学位論文要旨



No 213245
著者(漢字) 谷内,達
著者(英字)
著者(カナ) タニウチ,トオル
標題(和) オーストラリアの天然資源基盤と都市システム
標題(洋)
報告番号 213245
報告番号 乙13245
学位授与日 1997.03.10
学位種別 論文博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 第13245号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 田邊,裕
 東京大学 教授 米倉,伸之
 東京大学 教授 大村,纂
 東京大学 教授 大森,博雄
 東京大学 教授 荒井,良雄
内容要旨

 本研究は、資源論と都市システム論とを結合させて、オーストラリアの都市システムの形成・発展過程と天然資源との関係を実証的に分析したものである。

 従来、資源論では自然的・技術的視点に重点が置かれてきた。資源論の研究において方法的枠組を自然的・技術的視点に絞ることにはそれなりに意味のあることであるが、具体的な事例に即して実証的に分析する際には、現実には社会経済的要因による影響を反映したデータを自然的・技術的な視点のみから分析してしまい、方法とデータとが整合しないことが少なくない。一方、都市システム論では資源論を含めた自然的視点はほとんど見られず、経済的視点においても第3次産業的な視点が重視され、資源論と関連の深い農業・鉱業などの経済活動の視点は欠落していた。都市システム論の研究において自然的・資源的視点を排除すること自体は一定の方法論的意味を持っているが、具体的な事例の実証的分析においては、自然的・資源的要因に影響された現実の事例をそのまま分析対象としてしまっていることが少なくない。

 本研究では、このような問題点を克服して資源論と都市システム論とを有機的に結合させるために、都市システム論と整合する新たな資源概念として「天然資源基盤」を提示し、これを本研究の方法的枠組とした。この概念は、現実化された天然資源を意味し、地域経済論・都市経済論での「経済基盤」の一つとして位置付けられるものであり、具体的には、鉱業として現実化された鉱産資源を中心に、農業として現実化された土地資源、そしてアメニティ資源である。

 第1章「オーストラリア経済の地域構造」では、現在のオーストラリアの実態に即して、国民経済・地域経済の地理的特徴を整理しながら、天然資源基盤と都市システムとの関係を考察するための基本的な枠組を提示した。すなわち、オーストラリア経済の地域構造について、州経済の枠組に加えて、天然資源基盤に基づく第1地帯・第2地帯・第3地帯への3地帯区分を提示した。この地帯区分は、天然資源基盤のみならず、都市システムにおける国民経済レベルでの中心へのアクセシビリティをも同時に反映するものであり、資源論と都市システム論とを結合させる操作的な分析枠組として、その有効性は続く第2章・第3章・第4章でも示された。

 第2章「北部開発論における天然資源基盤の評価と限界」では、「北部開発論」をめぐるさまざまな主張と論争を、熱帯・アジア・人口稀薄・周辺の四つの視点から分析することによって、天然資源基盤としての土地資源の評価とその限界について、その自然的・技術的評価と、都市システムの基礎となる国民経済・地域経済システムとの関係から考察した。その結果、自然的・技術的資源論と社会経済的な開発政策論との間の乖離・飛躍を指摘すると共に、これらの「北部開発論」のうち、実質的に意味を持つのは人口稀薄と周辺の二つの視点であり、「北部」は本質的には本研究の地帯区分における第3地帯として論ずるべきであることを明らかにした。

 第3章「奥地の鉱産資源開発とインフラストラクチャー」では、天然資源基盤としての鉱産資源を取り上げ、鉱産資源と都市の生成・発展との関係を、鉱産資源開発に伴うインフラストラクチャーの建設・運営主体にして、具体的事例を比較検討した。その結果、鉱産資源開発が都市・地域の持続的発展に結び付く可能性が、地帯区分における位置付けに示されるような、その地域の発展段階的実態に基づくことを明らかにし、都市の生成・発展における鉱産資源の役割とその限界を明らかにする上で、地帯区分の有効性を示した。

 第4章「都市人口の長期的推移と天然資源基盤」では、1851〜1991年の長期にわたる統一的・包括的な都市人口データベースを、多くの資料の批判的検討に基づいて独自に作成し、第1章で提示された地帯区分と第2章・第3章で得られた知見を生かしつつ、都市システムの生成・発展過程における天然資源基盤の影響を分析した。その結果、州都への長期的な集中過程と1971年以後の相対的分散に関する逆都市化論を批判的に検討し、天然資源基盤の影響を分離することによって都市システムの本質においては逆都市化が進行していないことを実証した。また、数百の中小都市をテータベースに基づいて地帯別・・規模別に区分すると共に、天然資源基盤の視点から一般都市・鉱産資源都市・リゾート都市に類型区分して天然資源基盤の影響を分離・抽出し、詳細な分析によって、都市システムの生成・発展過程における天然資源基盤の影響を考察した。その結果、鉱産資源は都市の生成には寄与するが長期的持続的発展への寄与は不安定であること、そして土地資源が都市システムの本質と結び付いた持続的な天然資源基盤であることを明らかにした。

審査要旨

 本研究は、オーストラリアの都市システムの生成・発展過程と天然資源との関係を実証的に分析することによって、地理学における都市システム論研究にこれまで十分でなかった自然的・資源的視点を導入しようとする意欲的な試みである。

 1970年代後半から、地理学の分野で急速な発展をみた都市システム論は、それまでの都市地理学研究が個別都市の内部構造の解明に重点を置いていたのに対して、現代社会の諸地域を、多数の都市が全国土的、あるいは世界的なスケールで相互に連関して存立するシステムとして理解しようとするアプローチを提示している。しかし、これまでの研究では、都市システムの生成・発展過程を分析するにあたって、第3次産業を中心とするいわゆる「都市的機能」の側面が強調されるあまり、都市存立の経済基盤として決して等閑視することのできない農業・鉱業などの経済活動の視点が不十分であった。また、これらの経済活動の基礎となる自然条件についての検討もほとんどなされていなかった。

 本研究では、このような問題点を克服するために、資源論における議論の成果を踏まえて、都市システム論と整合する新たな資源概念である「天然資源基盤」を提示し、それによって、自然的・資源的要因を組み込んだ都市システム分析を試みようとしている。天然資源基盤の概念は、現実化された天然資源を意味し、具体的には、鉱業として現実化された鉱産資源を中心に、農業として現実化された土地資源、そしてアメニティ資源等を指す。

 本論文は、5章および付表で構成されている。

 第1章では、現在のオーストラリアの実態に即して、国民経済・地域経済の地理的特徴を整理しながら、天然資源基盤と都市システムとの関係を考察するための基本的な枠組として、天然資源基盤に基づく第1地帯・第2地帯・第3地帯への3地帯区分を提示している。この地帯区分は、天然資源基盤のみならず、都市システムにおける国民経済レベルでの中心へのアクセシビリティをも同時に反映するものであり、資源論と都市システム論とを結合させる操作的な枠組として、後章での具体的な分析に用いられる。

 第2章では、「北部開発論」をめぐるさまざまな主張と論争を、熱帯・アジア・人口稀薄・周辺の四つのキーワードで示される視点から分析することによって、天然資源基盤としての土地資源の評価とその限界を、都市システムの基礎となる国民経済・地域経済システムとの関係から考察している。その結果、自然的・技術的資源論と社会経済的な開発政策論との間の乖離を指摘すると共に、これらの「北部開発論」のうち、実質的に意味を持つのは人口稀薄と周辺の二つの要因であり、「北部」は本質的には本研究の地帯区分における第3地帯として論ずるべきであることを明らかにされた。

 第3章では、天然資源基盤としての鉱産資源を取り上げ、鉱産資源と都市の生成・発展を鉱産資源開発に伴うインフラストラクチャーの建設・運営主体の行動との関係から、具体的事例に即して、比較検討した。その結果、鉱産資源開発が都市・地域の持続的発展に結び付く可能性が、地帯区分における位置付けに示されるような、その地域の発展段階的実態に基づくことが明らかにされ、都市の生成・発展における鉱産資源の役割とその限界を明らかにする上で、地帯区分の有効性が確認された。

 第4章では、1851〜1991年の長期にわたる統一的・包括的な都市人口データベースを、多くの資料の批判的検討に基づいて独自に作成し、前章までの検討を踏まえて、都市システムの生成・発展過程における天然資源基盤の影響を分析している。具体的には、上記の都市人口データベースを用いて、州都への長期的な集中過程と1971年以後の相対的分散に関する逆都市化論を批判的に検討し、従来主張されてきたオーストラリアの逆都市化現象は天然資源基盤の強い影響によるものであり、その影響を分離した都市システムの自律的運動としての逆都市は認められないことが実証された。また、数百に上る中小都市を天然資源基盤の視点から一般都市・鉱産資源都市・リゾート都市に類型区分して天然資源基盤の影響を抽出・分離する方法によって、都市システムの生成・発展過程における天然資源基盤の影響が検討された。その結果、鉱産資源は都市の生成には寄与するが長期的持続的発展への寄与は不安定であること、そして土地資源が都市システムの本質と結び付いた持続的な天然資源基盤であることを明らかにした。

 最後の第5章では、前章までの知見を整理し、全体の結論としている。

 以上、本論文の提出者谷内 達は、オーストラリアの自然環境、都市および経済活動に関する資料の詳細な地理学的分析に基づいて、都市システムの生成・発展過程における自然的・資源的要因の影響の実証的な解明を試みた。この研究は都市システム論の新たな可能性を示し、都市地理学の発展に大きく貢献するものである。た。よって谷内 達は、博士(理学)の学位を授与される資格があると認める。

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