学位論文要旨



No 213269
著者(漢字) 若林,昭宏
著者(英字)
著者(カナ) ワカバヤシ,アキヒロ
標題(和) 往復圧縮機配管系の脈動及び振動応答に関する研究
標題(洋)
報告番号 213269
報告番号 乙13269
学位授与日 1997.03.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13269号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 葉山,眞治
 東京大学 教授 酒井,宏
 東京大学 教授 田中,正人
 東京大学 教授 吉識,晴夫
 東京大学 助教授 金子,成彦
内容要旨

 近年、流体機械の振動・騒音による障害が問題になることが多いが、管内を流れる流体の振動が源となって配管の振動・騒音を発生することがある。流体振動の原因としては、往復圧縮機のごとく間欠的に気体を管内に吐き出すものが多い。特に化学プラントにおける往復圧縮機の大型化はそれが接続される配管系の振動問題をクローズアップさせる結果となっており、設計段階で脈動制御に関する十分な検討が要求される。

 配管内の流体脈動による配管振動の防止に関しては、励振源である流体脈動の予測、及び低減に主眼を置いた研究が従来より数多く報告されているが、配管振動応答までを含めた実用的な解析手法についての研究は数少ない。そこで、本研究では、この点に焦点を当てて、化学プラント等に見られる多くのブランチを有する複雑な配管系を解析対象とし、多数のシリンダから流量変動が作用する場合の配管系の挙動(圧力脈動、配管振動)を設計段階で一度に解析する手法の開発を目的とした。本研究においては、特に以下の点を研究課題とした。

 (1)複雑な配管系の脈動計算に対して、データ作成が容易で、圧縮機と配管系とのアコースティックな相互干渉が考慮可能な高精度の解析手法を開発する。さらに、脈動計算結果から直接配管に作用する加振力を評価し、配管系の振動応答計算まで一気に行える解析手法を開発する。

 (2)試験配管系を用いた検証試験により、本手法の解析精度を確認する。

 (3)フィールドにおける実機での検証により、本手法の信頼性を確認するとともに、適用時の留意点を明確にする。

 圧力脈動の応答計算手法としては、複雑な配管系の解析に有効な剛性マトリックス法を適用した。自動弁の抵抗係数を過去の実験結果より数式化し、配管系との相互干渉を加味した弁の開閉時期、及び流量を時刻歴で解析することにより、クランク1周期分の流量変動を求めた。配管系の圧力脈動の応答解析は、流量変動をフーリエ級数展開し、周波数領域で行った。配管系に作用する加振力としては、圧力脈動、流量変動に起因するものがあるが、本研究では、一般の配管系で運動量変化による流体力成分が配管系の振動応答に対して支配的になる場合は少ないと考え、圧力脈動にのみ着目した加振ベクトル解析を行った。配管系の振動応答計算は、モード減衰の定義を採用し、配管系の剛性マトリックス中に減衰項を割り当てることにより振動方程式を組み立てた。 (1)式が振動方程式である。

 

 ここで、[K]は剛性マトリックス、[M]は質量マトリックス、rはr次のモード減衰比、{a}は変位ベクトル、{F}は荷重ベクトルを示す。

 以上の解析手法の信頼性を検証するために、図1に示す試験配管系で、圧縮機の回転数を任意に制御し、圧力脈動、及び配管振動を計測し、数値解析結果と比較した。

表1 試験条件図1 試験配管系

 本実験より、配管系の圧力脈動の振幅分布(表2に示す)と周波数成分に関して両者に良い一致が見られた。振動応答については、表3に示す如く、振幅を振動ベクトルとして評価すると解析値と測定値が良く一致した。モデル化時のサポート等の取扱い(剛性、境界条件)に留意することにより、解析精度の向上を図れることがわかった。

表2 最大圧力脈動振幅の比較表3 測定点における振動ベクトルの絶対値比較

 フィールドにおいては多種類のサポートが存在し、サポート剛性も異方性を有するものが多い。同時に、支持点の境界条件も一様に定義しにくい。低密度ポリエチレン製造用の超高圧圧縮機の配管を例に、実サポートが配管振動に及ぼす影響について評価した。本圧縮機の場合、過大な配管振動は運転上大変危険であり、サポートの設計が特に重要視されるからである。

 図2に示すサポートのモデル化にあたり、図3に示す如く、3方向の拘束条件を考慮し、サポートの固定点を空間上のX,Y,Z方向に各1点、解析対象とする配管系全体の各方向投影距離より10倍程度遠距離に定義し、そこから各サポート位置を弦支持することにより、剛性の異方性への対応、節点数の低減、プログラム上へのデータインプットの簡素化を図った。フィールドデータによる検証結果、本解析方法により、比較的精度の高い解析結果が得られることがわかった。

図2 配管サポート図3 サポートのモデル化(弦支持)

 本研究で提案した解析技術を、実プラントの圧縮機配管系の振動低減策に適用した。石油精製プラント用の本圧縮機は、取扱いガスを水素ガスとした2段圧縮機であり、3台の圧縮機が並列に設置され、常時2台が運転されている。2台運転時の配管系の振動が全体的に大きいため、配管系全体の振動低減を目的として、配管内の圧力脈動低減策を実施した。配管のフランジ部にオリフィスを適切に配置することにより、表4に示す如く、大幅な振動改善効果が得られ、同時に本解析手法の信頼性がフィールドにおいても証明された。

表4 各号機回り配管部の最大振動値

 配管系への流量変動源として、往復圧縮機以外への適用拡大が今後の課題である。

審査要旨

 本論文は「往復圧縮機配管系の脈動及び振動応答に関する研究」と題し,全6章より成っている.

 第1章は「序論」で,往復圧縮機を含む配管系に生じる圧力脈動とこれによる配管系の振動応答に関する本研究の背景及び目的を述べ,従来の研究を概観して問題点を指摘し,本研究の位置付けを行っている.

 第2章は「脈動及び振動応答解析理論」で,本研究における計算手法について述べている.従来,圧力脈動の計算には伝達マトリックス法が使用されてきたが,配管系が複雑になり,分岐管やループ状配管等が含まれると伝達マトリックス法による計算は非常に困難になる.これを解決するために,伝達マトリックスを変形して流量を圧力で表すと,力を変位で表した剛性マトリックスと同じ形になることに着目して,構造系の剛性マトリックス法を応用している.これによると構造系の力の釣り合いが流量の釣り合いに対応するので,管路系の各節点に流入する流量の和は,外部入力流量がない節点ではゼロ,これがある節点では外部入力流量がそのまま強制入力流量となって,節点圧力を変数とした全体系のマトリックスが容易に得られ,これを解くことによって複雑な配管系の圧力脈動の応答が計算できるようになっている.圧縮機と配管系のアコーステイックな相互干渉を考慮するために,周波数領域で計算された圧力脈動を時間領域に変換して,クランク1周期の弁室の圧力変動を時刻歴応答として求め,これを基にして次の計算ステップの入力となる圧縮機の吸入/吐出流量波形を計算する.この流量波形をフーリエ解析して,再び,各次数ごとに圧力脈動を周波数領域で計算する.この過程を弁室の圧力変動が収束するまで繰り返すことによって連成計算が実行されている.脈動の減衰としては渦粘性を考慮したBinderの式を用いるが,共振点近傍では単一管路の共振倍率の実験値と計算値の関係を用いて補正した減衰を使用している.

 次に,配管加振力としては,管内流体(気体)の運動量変化による加振力は小さいので,圧力変動によるものを考慮して,配管の曲がり部に集中した加振力を与えている.配管系の振動応答は,はりを立体ラーメンとして有限要素法により離散化し,全体系のマトリックスを構成して,圧力脈動の各次数ごとに周波数領域で計算している.振動系の減衰は剛性マトリックスに比例するとしてモード減衰比を与えている.配管サポート部も配管系の一要素として加えている.各次数の振動応答を求め,軸応力,せん断応力及び曲げ応力を計算して最大主応力説に基づいて配管要素の主応力を計算する.最後に各次数の主応力を合成してオーバーオールの応力として評価する.このように,圧力脈動の計算から,加振力の評価,配管振動応答の計算と応力の評価までの一連の計算を可能にしているところに本論文の特徴がある.

 第3章は「試験配管系を用いた検証試験」で,前章で述べた圧力脈動及び配管振動の計算手法の妥当性を検証するために,全長約10mの3B鋼管で作った試験配管系で,圧縮機の回転数を変えて圧力脈動と配管振動を測定して数値計算結果と比較している.圧力脈動の応答については,振幅及び周波数成分とも計算値と測定値は良い一致を示している.試験配管系には圧縮機との接続部にエキスパンション・ジョイントと配管の途中にサポートがあるので,これらの剛性を考慮して振動応答を計算している.配管振動の応答は基準座標の各方向ごとに比較するとややばらつきが見られるが,それを合成した値で比較すると各計測点で良く一致することが確認されている.

 第4章は「実機による検証」で,低密度ポリエチレン用の超高圧圧縮機の第1段吸入配管系で計測した振動応答を計算結果と比較したものである.実機のサポートは異方性を持つので基準座標方向に3つの剛性を持つバネ要素を挿入する必要があるが,個々の支持点に固定点を置くと節点数が多くなるので,各サポートの固定点をある程度遠距離に基準座標方向に各1点共通にとって弦支持とすることにより,各方向の剛性に対応し,かつ節点数の低減を行っている.圧力脈動の計算より加振力を求め,これを用いて脈動による配管振動を求めるとともに,圧縮機の機械的な振動による配管振動も考慮して,振幅分布を求めたところ,計算値は実用上十分な精度で実験値と一致することが確認できている.

 第5章は「実機への適用事例」で,石油精製プラント用の実プラントの配管系で配管振動が大きくなることが予想されたので,本解析手法を用いて振動低減対策を検討し,実プラントに適用して実機試験を行い提案した振動低減策の有効性を検証したものである.

 第6章は「結論」で,本論文で得られた結果をまとめて述べている.

 以上のように,本論文は剛性マトリックス法を応用した圧力脈動解析手法を用いて,複雑な配管系で生じる圧力脈動の応答計算法を確立すると共に,圧力脈動による配管加振力の評価,さらに配管系の振動応答計算法及び応力の評価までの一連の解析手法を開発し,試験配管及び実機試験でその妥当性を検証したもので,機械工学とくに配管系の防振技術の発展に寄与するところが大きい.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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