近年高集積化・多層化が進む電子デバイスの作製において、段差構造を有する形状に対し良好な被覆性を示す化学気相堆積法(CVD:Chemical Vapor Deposition)は非常に重要な成膜プロセスである。層間絶縁膜SiO2及びキャパシタ誘電体(Ba,Sr)TiO3[以下BSTと略す]は、CVDにより作製する際ともに常温で液体の有機金属原料を気化させて反応室へと供給し、反応室内でO2雰囲気にて気相分解・表面反応により形成される酸化膜である。これら共通点を有する2種の材料について、本論文では、それぞれ成膜・反応解析を行ないながら、プロセス・装置を開発し、更にこのプロセス・装置により得られたSiO2及びBST薄膜を高集積化された電子デバイス、特にGbスケールのDRAM(Dynamic Random Access Memory)に適用することを目的とし、5章より構成されている。以下に各章についてそれぞれ述べる。 第1章は、電子デバイスが高集積化・多層化するなかで、層間絶縁膜SiO2及びキャパシタ誘電体BSTそれぞれの開発の流れ、そしてそれぞれの材料に対する要求、またこれら材料をCVDにより作製する際及びCVDにより形成されたこれら材料をDRAMへ適用する際に生じる問題点について概説している。これにより、本論文の背景及び目的を明確にしている。 第2章には、SiO2のCVDに関して記した。層間絶縁膜SiO2の作製は高集積化とともに高アスペクト比段差への成膜が必須となり、SiH4-O2系(常圧)から段差被覆性の優れたフロー形状を得ることができるTEOS-O3系(常圧)への移行が行なわれている。しかし、TEOS-O3系では、白粉が生じ易いこと、下地材料依存性があること、膜中水分量が多いこと、配線遅延等が実用上問題になる。そこで、ここでは白粉の発生量低減を目指し、装置の最適化を行なった。反応解析により求められた反応モデルに基づく流れ反応シミュレーションによりガスヘッド構造の最適化を図り、円筒型シャワーヘッドを同心円状の内外二重構造に分割し、内筒からはTEOS-O3の混合ガスを、外筒からはN2のみを供給する二重ガスヘッド構造を考案した。これを採用することによりTEOS供給量の低減と粉発生量の低減が可能となり、量産適用の見通しが得られた。 第3章では、(Ba,Sr)TiO3のCVDに関して述べた。基本コンセプトを枚葉型減圧熱CVDとする溶液気化CVDにおいて、溶液気化システム・シャワータイプのガスヘッドを最適化することによって、6"ウエハ上面内膜厚均一かつ組成均一なBST膜の安定成膜が可能となった。更に、Ti原料を一般によく使用されているTTIPからBa,Sr原料と同じDPM系のTiO(DPM)2への変更及び成膜温度の低温化がカバレッジ向上に有効であること、また、低温条件において生じる膜表面異常が、成膜初期に熱処理を施し核形成密度を増加させるという2ステップ成膜により抑制できることが判明した。そして、TiO(DPM)2を使用した2ステップ成膜により得られるBST膜の特性は平坦なPt及びRu電極上でteq〜0.5nm,JL-1.0x10-8A/cm2(at+1.1V)を達成し、また、BST膜を段差構造に適用することにより、アスベクト比0.65において80%のカバレッジ、段差側壁面積増加分の蓄積容量の増加を確認でき、CVD成膜の最大の特徴を実証した。これら特性は1Gb DRAM用キャパシタに適用した場合の仕様を十分に満足する。 第4章では、SiO2及び(Ba,Sr)TiO3のCVDそれぞれについて、論文全体を通した考察を行う。また、全体を統括することにより、それぞれの共通点を見い出し、他の材料にも適用可能な手法・技術について述べる。 第5章では、本論文のまとめ及び結論を以下のごとく述べている。 SiO2のCVDに関して、 (1)TEOS-O3系では、TEOSが気相中でO3あるいはO3が分解して形成されたO原子によって分解されることが判明した。 (2)TEOS-O3系ではSiH4-O2系に比べ白粉が生じ易く、円筒型ガスヘッドを同心円状の内外二重構造に分割し、内筒からはTEOS-O3の混合気を、外筒からはN2のみを供給する二重ガスヘッド構造を採用することによりTEOS供給量の低減と粉発生量の低減が可能となった。 (3)二重ガスヘッド構造を有する量産対応のCVD装置を製作してデバイス適用性を評価し、量産適用の見通しが得られた。 (Ba,Sr)TiO3のCVDに関して、 (4)減圧熱CVDを基本コンセプトとする溶液気化CVD装置において、溶液気化システム・シャワータイプのガスヘッドを最適化することによって、6"ウエハ上面内膜厚均一(<±7%)かつ組成均一(<±3%)なBST膜の安定成膜が可能となった。 (5)Ti原料の一般によく使用されているTTIPからBa,Sr原料と同じDPM系のTiO(DPM)2への変更及び成膜温度の低温化がカバレッジ向上に有効であること、また、低温化とともに生じる膜表面異常が成膜初期に熱処理を施し核形成密度を増加させるという2ステップ成膜により抑制できることが判明した。 (6)TiO(DPM)2を使用した2ステップ成膜により得られるBST膜の特性は平坦なPt及びRu電極上でteq〜0.5nm,JL〜1.0x10-8A/cm2(at+1.1V)を達成し、また、BST膜を段差構造に適用することにより、アスペクト比0.65において80%のカバレッジ、段差側壁面積増加分の蓄積容量の増加を確認でき、CVD成膜の最大の特徴を実証した。 全体を統括して、 (7)常温で液体または固体の有機金属原料を用い、O2雰囲気にて形成する酸化膜のCVDにおいて、成膜技術および反応解析技術を確立し、先端デバイスを効率よく開発することが可能となった。 (8)CVDにおいて最も大きな特徴として良好な段差被覆性があげられるが、CVD-SiO2においてはCVD原料としてSiH4よりTEOSを用いた方が、またCVD-BSTにおいてはTTIPよりTiO(DPM)2を用いた方が段差被覆性ははるかに良好である。このように段差被覆性は、温度・圧力等の成膜パラメーターより先にまずCVD原料により決定される。 (9)CVD原料として液体や固体のものであっても、本論文に記された溶液気化システムを用いれば、液体原料あるいは溶媒に溶かした溶液原料を気化させて反応室へ安定に供給でき、多元系の薄膜も組成をコントロールしながら安定に成膜することが可能である。 |