学位論文要旨



No 213250
著者(漢字) 馬,寧
著者(英字)
著者(カナ) マァ,ニン
標題(和) 電子顕微鏡による硬骨魚心臓介在細胞の種間分布調査並びに両側迷切処置後神経の変性・再生過程におけるドジョウの心臓介在細胞について
標題(洋)
報告番号 213250
報告番号 乙13250
学位授与日 1997.03.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第13250号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 石川,隆俊
 東京大学 教授 高橋,智幸
 東京大学 教授 町並,陸生
 東京大学 助教授 坂本,穆彦
 東京大学 助教授 中田,隆夫
内容要旨 序論

 自律神経終末と多数のシナプスを作ると同時に、心筋細胞にも接している介在細胞という特異的な非筋細胞はこれまでに硬骨魚のドジヨウとマツバガレイの心臓洞房結節組織にしか認められていない。そこで本実験の第1部ではフナを含め20種類計89匹の硬骨魚類のほか、円口類(ムラサキヌタウナギ)、両棲類(イモリとウシガエル)および爬虫類(カナヘビとミドリガメ)の心臓の洞房結節組織を電顕的に観察し、介在細胞の種間分布を調べた。また、ドジヨウにおいては両側性迷切後、介在細胞に接している軸索終末の大部分が変性することは知られているが、しかし、迷切後の神経再生過程についてはまだ明らかにされていないため、本実験の第2部では、78匹のドジョウを使用した迷切実験を行い、迷切後の神経の変性および再生過程における介在細胞への神経支配の変動を明らかにしようと試みた。

材料と方法

 円口類のムラサキヌタウナギ5匹、硬骨魚類のフナ、コイ、大陸バラタナゴ、テラビア、イシガレイ、ヤリタナゴ、メジナ、シマイサキ、コチ、クロホシフエダイ、アユ、イワナ、キス、サザナミフグ、ニジマス、キューセン、マダイ、マコガレイ、カワハギおよびライギョなど20種類計89匹、両棲類のイモリ(有尾)とウシガエル(無尾)各5匹、そして爬虫類のカナヘビとミドリガメ各5匹を心臓介在細胞の種間分布調査の研究材料とした。

 組織の採取および固定に際し、魚では骨切り用の小形はさみを用いて背側体表より断髄(大きい魚では断頭)、両棲類および爬虫類動物ではエーテル麻酔をかけたのちに、腹側体表を切開して心臓を露出させた。直ちに2.5%グルタルアルデヒドと4%バラホルムアルデヒドを含む固定液(1/15Mリン酸緩衝液でpH7.4に調整;使う直前に数滴の1%四酸化オスミウム液を加えたもの。液温約4℃)を拍動する心臓の表面にかけ、ついで隣接臓器がついたままの心臓を採取し、同固定液の入ったシャーレに移し、実体顕微鏡の下で洞房弁とその基部領域の切り出しを行った。採取したサンプルは冷蔵庫の中で一晩固定し、次に1%四酸化オスミウム液に移し、約90分間後固定、漸強エタノール液で脱水、プロピレンオキサイドによる置換を経てエポキシ樹脂への包埋を行った。樹脂包埋標本から厚さ約1mの切片を作製し、1%トルイジンブルー液で染色後、光学顕微鏡で洞房境界部を同定し、そして同部位を電子顕微鏡用の大きさにトリミングし、厚さ約0.1mの切片を作製した後、まず酢酸ウラニル飽和水溶液、のちにクエン酸鉛による二重染色を施した。JEX-100CX電子顕微鏡で観察した。

 ドジョウを用いた迷切実験では、78匹のドジョウ(体長5〜16cm)を以下の3群に分けて研究材料とした。正常無処置15匹(第1群)、キュビエ管沿いの迷走神経内臓枝の両側性切除(以下は迷切とよぶ)を行い、1〜60日生存させたもの60匹(第2群)、偽手術を行ったもの3匹(第3群)。

迷切手術方法

 手術に先立つ魚を2-フェノキシエタノールの水溶液(3〜5cc/L)の中に移して麻酔を施した。実体顕微鏡の下(空気中)で迷走神経内臓枝を露出させ、キュビエ管沿いの迷走神経内臓枝部分を脊髄神経(第1、第2脊髄神経の腹側枝)との交差点から約0.5mm離れた遠位部より、0.5〜1.2mmの長さで切除した。ついで傷口を閉じ、皮膚を一針縫合した。偽手術では上記通りに皮膚の切開、迷走神経内臓枝の露出を行い、しかし同枝の切断はせずに傷口を縫合した。手術終了後水に戻された魚は、5〜10分で麻酔から醒めるのが普通であった。手術群(第2群)の魚60匹を3組(1組に20匹)に分けて、異なる時期で3回にわたって同手術を繰り返した。各組20匹の魚を迷切後1、2、3、5、7、15、30或いは60日に2〜3匹ずつ固定した。また偽手術群(第3群)の魚3匹を迷切後3日に固定した。

 ドジョウの迷切実験における組織の採取と固定:正常無処置6匹および偽手術群3匹のドジョウの組織の固定について、上記の介在細胞の種間分布調査グループと同様に洞房弁領域の切片試料のみを作製した。迷切後1〜15日生存させた48匹のドジョウについては、まず魚を麻酔させた後、元の傷口より心臓ならびに切断した迷走神経内臓枝の近位端(延髄寄り)および遠位端(心臓寄り)部分も採取した。また3匹の正常無処置ドジョウについては麻酔後洞房弁領域とキュビエ管沿いの迷走神経内臓技の一部、迷切後30日或いは60日生存させた12匹のドジョウについては麻酔後洞房弁領域と左或いは右側のどちらかの片側の迷走神経内臓枝断端間の再生過程中の部分の神経を採取した。以後の手順については第1部に記した通りである。包埋と染色は第1部の介在細胞の種間分布調査グループと同様に行われた。

結果第1部介在細胞の種間分布調査

 1)介在細胞の種間分布 調べた20種の硬骨魚のうち、フナ、コイ、大陸バラタナゴ、ヤリタナゴ、テラピア、シマイサキ、イシガレイおよびメジナ計8種類の硬骨魚の心臓の洞房結節組織において数多く(細胞核レベルの一断面では5個以上)のシナプス小胞含有軸索に接触していると同時に心筋細胞にも直接接しており、その上細胞質内に豊富な粗面小胞体や筋原線維、もしくはそのほかの神経細胞或いは心筋細胞の特徴的な細胞小器官を持たないという介在細胞の存在が認められた。しかし、調べた限りでは、サザナミフグ、クロホシフエダイ、イワナ、シロギス、ニジマス、マダイ、アユ、カワハギ、コチ、マコガレイ、キューセン及びライギョ計12種類の硬骨魚の心臓の洞房結節組織には、介在細胞の存在が認められなかった。

 2)介在細胞の微細構造上の変異 介在細胞の細胞貿には少なくとも3種類の太さ異なった線維成分、即ち細い(約5nm)、中間径(約10nm)、太い(約15nm)フィラメントが認められる。上述3種類のフィラメントのうち約5nmの細いフィラメントに関してはその大部分がZ-band様構造に付着する線維として認められる。これに対して、約15nmの太いフィラメントは1本1本独立に、或いは小束をなして(束をなしている隣接の関係にある太いフィラメントの間に心筋細胞の筋原線維に見られたような細いフィラメントの入り込みはほとんど観察されない)細胞質内に散在して存在し、Z-band様構造と明らかな繋がりを持たない。約10nmの中間径フィラメントはサイズのみならず、カーブ或いは波打ち様の走行状態からも上述2種類のフィラメントと区別できる。上述の介在細胞の細胞質内の線維構造に関しては、主にフナの介在細胞のそれについてより詳細な観察を行った。

 介在細胞の細胞質内の太いフィラメントの含有量は個体間ならびに種間において顕著な変異を示す。本研究で調べたフナ15匹のうちの12匹、全5匹のイシガレイ、全5匹の大陸バラタナゴ、全5匹のメジナ及び全3匹のシマイサキの介在細胞が細胞質に太いフィラメントがきわめて少ない、もしくは全く欠如しているように見える。しかし15匹のうち残りの3匹のフナ、全4匹のテラピア、全3匹のコイ及び全2匹のヤリタナゴでは、介在細胞の細胞質には太いフィラメントが豊富にしかも小束をなして存在している。便宜上、前者(細胞質に太いフィラメントがきわめて少ない、もしくは全く欠如しているように見えるもの)をI型、後者(細胞質には太いフィラメントが豊富にしかもしばしば小束をなして存在しているもの)をII型介在細胞と名付けた。強調すべきは、少なくともフナ(15匹)では同一の個体において介在細胞はI型もしくはII型のどちらかだけであり、両型の介在細胞が共存している個体は認められなかったという点である。

 Z-band様構造は一般に不規則濃斑として介在細胞の細胞質に散在して見られ、介在細胞と特徴的な構造の一つとなっている。切断面のレベル、方向および切片の厚さによって、Z-band様構造は様々な外観を示す。フナの介在細胞に見られたZ-band様構造の縦断面では主に三つのパターン、即ちジグザグ矢尻様構造、クリスタル様構造および太さ約10nmの短い線維構造が見られ、わずか斜めの断面では菱形格子様構造、そして横断面では1辺20〜26nmの四角形或いはバスケット織り模様構造を呈する。

第2部両側迷切処置後神経の変性・再生過程におけるドジョウの心臓介在細胞について

 1)キュビエ管沿いの迷走神経内臓枝を約1mmの長さで両側性に切除した場合、切断の近位端では迷切後1日既に軸索の再生芽が出現したものの、切断の遠位端では5日後までには神経線維が変性・崩壊を中心とした変化を示していた。迷切後7日では切断の遠位端にも再生軸索の像を電顕的にとらえることができ、再生軸索が切断の遠位端に侵入したことを示す。迷切後30日では実体顕微鏡下(約1.5倍の視野)でも両断端の繋がりを確認することができた。

 2)心臓洞房結節組織内の軸索終末の変性が迷切後2〜3日にピークに達し、迷切後5日では軸索終末の変性像がほとんど認められなかった。しかし、正常な構造を保ったままの軸索終末像はわずかながらまだ見られる。この時期の介在細胞(核レベル)表面に正常な軸索終末(数として1切片に0〜2個)と直接接している部分の全体に占める割合はわずか5.8±2.2%にとどまった。迷切後15日では心臓洞房結節組織に再生軸索像が認められ、介在細胞(核レベル)表面の軸索終末と直接接している部分が全体に占める割合は約19.5±4.8%であった。迷切後30日、60日ではその割合がそれぞれ約29.8±8.5%と45.8±16.4%であった。介在細胞への神経支配は次第に正常無処置の場合(約50.4±11.6%)に回復しつつあることを示す。

考察:

 硬骨魚類中心に、円口類、両棲類および爬虫類動物を使用した介在細胞の分布調査により、介在細胞は心臓洞房結節組織内の一般的な構成細胞成分ではなく、硬骨魚類しかもその一部(8種類)の魚種の心臓洞房結節組織にしか認められなかった。介在細胞の分布の規律に関しては確信できるものがまだ得られていないが、淡水魚のコイ科に多くみられる傾向を示す(調べたコイ科のフナ、コイ、大陸バラタナゴ、ヤリタナゴそしてドジョウのいずれにおいても介在細胞の存在が認められた)。介在細胞の細胞質内に見られた散在性のZ-band様構造と約15nmの太いフィラメントの存在状態、並びにそれらに関する変異、つまりZ-band様構造が不規則濃斑から典型的なZ-bandのようなものまで、太いフィラメントがほとんど欠乏している状態からほぼ細胞質内に満ちている状態まで、を全体的に見ると、介在細胞が発生中の筋細胞における筋原線維形成過程中にある筋芽細胞と管状筋細胞の間に位置するものであると思われ、介在細胞の筋近縁性が考えられる。この考えに従えば、仮に介在細胞の系統発生がさらに進んで、筋原線維が形成されると、介在細胞としての重要な特徴の一つを失い、その上洞房結節組織の心筋細胞も豊富な神経支配を受けているため、両者の区別がつかなくなるのでしょう。介在細胞がかなりの魚種の心臓洞房結節組織に認められなった理由はここにあるかもしれない。さらに、哺乳動物の心臓の洞房結節組織及び房室結節組織は系統発生的に静脈洞の開口部を取り巻く輪状筋の遺残物であり、これらの組織の構成細胞は均一の細胞でなく、それぞれ異なった起源を持つことがと考えられており、介在細胞が哺乳類動物の心臓における洞房結節細胞や房室結節細胞のうちの一部の細胞、とくに心臓ペースメーカーの活動に関係する細胞との関連が考慮に価する。また、カハールの間質細胞についての介在説、即ち間質細胞は一種にニューロンであって、神経終末と効果器との間に介して両者の機能を微妙に調節するというアイディアが、硬骨魚の心臓介在細胞にも適用する可能性はあると思われる。そこで、介在細胞は硬骨魚類の心臓のにおいて心臓のペースメーカーとしての機能を有するものことが考えられる。

 ドジョウの迷切実験では、介在細胞と密接している軸索終末の変性像が迷切後2〜3日でピークに達し、迷切後5日ではもうほとんど認められない。しかし、わずかながら正常な軸索終末は依然として認めたれたが、これらの軸索は節後遠心性のものであるほか、切断の部位よりも心臓寄り、さらには心臓内に細胞体をもつ求心性ニューロンからの軸索であるか、あるいは生き残った無髄性節前遠心性線維であるか(遅れて変性する可能性もありうる)、もしくは切断の部位よりも中枢寄りの場所に細胞体を置く偽単極ニューロンの末梢側突起断端からの再生芽が心臓内に再進入している可能性も考えられる。迷切後15日、ドジョウ心臓の洞房結節組織内の再生軸索が認められた。そして迷切60日後ではドジョウの心臓介在細胞への神経支配は正常無処置の場合の約90%の回復を示す。調べたいずれの段階においても(迷切後3〜15日以内という除神経下の状況のもとでも)、介在細胞が依然として独立した細胞タイプとして認められ、やがて軸索再生に伴って高度に密な神経支配を受ける状態に戻る。この点から見ても、介在細胞は決して一般の心筋細胞と同一視できない。介在細胞は、少なくともその細胞基底膜に、例えばラミニン、或いはラミニン・ヘパラン硫酸プロテオグリカン複合体などのような軸索の再生を誘導する細胞外マトリックスの様々な構成成分などにおいて、心筋細胞とは異なる面を備えていることが示唆される。

結語:

 硬骨魚類中心に、円口類、両棲類および爬虫類動物を使用した介在細胞の分布調査により、介在細胞は心臓洞房結節組織内の一般的な構成細胞成分ではなく、その分布は硬骨魚類しかもその一部(8種類)の魚種だけに限られている。介在細胞の細胞質内における約15nmの太いフィラメントおよび散在性のZ-band様構造の存在は、介在細胞の筋近縁性を示すが、しかし、ドジョウを用いた迷切実験によっては、迷切後1〜60日にわたって、いずれの時期においても介在細胞は独立した細胞タイプとして認められ、そして軸索再生に伴って高度に密な神経支配を受ける状態に戻り、介在細胞は心筋細胞と決して同一視できないものであることを示唆する。

審査要旨

 本研究は、これまでに硬骨魚のドジョウとマツバガレイの心臓洞房結節組織にしか認められていない、自律神経終末と多数のシナプスを作ると同時に、心筋細胞にも接している介在細胞という特異的な非筋細胞について、硬骨魚類を中心に、円口類、両棲類および爬虫類の心臓の洞房結節組織を電顕的に観察し、介在細胞の種間分布を調べた。また、ドジョウにおいては迷切実験を行い、迷切後の神経の変性、特にその再生過程における介在細胞への神経支配の変動を明らかにしようと試みた。下記の結果を得ている。

 1.調べた20種の硬骨魚のうち、フナ、コイ、大陸バラタナゴ、ヤリタナゴ、テラピア、シマイサキ、イシガレイおよびメジナ計8種類の硬骨魚の心臓の洞房結節組織において介在細胞の存在が認められた。しかし、サザナミフグ、クロホシフエダイ、イワナ、シロギス、ニジマス、マダイ、アユ、カワハギ、コチ、マコガレイ、キューセン及びライギョなど12種類の硬骨魚並びに1種類の円口類(ムラサキヌタウナギ)、2種類の両棲類(イモリとウシガエル)と2種類の爬虫類(カナヘビとミドリガメ)の心臓の洞房結節組織には、介在細胞の存在が認められなかった。介在細胞は淡水魚のコイ科に属する魚(フナ、コイ、大陸バラタナゴ、ヤリタナゴそしてドジョウ)によく認められた傾向がみられるが、しかし、その分布の規律に関しては確信できるものがまだ得られていない。

 2.介在細胞の細胞質には少なくとも3種類の太さ異なった線維成分、即ち細い(約5nm)、中間径(約10nm)、太い(約15nm)フィラメントが認められた。特に1本1本独立に、或いは小束をなして(束をなしている隣接の関係にある太いフィラメントの間に心筋細胞の筋原線維に見られたような細いフィラメントの入り込みはほとんど観察されない)細胞質内に散在して存在する約15nmの太いフィラメントは本研究において初めて認められた構造であり、そしてその含有量は違う個体並びに種にみられた介在細胞において顕著な変異(細胞質内の太いフィラメントがきわめて少ない、もしくは全く欠如している状態、あるいは豊富にしかも小束をなして存在している)を示す。また、不規則濃斑として介在細胞の細胞質に散在して見られたZ-band様構造(約5nmの細いフィラメントの大部分がZ-band様構造に付着する線維として認められる)が介在細胞の特徴的な構造の一つとなることを確立させた。両者の存在状態に関する変異、つまりZ-band様構造が不規則濃斑から典型的なZ-bandのようなものまで、約15nmの太いフィラメントがほとんど欠乏している状態からほぼ細胞質内に満ちている状態までを全体的に見ると介在細胞が発生中の筋細胞における筋原線維形成過程中にある筋芽細胞と管状筋細胞の間に位置するものであると思われ、介在細胞の筋近縁性が示唆される。

 3.キュビエ管沿いの迷走神経内臓枝を約1mmの長さで両側性に切除した場合、心臓洞房結節組織内の軸索終末の変性が迷切後2〜3日にピークに達し、迷切後5日ではわずかな正常な軸索終末像がみたらたが、その変性像がほとんど認められなかった。介在細胞表面(核レベル)に正常な軸索終末と直接接している部分の全体に占める割合はわずか5.8%にとどまった。迷切後15日では心臓洞房結節組織に再生軸索像が認められ、介在細胞表面(核レベル)の軸索終末と直接接している部分が全体に占める割合は約19.5%であった。迷切後30日、60日ではその割合がそれぞれ約29.8%と45.8%であった。この段階に至る前の、除神経下の状況のもとでも、介在細胞が依然として独立した細胞タイプとして認められ、やがて軸索再生に伴って高度に密な神経支配を受ける状態に戻る、という点から見ても、介在細胞は決して心筋細胞と同一視できない。

 以上、本論文はこれまでに1〜2種の硬骨魚の心臓洞房結節組織にしか認められなかった自律神経終末と多数のシナプスを作ると同時に、心筋細胞にも接している介在細胞という非筋非神経性細胞について、新たに8種類の硬骨魚類にその存在を認め、特に本研究で初めて認められた約15nmの太いフィラメントの存在が介在細胞の筋近縁性の側面を伺わせた。また、ドジョウにおいては迷切後の神経の変性・再生過程における介在細胞への神経支配の変動を明らかにした。本研究による介在細胞に関する調査は脊椎動物心臓ペースメーカー(洞房結節および房室結節組織)の系統発生的な起源についての研究の発展に重要な貢献をなすことが予測され、学位の授与に値するものと考えられる。

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