学位論文要旨



No 213286
著者(漢字) 藤本,生松
著者(英字)
著者(カナ) フジモト,イクマツ
標題(和) 光学式大型ディジタイザとその三次元化に関する研究
標題(洋)
報告番号 213286
報告番号 乙13286
学位授与日 1997.03.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13286号
研究科 工学系研究科
専攻 計数工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 安藤,繁
 東京大学 教授 藤村,貞夫
 東京大学 教授 杉原,厚吉
 東京大学 助教授 石川,正俊
 東京大学 助教授 出口,光一郎
内容要旨 1.本論文の目的と課題

 本論文では、回転走査機構を有する光学式二次元および三次元大型ディジタイザの開発を目的とする。

1.1可搬型で精度を保証する二次元大型ディジタイザの開発

 多くの分野で実物大のデザインに対する強い需要がある。しかし、従来のディジタイザでは、高精度で大型の平面分布型デバイスの作成が困難であるために、その作業を行える超大型で高精度というものは開発できていない。また、原理的にも大型化にともない、従来の平面分布型デバイスの均一性や環境の一様性を保ち得ない難しさがあるため、単純に拡大するような発展方向が望ましいとは言えない。

 そこで、われわれは、ディジタイザの測定原理として回転機構を有する光学式を採用した。従来の二次元分布型のディジタイザの高い操作性を引き継ぐと同時に、大座標領域化が容易・精度要求が少数の集中型ユニット・分解可能で可搬性が高いなどの特色を得ることができるためである。しかし、その反面、次のような問題点も発生することになる。

 1)座標測定の精度が測定対象の位置に依存し、一様な精度保証が困難となる。

 2)ユニットの間の位置関係を安定に保つことが困難になり、設置方法次第では精度が極端に劣化する。

 後者の問題点に対しては、使用現場におけるディジタイザのキャリブレーション方式の導入が最も自然な選択である。このときの技術課題は、ユニットをどのように設計すれば、容易に素早く座標検出精度を保証できるかという点があげられる。これらの問題に対して、われわれは、アーキテクチャ・アルゴリズム・キャリブレーションの三方向から検討を行い解答を与える。とくに、アルゴリズムとその解析、その延長上で導きだされるキャリブレーションに力点をおいた。

 すなわち、アーキテクチャの方向からは、回転機構を有する三角測量方式を考えた。二つの光学系ユニットの間の位置関係を正確に把握する必要がある本原理のマイナス要因を取り除き、回転機構によって高い操作性と安定した座標検出精度を実現することが課題となる。アルゴリズムの方向からは、線形化されたアルゴリズムを使用し、空間依存性を考慮した詳細な誤差解析を与える。このアルゴリズムにより、光学系ユニット内の各パートの配置位置に大きな自由度を与え、両光学系間の距離情報を不要にする。キャリブレーションの方向からは、長さ基準だけを有する測定棒というものを考えて、簡便な方法の実現を目指した。

1.2三次元ディジタイザの基本原理の開発

 工業・医療・アパレルなど様々な分野で望まれている三次元計測は、認識系のための特徴量としての立体感を求めるというよりは、位置や形を定量的に正確に求めることが必要とされている。ディジタイザは、本来、座標測定器と位置づけられるものであり、その測定対象を従来の二次元座標から三次元座標へ拡大することは、自然な発展方向として多くのニーズがある。

 以上の認識のもとに、1.1で述べた光学式二次元システムの三次元化を検討するのが、二番目の課題である。前提として、下記の二通りの構成を考えた。

 (1)レーザ光源の直後に回転走査機構を置き、カーソルに反射ミラーを設ける能動型。

 (2)カーソルに光源を設け、光センサ(TVカメラ)の直前に回転走査機構を置く半受動型。これらは、いずれも前述した光学式ディジタイザの利点を引き継ぐために必要な構成である。上記の仮定のもとに実現可能なディジタイザは、下記方式が考えられる。

(a)能動型ディジタイザ

 レーザ光線走査の形態と測定自由度から、面状光ビームを用いる方法(1自由度)・線状光ビームを用いる方法(2自由度)・変調光を用いる方法(3自由度)を組み合わせることによって色々な計測方法が考えられる。本論文では、上記二次元ディジタイザの一番自然な拡張としてのシートビームを利用したシステムをとりあげて、特に理論解析と誤差解析、校正方法を中心に述べる。

 しかし、光量の問題など技術的に解決すべき問題も同時に明らかになる。本論文では、これを三次元化に伴って生じる本質的な問題として捉え、外来雑音(太陽などの他の照明光)の影響を受けにくい三次元ディジタイザの実現性を検討する。そこで、本問題の解決のために、レーダによる距離測定などに利用されているパルス圧縮の技術の応用を試みる。

(b)半受動型ディジタイザ

 能動型に対応して、同様にタブレット光源の変調と測定自由度の観点からCCDイメージセンサーの利用(1自由度、回転機構により1次元に低下)・カーソル光源の時間変調1(2自由度、時間変調光源を明暗の光の帯として撮影、パルス圧縮の技術の利用)・カーソル光源の変調2(3自由度、変調光により距離情報の獲得)と分類される。以上を組み合わせることによって、パルス圧縮を利用した角度測定型ステレオ方式と角度・距離測定型単眼方式が考えられる。そこで、パルス圧縮の実現可能性や距離計測の方法の検討が重要な課題となる。

2.本論文の構成

 本論文は、序論、結論と下記10章の12章構成となっている。

第一部二次元大型ディジタイザの開発

 1)レーザ光線を用いた能動型二次元大型ディジタイザ

 2)測定誤差の空間依存性の解析

 3)光学ユニットと基準点位置の最適化

 4)測定棒を用いた簡便な初期測定方法

 5)平面測量分野への応用

第二部三次元ディジタイザの基礎原理の開発

 6)準備:パルス圧縮と最適変調波形

 7)シートビームを利用した能動型三次元ディジタイザ

 8)パルス圧縮を利用した半受動型三次元ディジタイザ

 9)LPM波を利用した単眼方式半受動型三次元ディジタイザ

第三部本光学式ディジタイザの応用について

 10)本光学式ディジタイザの特徴と応用

3.本研究の結果3.1二次元システムの実現と評価(a)レーザ光線を利用した可搬型で精度保証する二次元大型システムの開発

 6m*2m,4m*3mの座標領域においては、平均座標検出精度±0.15mmを実現した。かつ、その精度保証を行なうキャリブレーションも容易であり、可搬性の高いシステムとなっている。現在、本システムは工業デザイン分野で実用化されている。

(b)二次元システムの平面測量分野への応用

 基本構成は二次元大型システムと同じであるが、100m四方領域において信号認識を可能とするために、レーザ光線のバワー、反射テープの改善やエクスパンダーの利用などを行った。その結果、室内30m平方領域で、平均座標精度±5mm以内を実現した。従来の測量器で困難である測量作業をディジタイザ感覚で行えるといった大きなメリットあり、十分平面測量分野での実用性が高いことが分かった。

3.2三次元ディジタイザの基本原理の開発(a)シートビームを利用した能動型

 三方向から、それぞれシリンダレンズでレーザ光線をシート状に拡大して、座標領域を回転走査させて、それぞれ角度測定を行い測定対象点の位置を決定しようとする型の検討を行った。とくに、座標計算アルゴリズム、その基礎解析と基礎実験を中心に述べた。基本的な角度のばらつきの実験結果から推定すると高精度の実現(1m立方で±0.3mm程度)を十分期待出来ることが分かった。

(b)パルス圧縮を利用したステレオ方式半受動型

 本システムは、カーソル部のLED光源を時間的に輝度変調させて、回転ミラーにより各変調成分を分離してカメラ像面空間に展開させることによって、背景光の影響を押さえ、測定の高精度化をはかろうとする新しい計測原理を提案した。

 理論解析では、画像観測モデルとして、背景雑音と画素雑音が加えられたものを考えて、パルス圧縮と回転ミラーの相乗効果により、S/N比を最大にすることを整合フィルターの理論などにより示した。また、基礎実験により本計測方法は背景雑音と画素雑音の両方に対してS/N比の大幅な改善が行われ、かつ、カメラ像面座標値の決定を画素以下の分解能で可能であることを示した。

(c)線型周期変調波を利用した単眼方式半受動型

 線形周期変調波を用いて、カメラ像面の座標値の測定と同時に距離測定を行い、カーソルの位置を求める単眼方式を検討した。距離測定は、線型周期変調波の放射とそのエコー波との関係により、画素空間に投影されたパターンの伸縮率を位相の回転量から求めて距離を決定する新しい計測方法の検討を中心に行った。数値実験の結果、本方式は十分実現可能であることが分かった。しかし、座標精度の観点からは、位相の回転量が背景光の影響を大きく受けるので、レーザ光線を用いた方法に比べて大きく見劣る。0.4m*2.0m*0.6mの座標領域における距離測定の数値実験によると、その精度は5mmから10mm程度であった。

 三次元ディジタイザの検討では、とくに、受動型におけるパルス圧縮を利用した新しい計測原理の可能性の検討に重点をおいた。

3.3本光学式ディジタイザの特徴と応用

 干渉計を用いるレーザ追尾計測方式をはじめ、カメラによるステレオ法・超音波法・レーザスキャン法など実用化されている代表的な位置計測システムを取り上げて、各システムの特徴とその長短を述べ、本論文方式の位置づけと応用測定の例を幾つか検討した。

 その結果、座標精度はより優れたシステムもあるが、大型化が容易・操作性が高い・並行処理など測定の応用性が高い・分解可能で可搬性が高いといった条件を兼ね備えている計測装置という点で、他のシステムに対して優位に立っていることが分かった。

審査要旨

 ディジタイザ(タブレット)は、二次元座標データの簡便な入力装置として、マンマシンインターフェースの重要な一端を担っている。このディジタイザの座標検出には、従来は磁歪シートなどの平面分布型デバイスが用いられてきたが,この原理自体が座標計測装置としての新しい応用展開を図る上で、いくつかの困難さをもたらしている。それらは,大型化が困難であること,ユニットへの分解が不可能で可搬性に乏しいこと,原理的に三次元化に適さないことである。本論文は,三角測量法に基づく光学式の座標測定原理をディジタイザに導入することにより,大型化と可搬性の両立とスムーズな三次元化に道を開くとともに,これにともなって発生する精度の低下や座標基準の校正の問題,分解能の空間的不均一さ,反射光量の減少と外乱光の増大の問題に対して実用性の高い解決法を与えたもので,3部構成の全13章で構成されている。

 第1章の序論においては、上記の問題意識と研究課題が整理されるとともに,三角測量方式において低コストと高精度を両立する鍵として,定速回転ミラーによる方位角の時間変換測定方式が導入される。

 第一部は5章から構成され,本研究により初めて実用化したレーザ光線を用いた能動型二次元大型ディジタイザの基本原理とその高度化が論じられている。第2章では,光学ユニットから座標測定点を与えるカーソルヘレーザ光線を往復させ,その方位角を回転ミラー自体による正反射時刻からの経過時間として計測する原理が示される。論文提出者は,光学系のミスアラインメントを許容する座標計算アルゴリズムとその校正原理を考案することにより,設置組立後30分程度の校正時間で,4m×3mの測定領域を誤差0.15mm,頻度20回/秒で測定できる性能を得たと報告している。続く第3章と第4章は,この方式の高精度化のために,測定誤差の空間依存性の解析と,校正のための基準点位置の最適化に関して理論的に考察し,第5章では,校正の簡便化のために,長さが既知の測定棒の両端位置を数点で測定し未知パラメータを決定する方法を提案し,実験例を報告している。さらに第6章では,測定領域の一層の拡大を目指し,30m×30mの領域を誤差5mm以内で測定するディジタイザを開発し,平面測量分野へ応用した例を報告している。

 続く第二部は4章より構成され,ディジタイザの三次元化を目指した基本原理の提案と基礎実験結果が論じられている。第7章では,低コスト高精度を実現する鍵としての定速回転ミラー機構の重要性と,三次元化による反射光量の減少と外乱光の増大をここでの主要な問題として指摘したあと,準備として,パルス圧縮と最適変調波形の理論を導入している。続く第8章で,二次元ディジタイザの自然な発展としてシートビームと3個の光学ユニットを用いる能動型三次元ディジタイザについて論じた後,第9章では,カーソルに変調発光体を埋め込み,それを高速回転ミラーを付したTVカメラで流れ画像として取り込む新しい方位角測定方式を提案し,基礎実験結果を報告している。取り込まれた画像のパルス圧縮処理により,カーソル発光体の光量を等価的に増大させ,サブピクセルの像面位置精度を実現するとともに,静止外乱光のほぼ完全な除去を可能としている。第10章では,この原理をさらに発展させ,変調にLPM波を用いることにより,単一の光学ユニットのみで三次元位置を測定できる,単眼方式半受動型三次元ディジタイザを提案し,基礎実験結果を与えている。

 第三部は,本光学式ディジタイザの応用と題し,他の三次元座標計測システムに対する本光学式ディジタイザの特徴と,今後の可能な応用展開について論じている。最後の第13章は結論であり,本研究の成果を総括し,さらなる発展のために今後の課題を論じている。

 以上,要するに,本論文は,従来の平面分布型のディジタイザでは実現困難であった大型化や可搬性の付与と三次元測定への拡張に関して,三角測量法に基づく光学式座標測定原理の導入によって道を開くとともに,これにともなって発生する座標基準の校正の問題,分解能の空間的不均一さ,反射光量の減少と外乱光の増大の問題に対する見通しのよい解決法を提示し実用化を行ったもので,本研究の波及効果は大きく,計測工学上の貢献が大きい。よって,本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認める。

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