近年、コンピュータによる高速計算機能の進展に伴って、原理的にシンプルな論理の繰り返しを基礎にした、情報処理上の新しいアルゴリズムが多く開発されてきた。例えば第一原理による物質構造や、その機能についてのシミュレーション計算や、多くの推定論型アルゴリズムなどであり、理工学研究分野の新しい道具となっている。特に、計測分野では従来より、コンピュータトモグラフィとかアンフォールディングと言われる間接測定手法があり、常に逆演算を行って真値を求める工夫がなされてきた。本論文は、このような間接測定手法でしか求められない計測上の逆演算問題について、近年開発された新しい逆演算手法として、遺伝的アルゴリズムやニューラルネットワークを用いた解法を試みたものであり、その手法の具体的応用として、トカマク型核融合炉内プラズマ中の二次元電流分布を、表面磁界計測により推定する問題を対象として表わしたものである。本論文は、6章より構成されている。 第1章は、緒言であり、本研究の背景と論文の構成を説明している。 第2章は、磁界逆問題自身について、詳細に説明しており、従来の研究をレビューするとともに、その問題自身の分類、数学的意味について紹介しているほか、本問題はビオ・サバールの法則のみをベースにするだけでは、磁界逆問題の解が一意には求められない理由を説明し、それを基に従来の近似解法について解説している。 第3章は、遺伝的アルゴリズムを磁界逆問題に応用する方法を示している。具体例として、典型的な電流分布プロファイルを仮定して磁界分布を計算し、この磁界分布から電流分布プロファイル自身を推定した例を紹介している。その結果、この遺伝的アルゴリズムに依る方法は、有効な磁界逆問題解法であるが、その結果には測定点の数や測定値に含まれるノイズ成分による影響が大きいとまとめている。 第4章は、ニューラルネットワークによる逆演算を導入した効果についてまとめている。まず、ニューラルネットワークの紹介とホップフィールド型ニューラルネットワークの採用の優位性を示している。また、この手法は、逐次計算を進めるにあたり、初期値が不適切であると局所解に収束することが欠点であることを補足している。そこで、前章の遺伝的アルゴリズムで求めた値をニューラルネットワークの初期値をして、計算を進める「組み合わせ最適化手法」を提案するに到っている。そして、この新しい方法について、数値的例題により、その妥当性を検証している。その結果、大域的最適値探索能力を有する遺伝的アルゴリズムと、局所的最適解探索に優れているニューラルネットワークの組み合わせは、複雑な磁界逆問題に充分適用可能とまとめている。 第5章は、前章でまとめられた、「組み合わせ最適化手法」を用いて、実際のトカマク型核融合実験装置JT-60Uのプラズマ電流分布測定を行った結果についてまとめたものである。まず実験装置とプラズマ平衡、磁気プローブの配置について説明し、測定データの取扱いを含め、これらの測定データより、トーラス円筒内二次元プラズマ電流プロファイルの再構成アルゴリズムを詳細に記述している。ここで求められたプラズマ電流分布については、従来のプラズマ平衡フィッティングの実験式と比較し、また、磁界測定データの再現度が1%以下であることなどの検討を行い、本手法により求めた結果の妥当性が確認されたとまとめている。 第6章は、結論であり、磁界逆問題について新しい「組み合わせ最適型」の解法アルゴリズムを提案し、JT-60Uにおけるプラズマ電流プロファイル測定に応用して、その妥当性を実証したこと、また、本手法は、2次元分布問題であれば加速器やコイルの磁気装置設計のほか、放射線画像分野においても応用できるとまとめている。 以上を要約すると、磁界逆問題に対し、遺伝的アルゴリズムとニューラルネットワークの組み合わせによる新しい計算アルゴリズムを提案し、JT-60Uに実際に応用しており、プラズマ診断法として確立している。本手法とその成果は、核融合工学のみならず、計測法の開発拡大を通じてシステム量子工学に寄与するところが少なくないと判断される。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |