審査要旨 | | ディジタイザ(タブレット)は、二次元座標データの簡便な入力装置として、マンマシンインターフェースの重要な一端を担っている。このディジタイザの座標検出には、従来は磁歪シートなどの平面分布型デバイスが用いられてきたが,この原理自体が座標計測装置としての新しい応用展開を図る上で、いくつかの困難さをもたらしている。それらは,大型化が困難であること,ユニットへの分解が不可能で可搬性に乏しいこと,原理的に三次元化に適さないことである。本論文は,三角測量法に基づく光学式の座標測定原理をディジタイザに導入することにより,大型化と可搬性の両立とスムーズな三次元化に道を開くとともに,これにともなって発生する精度の低下や座標基準の校正の問題,分解能の空間的不均一さ,反射光量の減少と外乱光の増大の問題に対して実用性の高い解決法を与えたもので,3部構成の全13章で構成されている。 第1章の序論においては、上記の問題意識と研究課題が整理されるとともに,三角測量方式において低コストと高精度を両立する鍵として,定速回転ミラーによる方位角の時間変換測定方式が導入される。 第一部は5章から構成され,本研究により初めて実用化したレーザ光線を用いた能動型二次元大型ディジタイザの基本原理とその高度化が論じられている。第2章では,光学ユニットから座標測定点を与えるカーソルヘレーザ光線を往復させ,その方位角を回転ミラー自体による正反射時刻からの経過時間として計測する原理が示される。論文提出者は,光学系のミスアラインメントを許容する座標計算アルゴリズムとその校正原理を考案することにより,設置組立後30分程度の校正時間で,4m×3mの測定領域を誤差0.15mm,頻度20回/秒で測定できる性能を得たと報告している。続く第3章と第4章は,この方式の高精度化のために,測定誤差の空間依存性の解析と,校正のための基準点位置の最適化に関して理論的に考察し,第5章では,校正の簡便化のために,長さが既知の測定棒の両端位置を数点で測定し未知パラメータを決定する方法を提案し,実験例を報告している。さらに第6章では,測定領域の一層の拡大を目指し,30m×30mの領域を誤差5mm以内で測定するディジタイザを開発し,平面測量分野へ応用した例を報告している。 続く第二部は4章より構成され,ディジタイザの三次元化を目指した基本原理の提案と基礎実験結果が論じられている。第7章では,低コスト高精度を実現する鍵としての定速回転ミラー機構の重要性と,三次元化による反射光量の減少と外乱光の増大をここでの主要な問題として指摘したあと,準備として,パルス圧縮と最適変調波形の理論を導入している。続く第8章で,二次元ディジタイザの自然な発展としてシートビームと3個の光学ユニットを用いる能動型三次元ディジタイザについて論じた後,第9章では,カーソルに変調発光体を埋め込み,それを高速回転ミラーを付したTVカメラで流れ画像として取り込む新しい方位角測定方式を提案し,基礎実験結果を報告している。取り込まれた画像のパルス圧縮処理により,カーソル発光体の光量を等価的に増大させ,サブピクセルの像面位置精度を実現するとともに,静止外乱光のほぼ完全な除去を可能としている。第10章では,この原理をさらに発展させ,変調にLPM波を用いることにより,単一の光学ユニットのみで三次元位置を測定できる,単眼方式半受動型三次元ディジタイザを提案し,基礎実験結果を与えている。 第三部は,本光学式ディジタイザの応用と題し,他の三次元座標計測システムに対する本光学式ディジタイザの特徴と,今後の可能な応用展開について論じている。最後の第13章は結論であり,本研究の成果を総括し,さらなる発展のために今後の課題を論じている。 以上,要するに,本論文は,従来の平面分布型のディジタイザでは実現困難であった大型化や可搬性の付与と三次元測定への拡張に関して,三角測量法に基づく光学式座標測定原理の導入によって道を開くとともに,これにともなって発生する座標基準の校正の問題,分解能の空間的不均一さ,反射光量の減少と外乱光の増大の問題に対する見通しのよい解決法を提示し実用化を行ったもので,本研究の波及効果は大きく,計測工学上の貢献が大きい。よって,本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認める。 |