学位論文要旨



No 213288
著者(漢字) 梁,舜龍
著者(英字)
著者(カナ) ヤン,スンヨン
標題(和) 建設機械の自動化のためのストローク検出シリンダの開発に関する研究
標題(洋)
報告番号 213288
報告番号 乙13288
学位授与日 1997.03.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13288号
研究科 工学系研究科
専攻 計数工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 有本,卓
 東京大学 教授 舘,すすむ
 東京大学 教授 木村,英紀
 東京大学 教授 大園,成夫
 東京大学 助教授 佐々木,健
内容要旨

 建設土木工事において、生産性の向上、安全性の確保、熟練技術者の不足、技術者の高齢化、辛い作業からの解放などを目指して、建設機械の自動化あるいはロボット化への要求が高まっている。自動化には機械の各パートの位置と姿勢を知る必要がある。特に本研究では、建設機械の半分以上に使われている油圧ショベルの自動化を目標にして、その位置センシングシステムを開発する。各関節の位置検出方法は二つある。一つは間接方式であり、各関節の回転角をポテンショメータ、ロータリエンコーダなどを利用して測定する関節センサに基づく測定方式である。もう一つはシリンダの変位を直接測定する直接方式である。バケットシリンダに間接方式を用いる場合、作業現場の環境が厳しく、水没作業や砂利の中での作業中、作業機に当たって損傷を起こす恐れがある。従って、信頼性の面から安全でかつ安定な位置検出を可能にする直接方式の油圧シリンダの開発が必要になる。また、このようなストローク検出シリンダを開発することによって建設機械の自動化に寄与することが本研究の目的でもある。

 ストローク検出シリンダの開発ための基本原理は次のようになる。ピストンロッドの表面部にごく薄い凸凹を等ピッチに刻み、上から非磁性体である硬質クロムメッキでカバーして磁気目盛を形成する。ピストンロッド表面のこうして形成された磁気目盛の上を永久磁石が移動するとき生じる磁束密度の変化を、その間にセットしたホールセンサで検出する。検出された信号は信号処理部を通してカウントし、シリンダの移動量をディジタル値で検出する。ここでは、温度特性が優れ、値段も安いGa-As型のホールセンサを用いた。

 このような基本的な方式を用いてセンシングが正しく機能するかどうか調べるため、試作品を作る前の初期段階として測定装置を構成する必要がある。そこで、加工されたピストンロッドの磁気目盛による磁場の特性を効果的に検出できる直交ロボットの機構をもつ2軸同時制御の測定装置を構成して、開発の可能性を検討する。この実験を行うには精密な位置決めが必要であるが、そのためには測定装置の動特性を調べる必要がある。そこで、非線形成分が含まれている場合でも系の線形成分の未知パラメータが推定できる信号圧縮法を用いて、測定装置の動特性の未知パラメータを推定する。測定装置の位置制御については駆動軸の動特性のうち、非線形成分を外乱として扱ってスライディングモード制御を適用し、高精度の位置制御(4m)を実現する。そのときスライディングモード制御の切替面周辺で印加される制御入力に発生するチャタリングを軽減するため、切替面周辺に二つの不感帯を設定して制御入力を不感帯領域によって切り替える方法を提案した。以上の方法を用いて実験を行い、ピストンロッドの磁気目盛りの加工精度をホールセンサを通して評価し、機械ノッチ加工方式で溝の深さが100mから70mになれば要求する信号が出ることが検証された。また、ホールセンサを用いてピストンロッドの垂直距離に関する設計パラメータが250m以内になることがわかった。そして、信号処理部を通して検出した信号を位置データに変換するパルス変換回路を構成することによって位置検出を実現した。しかし、ある場合には磁気勾配の存在によってパルス変換が正常に機能しないことが起り得ることが判明したので、この問題を解決するディジタル信号処理を用いた新しい位置検出アルゴリズムを提案した。

 これらを基にして、実際に試作品を設計し製作した。この試作品は三つのパートで構成されている。ピストンロッドの磁気目盛り加工と、ホールセンサのセンサハウジングと、信号処理部である。特に安定したホールセンサの出力電圧を得るため、ピストンロッドとホールセンサとの間隔を衝撃と振動に対しても一定に維持するセンサハウジングの設計が重要になり、詳細な検討を行ってこれを設計し、製作した。また、信頼性を上げるため基板のところはモールド処理を行った。

 開発したストローク検出シリンダの性能を評価するために、試作シリンダを駆動するシステムと建設土木工事現場に似た環境を供給する負荷外乱駆動システムを構成する必要がある。そのため二つの油圧システムから成る実験装置を開発した。一つはストローク検出シリンダの駆動システムであり、他の一つは作業現場と同じような物理環境を与えるための負荷外乱駆動用システムである。これを用いて実験を行い、性能評価を行う。特に、負荷外乱がインパルスの場合、衝撃に相当する信号生成は実際には困難なので、信号圧縮法を用いて等価的なインパルス応答を求め、衝撃影響について評価すると正常なセンサ信号が検出された。これらはセンサハウジングのバネ力によって衝撃及び振動にもかかわらず垂直距離を一定に維持し、安定したセンサ出力が得られたことを意味している。また位置制御のためノコギリ波を利用したPWM制御方式を適用して、種々の負荷外乱による位置制御の影響を評価した。その結果、シリンダの移送と反対方向のとき外乱によってシリンダがほぼ停止し、パルスが発生しない。また同じ方向のとき外乱によって移送速度がある程度増加してもパルス変換には影響を与えないことがわかった。また、油圧ショベルのシリンダの速度変化に関する特性を調べると、シリンダの運動が速いとき(531mm/s)と遅いとき(133mm/s)にも正確な位置制御ができることがわかった。ノイズの影響を調べるためS/N比による特性を検討すると、S/N比が20dBより大きいとき、ノイズに影響されないことが分かった。以上の実験結果から、開発した試作品は使用条件を満足することが確認できた。

 性能評価を経て開発した試作品により満足する結果が得られたので、実際の油圧ショベルのバケットシリンダに適用し、自動直線掘削の実験を行った。そのときセンサの出力信号を調べると、振動と衝撃、朝から夜に至るまでの急激な温度差があるときなど、種々の状況においてもセンサ出力には影響せず正確な信号が得られた。これによって商品化の可能性が確認された。

 以上のように、目標にしていた油圧ショベルのバケットシリンダ用ストローク検出シリンダの開発に成功し、製品化にまで至る問題点をすべてクリアーすることができた。

審査要旨

 建設土木工事では,その生産性の向上,安全性の確保,技術者の高齢化,悪環境下における苦渋作業からの解放のため,その自動化やロボット化が期待されている.これらの工事で使われる建設機械の半分以上が油圧パワーショベルであるが,その自動化には姿勢と位置の検出が必要不可欠である.本研究は,バケットシリンダに装着する場合を想定し,水没作業に耐え,砂利や岩がある中での作業などで破損せず,-30℃から100℃までの幅広い温度変動と100Gの衝撃強度に耐えるシリンダ位置検出装置の開発を目標としている.このような耐悪環境性の高いストローク検出法として,磁気抵抗素子を用いる方法が提案されているが,実用化には至っていないのが現状である.本論文は,ピストンロッドの表面に加工した磁気目盛上に磁石を移動させ,ホール素子を用いて検出した信号をディジタル処理することによって位置検出するストローク検出シリンダの開発研究をまとめたものである.本論文は「建設機械の自動化のためのストローク検出シリンダの開発に関する研究」と題し,7章から構成されている.

 第1章は序論として,建設機械の自動化やロボット化が必然となった背景を述べ,油圧ショベルの位置検出に関する研究の現状をまとめている.第2章では,ピストンロッドの表面に磁気目盛を加工し,ホールセンサを用いて磁界の変化を検出し,信号処理を通して位置をセンシングする基本方式を詳述している.第3章では,この基本方式が正しく機能するかどうかを調べるための直交2軸同時制御できる測定装置の設計,製作について述べ,本装置の位置制御に必要な動特性測定法を述べている.特に,装置の位置制御にチャタリングを軽減したすべりモード制御を適用し,4mの位置決め精度を達成している.また,磁気勾配の存在によってパルス変換が正しく機能しないことが起こり得たことを報告し,この問題点がディジタル信号処理方式によって解決できることを示している.第4章では,実際に試作品を設計し,製作したプロセスを述べている.特に,安定したホールセンサの出力電圧を得るため,ピストンロッドとホールセンサとの間隔を衝撃や振動に対しても一定に維持するセンサハウジングの設計の重要性を指摘し,これを考慮した設計法と信頼性を上げるための工夫を述べている.第5章では,製作したストローク検出シリンダの性能の評価を検討している.そのため,試作品のシリンダを駆動する負荷外乱駆動システムを構築し,建設土木工事現場と同様の環境を作って性能評価を行う一連のプロセスを述べている.特に,インパルス的な負荷外乱については信号圧縮法を用いて等価的なインパルス応答を求め,衝撃影響を評価している.また位置制御にはノコギリ波を利用したPWM制御方式を適用し,種々の負荷外乱による位置制御の影響を評価している.第6章では,開発したストローク検出シリンダを実際の油圧ショベルのバケットシリンダに装着し,その性能を評価している.第7章では,建設機械用ストローク検出シリンダの開発結果を踏まえて,商品化にまで整備し,解決すべき課題をまとめている.

 これを要約するに,本論文は,水や砂利,岩石の中での様々な作業環境で使え,負荷作業において発生する100G程度の加速度衝撃に耐え,-30℃から100℃の幅広い温度範囲で正常に作動するストローク検出シリンダの開発に成功し,その開発研究のプロセスで行った様々な工夫と提案した新しいアイデアをまとめたものであり,自動化とロボット工学に寄与するところ大なるものがある.

 よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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