学位論文要旨



No 213262
著者(漢字) 黄,少博
著者(英字)
著者(カナ) コウ,ショウハク
標題(和) グローバルGISのための地図投影法と時空間内挿手法に関する研究
標題(洋) A Study on Map Projection Schemes and Spatio-Temporal Interpolation for Global GIS
報告番号 213262
報告番号 乙13262
学位授与日 1997.03.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13262号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 柴崎,亮介
 東京大学 教授 村井,俊治
 東京大学 教授 高木,幹雄
 東京大学 助教授 桑原,雅夫
 東京大学 助教授 清水,英範
内容要旨

 最近、環境問題がますます社会の関心を呼んでいる。地球環境問題を解決するためには自然環境システムや社会・経済システムや人類との相互関係などに関するさまざまな知識が必要である。いままで、環境問題について、多くの研究がなされてきたが、問題は数多く残されている。複雑な環境問題の解決のためには人々に新しい有効な地球環境データの収集、保存、管理、分析及び表現道具を提供しなければならない時代が来たといえる。

 以上のような地球環境データの多くは時空間上に分布するいわゆる空間データであることから、地球環境データを扱う地理情報システム(グローバルGIS)は地球環境研究のために不可欠なツールと考えられる。しかし、地球環境に必要とされるデータは形態と質の点できわめて多様であること、またその量の非常に大きいことなどからグローバルGISの開発にあたっては多くの問題点が残されている

 本研究では、グローバルGISに対する要求、データの性質及びいままでの問題点をレビューし、次の二つの方向に重点をあてた。

 1、グローバルGISの重要な基礎となる球面分割法の開発。

 2、多様なソースデータから稠密な時空間データセットを得るためのデータ内挿総合方法の開発。

 球面分割法は地球球面に規則的にグリットを生成し球面データを表現する方法である。たとえば、ほとんどの全球的な環境データは衛星データから得られるが、球面分割法は衛星データをラスタデータの形で保存するために不可欠である。球面分割方法はさまざまな解像度データの統合しやすさや、グローバルGISの性能にも大きく影響する。例えば、近隣分析の効率や空間検索の速度や、表現の質などである。しかし伝統的な地図投影法に関する研究は主に紙地図の制作を念頭においており、グローバルGISのための分割方法として十分ではない。本研究では、体系的な評価指標を提案し、申請者が開発した投影方法も含めて系統的に何種類の球面分割方法を比較した。

 評価の結果、著者の提案したNorth-Up ZOT投影分割法が投影の等面積性、相対的に小さい幾何歪み、階層的な分割の可能性、ほかのシステムへの移植性、経度や緯度との対応の容易性など、いろいろな要求を満足する優れた方法であることが分かった。また、そのNorth-Up ZOT投影分割法は現在一般に使われているGISソフトウエアのなかで、そのまま適用できるという利点がある。なお、体系的な比較により明らかにされた各投影方法の特性に関する情報は、グローバルGIS開発にあたって適当な球面分割を選ぶ場合に非常に有益である。現在CEOS(Committe of Earth Observation Satellites)においても本研究の成果が球面分割方法の開発、評価に利用されている。

 時空間内挿は地球環境研究の中で、最も基本的なデータ分析の技術のひとつである。時空間的なダイナミグスを分析・表現する時には質の高く稠密な時空間データが得られることが最も基本的な要件である。しかしそうしたデータ生成は容易ではない。その原因は観察データがさまざまなソースから得られ、異なる分布、異なる形態(つまり、時空間内の点、線、ポリゴン、ソリッドデータとして表現される)、異なる解像度等を有している点にある。

 連続変量に対しては伝統的にさまざまな内挿方法が使われている。例えば、気象学や海洋学における降雨量や温度の内挿などである。しかし、伝統的な方法は非常に弱い理論的な背景しかない。そのために多様な精度や形態をもつ観測データを内挿するためにはきわめて不十分である。なかにはKrigingのようにデータの空間的な相関関係を陽に表現し、相関関係をふまえ推定分散を最小化する内挿手法もある。こうした観測データだけに着目した内挿方法に対して、観測データが表現する対象物の時空間的なダイナミックスを支配する方程式やモデルを内挿に取り込み、観測データと整合するのと同時に対象物の支配方程式などにも矛盾しないような内挿結果を得る方法が近年着目を浴びている。気象学の分野などでは4次元データ同化といわれる手法である。しかし、こうした手法は支配法的式の確立された連続変量(気象などの諸変量など)に対してしか利用できない。一方、植生クラスや土地利用分類などクラスで表現されるような対象物も多く、それらのダイナミックスを表現するモデルも蓄積されつつある。例えば、土地利用モデルや植生遷移モデルはその例のひとつである。

 本研究は、以上のようなクラス変数を対象として尤度最大化の考え方で観測値と対象物の動態モデルを統合化し、両方に矛盾のない内挿を行える手法を提案した。尤度の最適化にあたっては、遺伝的アルコリズム(Genetic Algorithm:GA)は"山登り法HC:Hill Climbing"と結合し、遺伝的アルゴリズムのもつ近傍探索の効率の悪さを改良している。また、この方法によれば内挿結果全体の信頼性を尤度の値で評価することが可能である。また、多量のデータの場合には全体を分割し、繰り返し最適化を図ることで対応できることが示された。これらの有効性はケーススタディにより確認されている。

 本研究では地球環境情報を地理情報システムを利用して処理・解析することの有効性に着目し、グローバルGISの開発にあたっての重要な研究項目である地図投影法と時空間内挿法を開発した。得られた地図投影法と時空間内挿法はグローバルGISの重要な基礎を構成する要素であり、グローバルGISの実現に大きく貢献したと言える。

審査要旨

 地球環境研究の進展に伴い、全球的な気候システムモデルに代表されるように、地球環境システムのダイナミクスに関する定量的な知見の蓄積が進みつつある。その結果、人間活動と地球環境システムの相互作用モデリングやそれらを利用した地球環境対策研究を本格的にスタートする素地ができあがりつつある。具体例としては、IGBPの中でHDP(Human Dimension Program)が人間圏と地球環境システムとの相互作用などに関する国際的な研究活動を開始したことなどが挙げられる。

 こうした傾向は、社会・経済的なデータも含んだより多様なグローバルデータの作成や利用を一層促進すると考えられる。既に地域スケールの環境研究では、多様なデータの作成や利用に関してGIS(地理情報システム)が非常に有効であることが多くの実例により示されている。しかしながら、地球レベルにおける環境研究ではいくつかの技術的な困難のために、GISの利用はかならずしも一般的にはなっていない。本論文は、GISをグローバルな環境研究に利用するための基本的な技術的課題のうち、特にラスターデータを対象に、多様にデータソースから稠密な時空間データ(いわゆるアニメーションデータ)を作成ために必要な時空間内挿手法の開発を目的としたものであり、全6章からなっている。

 第1章は、イントロダクションであり、地球環境研究におけるGISの利用可能性や潜在的なニーズについて整理している。また、地球環境データを扱うGISをグローバルGISと定義づけている。

 第2章は、地球環境研究において多様なソースからのデータを用いて稠密な時空間データを内挿により作成することの重要性や内挿手法の要件を整理している。その中で、ラスターデータを対象とした内挿手法を実現するためには、まず、球面上のラスターデータをできるだけ効率的、かつ歪みが少なく表現するために球面分割を行う手法を開発することが必要であることを示している。

 第3章は、GISにより効率的に処理・管理することを目的として、球面上のラスターデータを無駄なく、歪みの少ない形で平面上に投影する手法を開発・評価している。こうした投影手法は古典的な地図投影手法に始まり、これまで非常に多くの手法が提案されている。そこで、まずGISにより多量データを管理するという観点から、投影法の性能を多面的に評価できる評価指標群を開発し、それを既存の投影手法や、本論文により提案された投影手法に適用することで、手法の特色を明らかにした。その結果、本論文により提案された投影手法(North-Up ZOT)がいくつかの側面でこれまでの投影法にない優れた特性を有することが明らかになった。

 また、球面を平面に投影することでラスターデータを表現するのではなく、直接球面を分割する手法についても同様の体系的な評価手法が適用できることを明らかにし、従来のものに比べて、優れた特性を持った球面分割手法を提案している。

 第4章は、時空間内挿手法の開発に関する章である。これまでの内挿手法が、支配方程式や知識の形で表現される対象物の変化特性をきわめて限定的にしか取り込めなかった点や、手法が適用できる対象が連続変量に限られていた点に着目し、その改良を行っている。すなわち、名目変数を対象とし、確率的に表される対象物の変化特性を取り込むことのできる内挿手法を最尤推定の枠組みの中で開発している。また、尤度の最大化のために遺伝的アルゴリズムを改良して適用しており、解の安定性や計算効率性を改善している。

 第5章は、ケーススタディであり、農耕文明登場直前から現在に至るまで土地被覆・土地利用がどのように変化してきたかを再現することを題材に、本論文で開発された最尤内挿手法の性能評価を行っている。単純な内挿手法による結果と比較することで、最尤内挿手法は、農業適地度の高いところでの農地の拡大や、乾燥地域での農地の砂漠化の傾向をうまく表現できており、さらに歴史的なデータにもよく整合する結果を作成できることが示された。

 第6章は結論であり、成果と今後の研究展望が整理されている。

 以上を整理すると、本論文は、多様なデータを用いた時空間内挿手法とそのための球面分割手法を開発し、地球環境研究においてGISを有効に利用するための手法的基礎を構築する上で大きな貢献をしている。また、時空間内挿手法は地球環境研究だけでなく、幅広い利用の可能性を有している。このように本論文は環境情報工学の進展に対して大きな寄与をしていると考えられ、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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