本論文は6章からなり、動的赤外分光法による高分子に関する研究が記述されている。動的赤外分光法では、正弦波形の微小歪みにより誘起される高分子の構造変化を検出する。合成高分子であるポリエチレンテレフタレートおよび生体高分子であるフィブロインにおける、周期的歪みに対する動的挙動が記述されている。動的スペクトルには、二次元相関解析、絶対値スペクトル解析、位相スペクトル解析が適用されている。 第1章では、高分子研究における赤外分光法の重要性が述べられており、特に近年導入された動的赤外分光法の重要性、意義が記述されている。 第2章では、高分子の動的赤外分光法およびその二次元相関解析や絶対値スペクトル解析、位相スペクトル解析に関する一般的な理論を提示している。また、測定システムの構成やその有効性が記述されている。 第3章では、一軸5倍延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに関する研究結果が述べられており、動的赤外スペクトルにおけるバンド形と周期的歪みによる低波数シフトの関係が、骨格構造との関連から議論されている。また、動的スペクトルに二次元相関解析を適用し、歪みに対する官能基の再配向の順序や、重なり合ったバンドの分離に関する知見が示されている。 第4章では、延伸倍率の異なる5種類のポリエチレンテレフタレートフィルムの動的赤外スペクトルに絶対値スペクトル解析を適用し、延伸によるフィルムの力学特性の変化と官能基における構造変化の大きさの相関が検討されている。エチレングリコール部のトランスC-O結合が、ポリエチレンテレフタレートフィルムの力学特性に関係している一方、メチレン基のフィルム力学特性への寄与は大きくないと結論づけられている。また、延伸によるポリエチレンテレフタレートフィルムにおける構造変化に関しても述べられている。 第5章では、一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの動的赤外スペクトルの温度依存性が調べられ、絶対値スペクトル解析による動的構造変化の大きさが議論されている。ガラス転移温度前後における、動的構造変化の大きさの変化が述べられており、フィルム力学特性の変化と官能基との関係が示されている。 第6章では、生体高分子の1つであるフィブロインフィルムの二次構造および動的赤外スペクトルの位相解析が記述されている。フーリエセルフデコンボルーションによるアミドIバンドの解析から、メタノール/水混合溶媒によるキャストフィルムの二次構造変化が議論されている。また、周期的微小歪みを受けているフィブロインフィルムの動的赤外スペクトルに位相スペクトル解析を適用し、歪みに対する動的挙動の違いを反映するバンドが明瞭に示されている。これらのバンドの波数は、フーリエセルフデコンボルーションにより得られたアミドIバンドの波数によく一致していることが明らかになった。 以上のように、本論文では、動的赤外分光法と二次元相関解析、絶対値スペクトル解析、位相スペクトル解析を、周期的微小歪みを受けているポリエチレンテレフタレートフィルムおよびフィブロインフィルムに適用し、それらに関する新しい知見を得ている。本論文の内容については、共著者の協力のもとに4編の論文が発表されているが、いずれについても本論文提出者の寄与が大きいと判断される。したがって、本論文の提出者である園山正史は、博士(理学)の学位を受ける十分な資格を有すると認める。 |