAS点源カタログから色指数に基づき、星周塵殼を伴う漸近巨星枝星が選ばれ、それらの大局的な分布が調べられている。第3章で見出された超巨星とミラ型星の色指数対絶対等級の関係をIRAS天体に適用し、銀河系ディスクの天体分布モデルと比較して、モデルの最適パラメターを決定した。その結果、銀河系中心から太陽までの距離=7.1±0.7Kpc、ディスクスケール長=4.9±0.3Kpc、ディスクのスケール高さ=0.9±0.07Kpc、この種の天体の銀河系中心密度=284±17Kpc-3という値を得た。 以上に述べた著者の研究により、太陽から3-4Kpcまでの距離に対する星間吸収の分布が示された。その先にある星間雲リングの内側では星間吸収はあまり強くないと考えられる。したがって、銀河系の構造を研究するにあたり、今回得られた星間吸収マップは極めて有用なものと言える。更に、新たに見出された超巨星はこれまでに知られていた超巨星の数を大幅に増加させるものであり、銀河構造のみならず大質量星の進化、星の形成率の研究に貴重な資料を提供するものである。また、超巨星の赤外色指数と絶対等級の関係は、銀河構造の観測的研究が極めて遠方にまで延び得ることを意味している。大量のIRASデータを用いた著者のディスクモデルの研究はこの方向の萌芽的な試みとして高く評価される。 なお、本論文の2.2.2章、2.2.3章、及び、第2章、第4章に使用したデータのカタログは浜島清利、市川隆、石田一、Bambang Hidayat氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となって解析を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 したがって、本論文提出者は博士(理学)を授与できると審査委員全員が一致して判断した。 |