本論文は、自動車ボディパネルに使用するアルミニウム合金の開発を行う上で、重要な指針となるアルミニウム合金板材の製造時の材質挙動および自動車ボディパネル成形において優れた成形性を示す板材の金属組織および塑性異方性に関して必要な知見を得、総合的に体系化することをその目的としている。全体は九章よりなる。 第1章では、本論文の研究の動機となった自動車ボディパネルへのアルミニウム合金板の適用の時代的背景について総括し、研究の目的が、アルミニウム合金板の延性の向上、冷間圧延再結晶集合組織制御による塑性異方性と硬化異方性の制御、結晶粒度の制御およびストレッチャーストレインの発生防止にあると述べている。 第2章は、延性に富むといわれているアルミニウム合金としてアルミニウム・マグネシウム合金(以下「アルミマグネ合金」と称する。)をとりあげ、引張り強度および伸び(以下「引張り特性」と言う)の温度依存性、室温引張り特性のマグネシウム添加量依存性、同じく結晶粒度依存性を調査し、マグネシウム添加による引張り特性の向上が有効であり、マグネシウム添加による加工硬化の促進を、転位組織の観察とマグネシウム添加による転位の交差辷り抑制の機構とによって考察し説明している。また、マグネシウム添加によるストレッチャーストレインの発生を結晶粒径を大きくすることによって抑制できることを明らかにし、成形後の肌あれが問題にならない粒径の最大値を評価している。 第3章はアルミマグネ合金板の塑性異方性と硬化異方性の集合組織依存性と種々の成形パターン(たとえば、引張り圧縮、単軸引張りおよび二軸引張り)に対するそれぞれの適合性について取り扱っている。そこから、全ての成形パターン対して共通の優れた成形性を示す集合組織は存在しないことを明らかにした。低炭素鋼板の場合は延性が集合組織に依存しないので、全てのパターンに対する成形性が殆ど集合組織によって決定されるのに対して、本合金板の場合には加工硬化特性も集合組織によるためであることを明らかにした。 第4章は、アルミマグネ合金の降伏点挙動と溶体化温度と冷却条件との関係を調査し製造条件の最適化をはかるための基礎資料を調査している。第5章は延性を有効に利用することを目的に行われる低温成形における延性に及ぼす結晶粒径の影響を調査し、粒径が比較的大きいと二軸引張りの条件で粒界割れが生じることを認め、低温成形に適合する粒度範囲を明かにした。第6章は第5章と関連して本合金系の焼鈍時の粒成長挙動を合金濃度との関係で詳細に調査して、材質設計の基礎資料を確立した。 第7章と第8章では、リサイクル性や塗装焼き付け時硬化性の面で注目されているマグネシウム・珪素添加合金についての研究を述べ、第7章では塗装焼き付け時硬化性に及ぼす第4元素添加の影響を調査し、第8章では、成形性向上の目的には結晶粒微細化の粒界破壊の抑制への効果を確認している。 第9章は結言である。 以上を要するに、本論文の研究は金属工学の進歩に寄与し工業の発展に多大の貢献をしている。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格である。 |