学位論文要旨



No 213283
著者(漢字) 嶋田,茂
著者(英字)
著者(カナ) シマダ,シゲル
標題(和) 地図/図面データベースの自動構築と意味的検索に関する研究
標題(洋)
報告番号 213283
報告番号 乙13283
学位授与日 1997.03.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13283号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高木,幹雄
 東京大学 教授 羽鳥,光俊
 東京大学 教授 原島,博
 東京大学 教授 坂内,正夫
 東京大学 教授 石塚,満
内容要旨

 本研究では、地図/図面情報が広い分野で容易に活用されることを目的とした地図/図面データベースの自動構築技術とそのデータベースの意味的な検索方式について論じる。従来、広範囲の分野へ情報提供可能な地図/図面データベースを構築するためには膨大な費用を要する外、構築後の地図/図面データベースの構造が複雑となるため一般ユーザから容易に検索できないといった問題が起こっていた。本論文ではこれらの問題を解決するために検討した各種の技術内容について纏めており、次のような3つのグループに分けた編成をとっている。

 まず第1グループの形状構造の自動構築としては、第2章の図面シンタックスに基づく推論による線図形の理解と第3章の地図/図面レイヤー要素と構造の認識を論じ、第2グループの要素間関係構造の自動構築としては、第4章の推論連携による地図/図面データベースの自動構築と第5章のオブジェクト指向構造化によるヘテロ分散型地図/図面データベースの自動構築について論じ、第3グループのデータベースの意味的検索としては、第6章の幾何的な推論機能を有する自然語検索インタフェースと、第7章の意味構造補償による主題地図の自動生成システムについてそれぞれ論じている。

 第1章の導入部では、地図/図面情報システムの主な適用分野として、公共企業体や中央官庁・地方自治体を中心に、金融・保険関係や交通・流通関係、及び製造業関係へと広範囲への展開が図られていることを示す。又本研究分野の技術動向として、初期のメッシュベースの情報フィルタとしての活用時期から、公共企業体や自治体における計画策定システムとしての活用時期を経、最近の民生機器への応用時期に変遷していることについて述べる。本研究ではその中でも計画策定システムとしての位置付けで、形状情報の認識と理解機能の高精度化と複数データベース間の自動連係方式、及び各応用に向けた意味的検索方式の3つの課題を中心に検討を進める。

 第2章では、本研究の取りかかりとして、文字・記号を含まない形状情報主体の多層図面を対象に、認識率の高い実用化システムを狙うことを述べ、多層図面の中でも半導体設計基準から図面シンタックスの明確なLSIセル図の自動認識と理解方式について論ずる。まず認識の対象とする多層図面の規則として、各層に対応する線図形が、カラーや破線・鎖線等の線種により区別されていることを示す。このうちカラーの認識は、過去に開発した図面自動入力装置により行われるので、本研究では色別の単純なベクトルデータに変換された線図形に対する認識と理解技術となることを示す。

 そして破線・鎖線の認識方式では、実線として認識される線セグメントの集合を対象として、隣接関係の配置に着目したローカルな認識処理系と、閉図形性など図面固有のシンタックスを利用して図面全体として矛盾の無い認識を行うグローバルな認識処理系について述べる。一方複数の線が完全に重なる重畳部を一意的に解釈可能な表現方法について纏めた後、この重畳部の表現方法で記述されたLSIセル図に対して、探索範囲を適応的に拡大させながら重畳線の存在範囲を推定するルールベースの理解アルゴリズムについて述べる。以上の2つの認識・理解方式を、実際のLSIセル図設計システムの図形入力部へ適用した場合の状況について纏める。

 第3章では、まず地図/図面データベースからの検索の高速応答性や多機能性の要求に対応するためにはレイヤー構造化が必要なことを示し、従来から用いられていた代表的なベクトル前処理型認識方式と画像分離型認識方式の特長と問題点について纏める。そこで本研究では、これらの問題点を解決すべく新しい方式として、画像分離型認識手法に基づき画像処理の高速・高精度化の補償、及び対話誘導型認識処理との並列化を行った新しい並列型認識手法を提案する。次に、地図/図面内の文字・記号要素の配置に関する記述規則を図面シンタックスとして定式化し、これらの要素自身のシンタックスを用いて各要素の存在範囲を予測抽出する方式と、要素間の配置関係に関するシンタックスを用いて、確定要素から他の要素を推論抽出する方式について述べる。この新しい並列型認識手法を電力会社配電部門の地図/図面データベース構築に適用し、従来のデータベース構築費に比べ1/5以下に削減可能となることについて述べる。

 第4章では、新たに構築される地図/図面データベースだけではなく、地形図CD-ROM等の既存のデータベースや、設備属性DB及び顧客DBなど他の部門で独立に運用されているデータベース等を用いた連係による構築方式について述べる。まず地図/図面内の複数の要素間の対応付けを行う場合、図面要素間の配置関係に関する図面シンタックスをルールベース化し、これに基づく推論から連係率を向上させる方式について提案する。一方営業部門などで必要な顧客DBと住宅地図DBとの連係に関しては、顧客名称と住所及び住居名称などを用いた階層的な自動連係方式を提案する。この場合、顧客名称や住居名称等の名義部分を固有名詞と普通名詞とに分解してそれぞれ類語を推論すると共に、これらの組合せに関する推論も行う方法について述べる。

 以上の連係方式を、実際の電力会社における配電部門と営業部門におけるデータベース構築に適用し、有効な結果を得たことについて纏める。

 第5章では、前章で説明したそれぞれ独立に存在するデータベース間の連係方式を発展させ、各データベースがそれぞれ独立に稼働している状態からリアルタイムで融合可能な、ヘテロ分散型地図/図面データベースを構築する方式について述べる。そのため、まず地図/図面情報処理で扱うマルチメディアの定義を明確にし、それらをオブジェクト指向表現することにより、メディアの特性や処理手続に影響を受けない構造化が可能となることを示す。次に多様な応用の観点から構造を把握可能な視点別オブジェクト表現と、部品関係構造を持つ親オブジェクにメッセージを与えるだけで手続きの伝播が可能な自動処理伝播機構についても述べる。そして、これらのメカニズムを公共企業体の営業部における顧客サービス情報管理システムへ適用し、顧客と訪問サービス員との間の交渉結果をマルチメディアのメモ情報として記録・管理するシステムに有効であることを示す。

 第6章では、多種類のメディアを有しかつ複雑な構造を有する地図/図面データベースのモデル化を行い、これらの効率的な管理方法と、知識ベースを用いた検索の自動化及び自然語による検索インタフェース方式について述べる。まず地図/図面データベースのモデルとして、名称・属性・図形・画像の4つのメディアで構成され、特に図形・画像には構造化成分の外に非構造化成分を許容する必要があることを示す。次にこの地図/図面データベース管理システムの実現方法として、名称・属性はRDBMSで、図形・画像は専用の管理システムでそれぞれ管理するといった多元管理方式が、従来の一元管理方式に比べ図形検索の速度が1000倍以上高速となることを示す。次に複雑な構造となりがちな地図/図面データベースの意味構造を知識ベース化して検索手続の推論を行うことにより、検索の自動化がなされることを示す。そして更にこの検索機能を進め、地名等の固有名詞と幾何的な連体修飾表現を含む日本文の意味抽出から、検索手続を推論する方式について説明する。この自然語検索インタフェースを住宅地図を用いた地理案内システムに適用し、その有効性を実証する。

 第7章では、従来の汎用的な地図ではなく、用途に応じて必要部分を抽出・強調させ、不要部分は省略・簡素化させた主題地図の必要性とその自動生成方式について述べる。まずこの主題地図の生成方式として、幾何的形状の簡素化や地形図要素の間引き再配置といった従来の方式では不十分で、論理的な意味構造を動的に生成可能な方式が必要となることを示す。この場合、地図/図面情報を提供するDBサーバの保持する意味構造と、ユーザが求める主題地図の意味構造との間に差が生じるスキーマミスマッチが最大の問題となることを示す。そこで、ユーザから指定された主題地図の意味構造と既存の主題地図の意味構造との類比をとることにより、新たな主題地図の意味構造を動的に生成可能な、類推型の意味構造補償方式を提案する。そしてこの方式を、詳細な住宅地図から案内用の要約地図を生成する例と、3次元鳥瞰図を生成する例とに適用し、その有効性を確認する。

 第8章では、上記の各章で検討した技術内容を、形状構造の自動構築技術と要素間関係構造の自動構築技術、及びデータベースの意味的検索技術の3つの観点からその成果を総括する。そしてこれらの技術を踏襲した今後の展望について纏める。

審査要旨

 本論文は,「地図/図面データベースの自動構築と意味的検索に関する研究」と題し,形状情報の認識と理解機能の高精度化,複数データベース間の自動連係方式や応用に向けた意味的検索方式の開発等,地図/図面データベースの構築と意味的検索に関する一連の研究を纏めたもので,8章よりなっている。

 第1章は「序論」で,本研究の背景について述べ,本研究の目的を明らかにすると共に,本論文の構成について述べている。

 第2章「図面シンタックスに基づく推論による多層図面の理解」では,図面シンタックスの明確なLSIセル図に対して,探索範囲を適応的に拡大させながら重畳線の存在範囲を推定するルールベースの理解アルゴリズムを開発し,LSIセル図設計システムの図形入力部へ適用した結果を示している。

 第3章「地図/図面レイヤー要素と構造の認識」では,画像処理の高速・高精度化と対話誘導型認識処理とを並列化した並列型認識手法,地図/図面内の文字・記号要素の配置に関する記述規則を図面シンタックスとして定式化し,これらの要素自身のシンタックスを用いて各要素の存在範囲を予測抽出する方式,要素間の配置関係に関するシンタックスを用いて確定要素から他の要素を推論抽出する方式を開発し,電力会社配電部門の地図/図面データベース構築に適用して,従来のデータベース構築費に比べ1/5以下に削減可能としたことを述べている。

 第4章「推論連係による地図/図面データベースの自動構築」では,複数の要素間の対応付けを図面要素間の配置関係に関する図面シンタックスをルールベース化し,これに基く推論から連係率を向上させる方式を提案している。又,顧客データベースと住宅地図データベースとの連係に関して,階層的な自動連係方式を提案し,電力会社における配電部門と営業部門におけるデータベース構築に適用し,有効であったことを述べている。

 第5章「オブジェクト指向構造化によるヘテロ分散型地図/図面DBの自動構築」では,各データベースが独立に稼働している状態からリアルタイムで融合可能なヘテロ分散型地図/図面データベースを構築する方式を提案し,オブジェクト指向表現によりメディアの特性や処理手続に影響を受けない構造化を可能としている。次に,多様な応用の観点から構造を把握可能な視点別オブジェクト表現と部品関係構造を持つ親オブジェクにメッセージを与えるだけで手続きの伝播が可能な自動処理伝播機構について述べ,公共企業体の営業部における顧客サービス情報管理システムへ適用して,その有効性を示している。

 第6章「幾何学的な推論機能を有する自然語検索インタフェース」では,名称・属性は関係データベースで,図形・画像は専用の管理システムで管理する多元管理方式が,従来の一元管理方式に比べ,図形検索速度が1000倍以上高速となることを示している。地図/図面データベースの意味構造を知識ベース化して検索手続の推論を行い,地名等の固有名詞と幾何的な連体修飾表現を含む日本文の意味抽出から検索手続を推論する方式を提案し,この自然語検索インタフェースを住宅地図を用いた地理案内システムに適用して有効性を示している。

 第7章「意味構造補償による主題地図の自動生成システム」では,主題地図の意味構造を動的に生成可能な類推型の意味構造補償方式を提案し,詳細な住宅地図から案内用の要約地図を生成する例と3次元鳥瞰図を生成する例とに適用し,その有効性を確認している。

 第8章は,「結論」であって本研究の成果を纏めている。

 以上これを要するに,本論文は図面シンタックスに基く推論による線図形の理解,地図/図面レイヤー要素と構造の認識,推論連携による地図/図面データベースの構築,オブジェクト指向構造化によるヘテロ分散型地図/図面データベースの構築,幾何的な推論機能を有する自然語検索インタフェース,意味構造補償による主題地図の生成を論じ,地図/図面データベース技術の進展に寄与するところが多大であり,電気・電子工学に貢献するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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