二酸化ウランペレットとジルコニウム合金被覆管からなる軽水炉燃料は、30年に及ぶ実炉における利用を通じて高い信頼性を獲得してきた。これには、工業製品として優れた品質管理が行なわれたことに加え、炉内で発生した燃料損傷に対して適切な対策が取られたことが寄与している。今や、国産燃料の損傷率は10-5以下まで改善され、この信頼性の向上に伴い、経済性の向上を目指した燃料の高燃焼度化が次の開発ターゲットとなった。 より長期間に渡って使用された場合の燃料の挙動の中で、FPガスの挙動は燃料の熱的かつ機械的ふるまいに影響する最も重要な検討項目の一つである。ペレットから放出されるキセノンやクリプトンなどの希ガス、いわゆる、FPガスは、熱伝導度が小さいために燃料温度の上昇とそれに伴う蓄積エネルギーの増加という不利をもたらす。また、ガス放出による燃料棒内圧の過度の増加は被覆管をクリープ変形させ、これが、ギャップの拡大による燃料温度の上昇とFPガス放出の加速をもたらす可能性がある。一方、ガス放出の過程で燃料ペレット内に希ガス原子が気泡として析出してペレットを膨らませる、いわゆる、気泡スエリングが生じる。これによってペレットと被覆管の機械的相互作用(PCMI)が助長され、被覆管に顕著な変形の生じることがある。比較的低燃焼度においてはペレットと被覆管の間のギャップが保持されているため特に問題はないが、高燃焼度になりFPの蓄積量が増え、かつ、ペレットと被覆管のギャップが狭まってきた時には気泡スエリングによるPCMIは顕著となる。さらに、気泡の析出は気孔率の増加としてペレットの熱伝導度を低下させる。本研究の目的は燃料挙動に対してこのように重要な影響を及ぼすFPガスの挙動を照射試験データおよび照射後試験データを通じて究明することにある。以下に研究の成果をまとめる。 【1】燃料温度の低減を目指した改良BWR燃料の照射特性評価試験から、ヘリウム加圧、ペレット中空化およびギャップ幅狭小化が燃料温度の低減に有効なことが実証された。但し、ギャップ幅狭小化についてはPCMIを助長する可能性も示された。 【2】FPガス放出挙動は燃料ペレット内部のFPガス原子の拡散に律速されると考えられるが、特定の条件下ではガス放出挙動が全く拡散則に従わないことが見い出された。この現象は、初期ギャップ幅の小さい燃料、ペレット端面がフラットな燃料、および高出力に出力保持された燃料に見られた。 図1 ランプ試験出力履歴とFPガス放出率の変化図2 ランプ試験前後の被覆管外径プロファイル 図1は、燃焼度30GWd/tUまでベース照射された後、ランプ試験に供された2本の燃料棒のFPガス放出挙動を示している。図に見られるようにFPガスの放出は出力の下降とともに生じ、ガス放出が予想される高出力(高温度)において殆どガス放出が見られない。一方、図2はランプ試験前後のそれぞれの燃料棒の被覆管外径プロファイルを示している。今、図1中の点線はガス放出が拡散則に従うと考えた場合の曲線であり、拡散則からのズレの大きい燃料ほど被覆管の変形量が大きい。図3は拡散則からのズレの大きさを表わす’放出抑制指標(RSI)’を横軸に、被覆管の変形量を縦軸に種々の燃料棒の結果をプロットしたものである。ガス放出が抑制されるほど、被覆管には大きい変形が残ることが明らかである。 図3 被覆管変形量と放出抑制指標RSIの相関 【3】上の結果を踏まえ、高燃焼度におけるFPガス原子の挙動をペレット内部に析出するFP気泡のふるまいを中心にモデル化した。モデルでは結晶粒を、粒内、粒界面および粒界気泡の3つの部分に分け、生成したガス原子の量的バランスを考えた。粒界気泡は成長とともにその数を減らすと考え、連結後の数密度の変化を気泡径の関数として表わした。この取り扱いは、気泡スエリングの飽和傾向の表現を可能にする。また、粒界面に働く実効的な引張応力を考慮することにより出力下降時のガス放出を表現した。モデルは燃料温度が既知の照射試験データにより検証された。図4は燃焼の進行に伴うガス放出開始温度の低下とガス放出率の増加が本モデルにより合理的に模擬されることを示している。 図4 照射済みUO2燃料の加熱試験時のFPガス放出挙動の模擬 【4】FPガス挙動のより精密な評価に必要な高燃焼度における燃料温度を、照射済み燃料棒の再加工技術を用いて測定した。結果は、燃焼が進むにつれ同出力でも燃料温度は増加すること、この増加の程度は低燃焼度側で大きく燃焼とともに飽和傾向を有することを示した。燃焼に伴う燃料温度上昇の原因のうち、固溶性FPの蓄積と気孔率増加の効果が重要なことが示された。前者については模擬FPを固溶させたペレットの熱拡散率データに基づく燃焼度依存のペレット熱伝導度モデルが新しく提唱されている。ギャップコンダクタンスを独立に評価したうえで、このモデルの高燃焼度への適用性を評価した結果、上で測定された燃料温度データを概ね再現できることが示された。上記ペレット熱伝導度モデルを開発中の機構論的燃料挙動解析コードTRUSTに組み込み低燃焼度から高燃焼度までの燃料温度を解析した結果、FPガス放出の影響のない燃焼ごく初期の状態から、ガス放出が顕著となる高燃焼度までの燃料温度が適切に表現できた。 【5】UO2および(U,Gd)O2燃料ペレットの粒成長速度式を求めるために、等温加熱試験を実施した。出発粉末の製法が機械混合法や共沈法というように異なっても、また、ガドリニア濃度が異なっても(U,Gd)O2ペレットの粒成長データのばらつきは小さく、その粒成長速度はUO2ペレットに比べ約1桁小さいことが分かった。等温加熱試験による速度式に基づいて計算した炉内の粒成長量は、照射後試験の実測値を過大評価した。これは照射試験においては粒界に析出した気泡が粒成長を抑制したためと考えられた。 |