学位論文要旨



No 213282
著者(漢字) 前田,あきら
著者(英字)
著者(カナ) マエダ,アキラ
標題(和) 設備情報管理を目的とした図面入力方式の研究
標題(洋)
報告番号 213282
報告番号 乙13282
学位授与日 1997.03.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13282号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高木,幹雄
 東京大学 教授 羽鳥,光俊
 東京大学 教授 濱田,喬
 東京大学 教授 坂内,正夫
 東京大学 教授 石塚,満
 東京大学 助教授 相澤,清晴
内容要旨

 近年、コンピュータを利用した設備情報管理は、電力、鉄道、道路等様々な分野で導入が図られている。設備情報管理システムは保有する設備の情報をデータベースとして整備して保守、改変、運用計画等の種々の業務に利用するものであるがこのシステムの中心となるのは設備の内容を示す設備情報データベースと設備の設置位置を示す図面である。

 このデータベースを完全にコンピュータ化し運用していくには、これまで管理に用いられてきた大量の紙の図面をコンピュータに入力し更に設備改変により発生するデータ改訂に対応していくことが必要である。このためにはコンピュータにより効率よく図面の入力、処理を行うシステムが必須である。

 手書きの図面データのコンピュータへの入力は古くからデイジタイザやCADシステムを用いて人手により行われてきたがこの作業を省力化するためにコンピュータにより図面を自動的に認識して読取り、データベース化する研究開発が種々の図面について進められてきた。しかし、コンピュータによる図面自動読取り技術はまだどんな図面でも自由に読めるという状況ではなく以下の様な要因で読取りの誤りを生ずることがある。

 (1)コピーや長期間の保管により汚れ等が多く線のかすれ、にじみが起きている。

 (2)対象どうしが接触、重畳していて読取り判断が難しい。

 このため、対象図面の内容、品質状況に対して個別に技術開発を行いコンピュータが読取り易いような記入規則を決めるとか、はじめから対話型で人が指示して必要部分を認識させる等いろいろな入力方式を開発して採用している状況である。

 この設備情報管理システムで用いられる図面は背景となる地図等の上に装置や配管、配線等の設備がシンボル化されて配置されたものである。このため、背景と設備の間の重畳が多く、図面入力技術の苦手とする対象であり、交差する線を分離する技術、背景や他の要素と接触、重畳するシンボルや文字を図面の中より検出し認識する技術、背景に重畳するだけでなく大きさや形状が一定規則の元に変化する設備の図形を認識する技術等未解決の課題が多い。

 また、設備情報管理用の図面から設備情報を読取ってデータベースを構築するには単に図面上の個々の要素を読取り認識するだけでなく、周辺に記入されている関連情報や接続する要素との関係を判断し要素間の関係付けを行い設備情報データベースに対応したものにしたり、関連する情報より図面の大きさ、形を補正したする後処理が必要でこれの自動化も重要な課題である。

 これらの技術を含む効率の良い入力システムを実現するには完全自動の認識システムでなく、この部分はどういう要素がどういう形で重畳しているといった大局的な判断に優れている人間と多くの要素を一定の規則で認識し入力したり、精度よく位置を求めたり図形の形状を変形させる等の処理に優れているコンピュータが作業を分担して協調して入力作業を進めるいわゆる半自動認識の方が有効である。

 本研究は設備図面の入力に最も効率の良い対話型図面入力システムの実現を目的として設備図面の入力に効果の大きい背景や他の要素と複雑に接触、重畳する線、文字、シンボル、図形の読取り技術、入力されたデータを設備管理に必要なデータベースに変換する後処理技術の確立を目指すものである。

 本研究の主な成果は以下の4点である。

(1)設備図面入力のための対話型図面入力システムの開発

 設備図面のように要素間の接触、重畳の多い複雑な図面の入力には人間とコンピュータが各々強みを生かして協調して対話型で入力を行うシステムが有効である。

 本研究では図面を入力したイメージデータ、これを前処理したベクトルデータを用いて認識処理する範囲や対象を指定し、線、シンボル、文字列、複合図形、不定形図形の5種類の対象に対して対話型で認識を行い更にこれらの図形の関連付け、補正等の後処理を行う対話型システムを開発した。

(2)複雑に交差する線の分離方式の確立

 交差した線分は、人間は容易に判断できるがコンピュータで処理すると細線化の誤差が交点部分で生じ、しかも複数の線が近くで交差するような交点ではかなりの乱れが生じるため線の分離は困難である。

 本研究では、線が接続する対象の規則を利用して正しく線を判断し分離する方式と、交差領域と線の境界点の状態に対して境界内で起こりうる線の状態を辞書としてもち、これとマッチングを行い線の接続関係を求める方式について示した。

(3)背景に重畳する不定形状の設備図形を認識する方式の確立

 シンボル化されていない設備はその形状、大きさ、位置を示す図形として記入されているが同じ対象でもその内容により大きさ、形状が変化する。

 本研究ではこれらの図形を背景より分離して1つの対象として認識するために構成する線を直進性により、両端が端点と分岐点よりなる構成要素に分割し、これを組み合わせて図形を組み立てていき設備条件にあうものを取り出し認識する方式を開発した。これにより対象周辺を対話型で指示することにより容易に設備図形の抽出認識が可能である。

(4)設備情報管理データベース構築方式の確立

 コンピュータで設備情報を管理するには設備間の接続等の関係や設備に関する情報、更に背景の対象との位置関係等がデータベース化される必要がある。このためには図面の中より図形を読取るだけでなく、記入位置や接続関係でお互いのデータを関係づけるとともに背景との位置関係を読取り、又図面に記入したことにより起こる図形の歪みや省略等を補正して正しい位置関係、幾何学的関係に補正するような処理が必要である。

 本研究では、対象となる設備情報を読取り、線分や円等の複数の図形で構成された1つの設備をグループ化したり、設備の情報を示す文字列を設備の図形にリンクする等を行う構造化処理技術、グループ化された図形を1つの設備図形として登録したり付属する文字列の情報に従って図形の位置や形状を補正する等を行う図形編集処理技術等を開発し設備情報管理のデータベース構築技術を確立した。

 以下本論文の内容を章ごとにまとめる。

 第1章の序論に続いて第2章ではこの論文の対象分野である設備情報管理システムの概要を説明し、コンピュータ化によりシステムの形態がどう変わるか、コンピュータ化のための課題、特に現在紙で管理している図面をコンピュータに入力するための課題について述べる。

 更に図面入力技術について世の中の研究開発の動向及び現状の課題をサーベイする。現在の図面入力技術の限界について述べ、設備管理図面のような複雑で品質の悪い図面の入力に対しては人間とコンピュータが各々の得意なことを分担し協調して入力を行うような対話型図面入力システムが有効であることを述べる。

 第3章では本論文の成果であり、設備情報管理のための図面入力を最も効率化するための対話型図面入力システムについて述べている。まず設備情報管理の図面入力を効率化するための要件について述べ、これを実現するための図面入力システムに求められる機能を示す。さらに人間が得意とする図面中の対象を見つけて指示するようなことは人間に任せ、一定の規則で大量のデータの認識を行うようなコンピュータが得意とすることはコンピュータで自動化するようなシステムを提案している。このシステムの処理方式について述べ、この中で先進的手法で課題を解決したポイントについて示す。このポイントについては以下、第4章、第5章、第6章で詳しく述べる。

 第4章では複雑に交差する線の分離方式について述べる。

 第5章では、背景に重畳する不定形状の設備図形を認識する方式について述べる。

 第6章では、認識された結果を用いて設備情報管理のデータベースを構築する手法について述べる。

 第7章では、開発した図面入力システムの実際の設備情報管理システムへの適用について述べる。

 交通関連等の実例においてどの程度入力効率が改善されたかの評価を行う。また、適用の際の作業と課題についてのべる。

 第8章では、開発した技術についてのまとめ及び残された課題について述べる。

 以上まとめると本研究では設備図面入力に効率の良い対話型図面入力システムを開発し、これに必要な複雑に交差した線の分離方式、背景に重畳する不定形状の設備図形の認識方式、設備情報データベースの構築方式等を考案した。これにより設備情報管理システムの構築に不可欠な大量の設備図面の入力の効率化が期待できる。

審査要旨

 本論文は,「設備情報管理を目的とした図面入力方式の研究」と題し,複雑な設備図面を対象として,設備データベースを構築するために行った効率の良い対話型図面入力システムの開発に関する一連の研究を纏めたもので,8章よりなっている。

 第1章は「序論」で,本研究の背景について述べ,本研究の目的を明らかにすると共に,本論文の構成について述べている。

 第2章「設備情報管理システムとそのための図面入力の現状と課題」では,図面入力技術の研究開発の動向及び現状の課題を概観し,設備管理図面の様な複雑で品質の悪い図面の入力に対しては,人間とコンピュータが各々の得意な分野を分担し,協調して入力を行う対話型図面入力システムが有効であるとの結論を得ている。

 第3章「設備図面入力のための対話型図面入力システム」では,要素間の接触,重畳の多い複雑な設備図面の入力において,人間とコンピュータが各々の強みを生かして協調して行う対話型入力システムを提案し,その処理方式について述べている。

 第4章「交差した線の分離方式」では,線が接続する対象の規則を利用して正しく線を判断し分離する方式と交差領域と線の境界点の状態に対して境界内で起りうる線の状態を辞書として持ち,これとマッチングを行い線の接続関係を求める方式を提案している。

 第5章「背景に重畳する設備対象図形の認識」では,形状,大きさ,位置を示す図形として記入されているが,同じ対象でもその内容により大きさ,形状が変化するシンボル化されていない設備の図形を背景より分離して1つの対象として認識するために,構成する線を直進性により両端が端点と分岐点よりなる構成要素に分割し,これを組合せて図形を組立て,設備条件に合うものを取出し認識する方式を開発している。

 第6章「設備データベースの構築」では,対象となる設備情報を読取り,線分や円等の複数の図形で構成された1つの設備をグループ化し,設備の情報を示す文字列を設備の図形にリンクする構造化処理技術,グループ化された図形を1つの設備図形として登録し,付属する文字列の情報に従って図形の位置や形状を補正する図形編集処理技術を開発し,設備情報管理のデータベース構築技術を確立したことを述べている。

 第7章「設備情報管理システムへの適用」では,開発した図面入力システムを交通関連等の設備情報管理システムへ適用した実例について述べ,どの程度入力効率が改善されたかの評価を行い,適用の際の作業と課題について述べている。

 第8章は,「結論」であって本研究の成果を纏めている。

 以上これを要するに,本論文は設備図面を対象として,複雑に交差した線の分離方式,背景に重畳する不定形状の設備図形の認識方式,設備情報データベースの構築方式を考案し,設備情報管理システムへ適用してその評価を行う等,図面入力技術の進展に寄与するところが多大であり,電気・電子工学に貢献するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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