学位論文要旨



No 213294
著者(漢字) 川原,孝昭
著者(英字)
著者(カナ) カワハラ,タカアキ
標題(和) CVD法によるSiO2及び(Ba,Sr)TiO3薄膜の形成と電子デバイスへの応用
標題(洋) Chemical Vapor Deposition of SiO2 and (Ba,Sr)TiO3 Films and their Application to Electronic Devices
報告番号 213294
報告番号 乙13294
学位授与日 1997.03.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13294号
研究科 工学系研究科
専攻 金属工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 吉田,豊信
 東京大学 教授 牧島,亮男
 東京大学 教授 桑原,誠
 東京大学 助教授 寺嶋,和夫
 東京大学 助教授 光田,好孝
内容要旨

 近年高集積化・多層化が進む電子デバイスの作製において、段差構造を有する形状に対し良好な被覆性を示す化学気相堆積法(CVD:Chemical Vapor Deposition)は非常に重要な成膜プロセスである。層間絶縁膜SiO2及びキャパシタ誘電体(Ba,Sr)TiO3[以下BSTと略す]は、CVDにより作製する際ともに常温で液体の有機金属原料を気化させて反応室へと供給し、反応室内でO2雰囲気にて気相分解・表面反応により形成される酸化膜である。これら共通点を有する2種の材料について、本論文では、それぞれ成膜・反応解析を行ないながら、プロセス・装置を開発し、更にこのプロセス・装置により得られたSiO2及びBST薄膜を高集積化された電子デバイス、特にGbスケールのDRAM(Dynamic Random Access Memory)に適用することを目的とし、5章より構成されている。以下に各章についてそれぞれ述べる。

 第1章は、電子デバイスが高集積化・多層化するなかで、層間絶縁膜SiO2及びキャパシタ誘電体BSTそれぞれの開発の流れ、そしてそれぞれの材料に対する要求、またこれら材料をCVDにより作製する際及びCVDにより形成されたこれら材料をDRAMへ適用する際に生じる問題点について概説している。これにより、本論文の背景及び目的を明確にしている。

 第2章には、SiO2のCVDに関して記した。層間絶縁膜SiO2の作製は高集積化とともに高アスペクト比段差への成膜が必須となり、SiH4-O2系(常圧)から段差被覆性の優れたフロー形状を得ることができるTEOS-O3系(常圧)への移行が行なわれている。しかし、TEOS-O3系では、白粉が生じ易いこと、下地材料依存性があること、膜中水分量が多いこと、配線遅延等が実用上問題になる。そこで、ここでは白粉の発生量低減を目指し、装置の最適化を行なった。反応解析により求められた反応モデルに基づく流れ反応シミュレーションによりガスヘッド構造の最適化を図り、円筒型シャワーヘッドを同心円状の内外二重構造に分割し、内筒からはTEOS-O3の混合ガスを、外筒からはN2のみを供給する二重ガスヘッド構造を考案した。これを採用することによりTEOS供給量の低減と粉発生量の低減が可能となり、量産適用の見通しが得られた。

 第3章では、(Ba,Sr)TiO3のCVDに関して述べた。基本コンセプトを枚葉型減圧熱CVDとする溶液気化CVDにおいて、溶液気化システム・シャワータイプのガスヘッドを最適化することによって、6"ウエハ上面内膜厚均一かつ組成均一なBST膜の安定成膜が可能となった。更に、Ti原料を一般によく使用されているTTIPからBa,Sr原料と同じDPM系のTiO(DPM)2への変更及び成膜温度の低温化がカバレッジ向上に有効であること、また、低温条件において生じる膜表面異常が、成膜初期に熱処理を施し核形成密度を増加させるという2ステップ成膜により抑制できることが判明した。そして、TiO(DPM)2を使用した2ステップ成膜により得られるBST膜の特性は平坦なPt及びRu電極上でteq〜0.5nm,JL-1.0x10-8A/cm2(at+1.1V)を達成し、また、BST膜を段差構造に適用することにより、アスベクト比0.65において80%のカバレッジ、段差側壁面積増加分の蓄積容量の増加を確認でき、CVD成膜の最大の特徴を実証した。これら特性は1Gb DRAM用キャパシタに適用した場合の仕様を十分に満足する。

 第4章では、SiO2及び(Ba,Sr)TiO3のCVDそれぞれについて、論文全体を通した考察を行う。また、全体を統括することにより、それぞれの共通点を見い出し、他の材料にも適用可能な手法・技術について述べる。

 第5章では、本論文のまとめ及び結論を以下のごとく述べている。

 SiO2のCVDに関して、

 (1)TEOS-O3系では、TEOSが気相中でO3あるいはO3が分解して形成されたO原子によって分解されることが判明した。

 (2)TEOS-O3系ではSiH4-O2系に比べ白粉が生じ易く、円筒型ガスヘッドを同心円状の内外二重構造に分割し、内筒からはTEOS-O3の混合気を、外筒からはN2のみを供給する二重ガスヘッド構造を採用することによりTEOS供給量の低減と粉発生量の低減が可能となった。

 (3)二重ガスヘッド構造を有する量産対応のCVD装置を製作してデバイス適用性を評価し、量産適用の見通しが得られた。

 (Ba,Sr)TiO3のCVDに関して、

 (4)減圧熱CVDを基本コンセプトとする溶液気化CVD装置において、溶液気化システム・シャワータイプのガスヘッドを最適化することによって、6"ウエハ上面内膜厚均一(<±7%)かつ組成均一(<±3%)なBST膜の安定成膜が可能となった。

 (5)Ti原料の一般によく使用されているTTIPからBa,Sr原料と同じDPM系のTiO(DPM)2への変更及び成膜温度の低温化がカバレッジ向上に有効であること、また、低温化とともに生じる膜表面異常が成膜初期に熱処理を施し核形成密度を増加させるという2ステップ成膜により抑制できることが判明した。

 (6)TiO(DPM)2を使用した2ステップ成膜により得られるBST膜の特性は平坦なPt及びRu電極上でteq〜0.5nm,JL〜1.0x10-8A/cm2(at+1.1V)を達成し、また、BST膜を段差構造に適用することにより、アスペクト比0.65において80%のカバレッジ、段差側壁面積増加分の蓄積容量の増加を確認でき、CVD成膜の最大の特徴を実証した。

 全体を統括して、

 (7)常温で液体または固体の有機金属原料を用い、O2雰囲気にて形成する酸化膜のCVDにおいて、成膜技術および反応解析技術を確立し、先端デバイスを効率よく開発することが可能となった。

 (8)CVDにおいて最も大きな特徴として良好な段差被覆性があげられるが、CVD-SiO2においてはCVD原料としてSiH4よりTEOSを用いた方が、またCVD-BSTにおいてはTTIPよりTiO(DPM)2を用いた方が段差被覆性ははるかに良好である。このように段差被覆性は、温度・圧力等の成膜パラメーターより先にまずCVD原料により決定される。

 (9)CVD原料として液体や固体のものであっても、本論文に記された溶液気化システムを用いれば、液体原料あるいは溶媒に溶かした溶液原料を気化させて反応室へ安定に供給でき、多元系の薄膜も組成をコントロールしながら安定に成膜することが可能である。

審査要旨

 本論文は「Chemical Vapor Deposition of SiO2 and(Ba,Sr)TiO3 Films and their Application to Electronic Devices(CVD法によるSiO2及び(Ba,Sr)TiO3薄膜の形成と電子デバイスへの応用)」と題し、次世代電子デバイスの要求を満たす層間絶縁体SiO2及びキャパシタ誘電体(Ba,Sr)TiO3(以下BSTと略す)の薄膜形成を液体有機金属を原料とした溶液気化CVD法により可能とし、その実用化を図った研究をまとめたものである。

 SiO2は既に層間絶縁膜としてLSIに多用されているが、高集積化とともに高アスペクト比段差部への成膜が必須となり、SiH4-O2系常圧CVDからTEOS(tetraethylorthosilicate)-O3系常圧CVDへの移行が検討されつつある。しかし、微粒子発生が最大の欠点とされいまだ未解決である。他方、キャパシタ誘電膜BSTは電気特性以外にも、表面平坦化・埋め込み特性向上など低温堆積の問題が山積している。本論文の目的は、SiO2及びBSTのCVD過程の反応解析に基づき、CVD用の新たな有機金属原料を探索するとともに装置及びプロセスの最適化を図り、Gbit-DRAM(Dynamic Random Access Memory)の量産に適用可能な成膜技術を確立することである。論文は5章から成っている。

 第1章では、電子デバイスの多層化をともなう高集積化への進化過程において、必要とされ開発されてきた新たな材料及びプロセシングを時系列的に概説し、現在の研究の流れとの対比で本研究の動機と目的について述べている。

 第2章はSiO2のCVDに関する。現在、SiO2絶縁膜堆積に関してはSiH4-O2系CVDが主流であるが、0.15mレベルの微細構造への対応は埋め込み特性の点で困難とされ、TEOS-O3系CVDが注目を集めつつある。しかし、実用化に際しては、反応器内での微粒子発生が最大の欠点とされその抑制法開発が切望されている。そこで本研究では、微粒子発生及び膜堆積機構の知見を得るため、TEOS-O3系CVD環境で想定される気相及び表面反応の各素過程の速度定数をフーリエ変換赤外吸収分光法・質量分析法・トレンチ堆積法を駆使して導出し、O3から遊離したO原子とTEOSとの反応による前駆体の生成、表面での酸化・ラジカル反応を伴う前駆体からのSiO2生成を主たる反応経路とするモデルを提案している。又、これらのデータを用いTEOS-O3系CVD装置におけるガス流速、温度、濃度の各分布についてシミュレーションを行い装置の最適化を図り、量産対応装置を開発している。

 第3章はBSTの溶液気化CVDに関する。集積度が上がるにつれ、従来キャパシタ材料として利用されてきたSiO2やSi3N4では複雑な3次元構造を用いても必要面積の確保は困難であり、誘電率が著しく大きなBST等を使用することが検討されている。しかし、BSTを用いたとしても基準蓄積容量25fFを達成するには段差構造への被覆は必須である。本研究では、液体有機金属の探索によりDPM(Dipivaloylmethanato:C11H19O2)系固体原料Ba(DPM)2,Sr(DPM)2,TiO(DPM)2を有機溶剤THF(Tetrahydrofuran:C4H8O)に溶かした溶液をCVD用原料として選び、気化特性の温度・圧力依存から最適気化条件として250℃・15Torrを設定した。更に、各原料の付着確率計測により、組成制御や再現性に関してもCVDの原料としての要件を満たすとしている。また、反応室圧力数Torr以下での低温CVDで生じる膜表面の突起物は成膜初期でのアニール処理により抑制できることを見い出し、2ステップ成膜法を開発している。他方、平坦なPt及びRu電極を基板とした成膜では1.1V印加時においてリーク電流密度100nA/cm2以下を、またアスペクト比0.65の幅0.75mのトレンチ構造において埋め込み率80%を達成するとともに、トレンチ側壁面積増加分の容量増加も確認し、CVD成膜の最大の特徴を実証している。これらの特性はGbit-DRAM用キャパシタの仕様を十分満足するものである。

 第4章では半導体デバイスに関するプロセシングにおける本研究の成果を位置付けるとともに、本分野の特殊性を考慮した研究開発の必要性を強調し、将来の課題について述べている。

 第5章は総括であり、本論文全体の成果がまとめられている。

 以上を要約すると、本研究は溶液気化CVD法によるGbit-DRAM用絶縁体膜及び誘電体膜の成膜プロセス開発を量産プロセスに組み込むことを念頭におき遂行され、化学反応解析・シミュレーションに基づいた装置開発によりSiO2膜、BST膜に関して実用途に供するという成果をあげた。本研究の結果は、半導体プロセシングのみならず、薄膜工学全般に寄与するところが大きく、材料プロセス工学への貢献が大である。よって、本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる。

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