本論文は、「頭上弁機構における弁のおどり」と題し、内燃機関の標準型弁機構における弁のおどりに関して、理論的実験的研究を行った成果に関するものである。 第1章は「序論」であり、本研究の背景ならびに過去の関連研究を概観し、本研究において頭上弁機構における弁のおどりを扱う意義を明らかにしている。 第2章は「おどり現象とその観察」であり、頭上弁機構を構成する部品列間の分離である弁のおどり現象の解明のため、 1)おどり発生時の弁機構の振動特性 2)おどり発生時の部品間の分離・接触現象の実態を主として実験的に解析している。 実験は弁機構のみを駆動するリグ試験装置によって行った。まず弁機構の振動を代表的に捉えるプッシュロッド荷重信号を高速フーリエ変換器によって分析することにより、おどりの未発生、発生、すなわちおどりの発生する機関(カム)回転速度を特定した。おどりが未発生のいわゆる正常状態では、プッシュロッド荷重信号は固有振動数ほぼ一定の振動を示すが、おどりが発生するとその信号は固有振動数が高まるとともに零に近い小さな値で変動する。 次に弁のおどりの発生時に、頭上弁機構の部品列のどの部品間が分離・接触するかを検知出来るように、ロッカアームとロッカ軸を電気的に絶縁、またプッシュロッドをセラミックを介して上下に二分割、更にフォロワガイドをもセラミック製として、それぞれ電気的に絶縁して、4組の電気回路出力を取り出した。その結果、 1)おどりはカムとフォロワ間の分離する現象である 2)おどり状態では弁からフォロワまでの部品が連結して運動する 3)おどり時に現われる正常時よりも高い固有振動数は一定でないことを確認した。 第3章は「おどりを記述するモデル」として、第2章で得られた新しい知見を踏まえて、最も基本的なところから弁機構のモデルを再構築している。 まずおどり状態における弁機構の固有振動数が変動する原因を追求した結果、それが各部品間の接触面の弾性変形によるものと判定された。すなわちヘルツの接触理論により、接触部のばね定数変化が導かれ、接触荷重の変動に伴う振動数の変動が合理的に説明できた。 次いで従来の研究において一般的であった弁まわりの質量を中心とするいわゆる1質点モデルの制約から離れ、おどり現象をより忠実に記述できる手法、モデルを追求した。その第一が1質点モデルの修飾を最少限に止めるように考案した2質点モデルである。この2質点モデルにおいては、弁がおどらない正常時にはカムによる強制変位が入力となり、1質点モデルと変わらないが、おどるとフォロワ回りの質量が加わり自由振動となるものである。このモデルによるおどり発生回転速度の予測値は実測値と一致するが、おどりの発生時期とプッシュロッド荷重の算出精度は不十分である。 そこで精度向上のため、質点数を増して実系との対応をより一層明瞭にした、3、4、5、6、質点モデルを設定して、特に弁がカムの拘束を離れておどってからカムに復帰するまでの挙動の算出状況を詳細に調査した結果、6質点モデルにおいて上述の部品間の接触部のばね定数変化を取り入れたものが満足すべき結果を与えることが示され、この新6質点モデルの適用により、あらゆる運転条件下において弁系各部の挙動が精確に記述できるようになった。 第4章は「結論」である。 以上のように、本論文は従来未解明の部分が多かった弁のおどりの現象を明らかにするとともに、そのおどりをも含めた弁機構の力学的挙動の正確な予測法を初めて提示したもので、内燃機関工学ならびに内燃機関工業の発展に寄与するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |