学位論文要旨



No 213324
著者(漢字) 鶴岡,政子
著者(英字)
著者(カナ) ツルオカ,マサコ
標題(和) ビデオメトリによる身体運動メカニズムの定量的解析とその医工学への応用に関する研究
標題(洋)
報告番号 213324
報告番号 乙13324
学位授与日 1997.04.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13324号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 村井,俊治
 東京大学 助教授 桑原,雅夫
 東京大学 助教授 柴崎,亮介
 東京大学 助教授 清水,英範
 東京大学 講師 館村,純一
内容要旨

 医学リハビリテーション分野やフィジカルフィットネス学(健康向上)分野において、身体運動の定量的な3次元解析は強力で新しい知見を示唆する。身体運動メカニズムの解析のためのディジタルデータを取得するために、新しいパーソナルコンピュータ支援システムを開発した。連蔵した3次元計測データは、日常の動きの安定性において、の新しい医学的な評価へ重要な情報を与える結果となった。

 本研究の特色は、次の3つの新しいシステムから構成されている。

(1)2台のCCDビデオカメラと足圧力センサーの同期システム装置

 メインコントローラーのパーソナルコンピュータをマウスで操作すると、2台のビデオカメラのステレオ録画システムの同期と足圧力センサーシステムの同期を開始させたり、終了させることが自在であり、専門家に限らず誰でもが簡単に利用できて、且つ被験者に負担のかからない装置である。

(2)ビデオメトリとセルフキャリブレーション付きバンドル法による簡易写真測量システム

 非測定用カメラを使用する代わりに、セルフキャリブレーション付きバンドル法を利用してカメラの持つ幾何学的誤差を調整する手段を導入した。焦点距離、主点のずれ、レンズディストーションを未知変量扱いし、解析的に解く。ステップ式に精度モデル選択が可能である。

(3)身体運動の可視化と医工学的情報に基づく定量的解析システム

 ステレオ画像から得られた医学上重要な身体主要関節の3次元位置データと足圧力センサーから得られた荷重データを基に次の新しい解析手法による身体運動メカニズムの研究を行った。

A.コンピュータグラフィックスを使った運動の可視化による解析

 身体の主要関節の3次元位置データからスティスックモデル、ワイヤーモデルで身体モデルを作成し、連続動作のシミュレーション、オーバーレイ、アニメーション表現により動きの特徴抽出ができた。

B.医工学的情報に基ずく定量的解析(I)運動学、運動力学の原理を応用したバイオメカニクス解析

 主要関節の3次元位置データの変位、速度、加速度、足、膝、股関節の3関節で構成される膝関節角度の変位、慣性モーメント、トルク、力積、消費エネルギー、仕事量等の経時変化を解析した。また、身体を頭、体幹、前腕、上腕、手、上脚、下脚、足のセグメントから構成された剛体とみなして体重心を求め、経時変化を求め、足圧力データからは左右の足圧力中心を求め、経時変化の解析を行った。

(ii)自己回帰モデルを導入したスペクトル解析

 従来のFFT法によるスペクトル解析は定常的な周期性を持つものや、データの多いものにおいては有効であったが、ランダムな周期性とフィードバック系という生体の持つ性格を考慮し、自己回帰(AR)モデルを用いて時系列データを表現し、パワースペクトル密度と系にインパルスを与えた時の応答シミュレーションを求める方法を導入した。

 開発した新システムにより従来の診断では読み取りにくかった身体運動メカニズムの医工学情報を抽出することができた。図1のダンス歴ある人は、ない人に比べて右足の支点を安定させ、左から右へ体を動かす体重心加速度の変化が大きく、力F(=体重M×加速度)を出して、体を大きく動かしている。

図1体重心加速度と身体を左右に振る動きのオーバーレイ

 図2の下肢疾患のある患者の立位平衡時の体重心のゆらぎの解析から、パワースペクトル密度はリハビリテーション療法前では、一様に減少しないが、治療後は連続的に周波数に反比例し(l/fゆらぎ)、リハビリテーション効果への評価を示すことが理解できた。

ステレオ画像図2下肢疾患患者の立位平衡保持 図3骨折歴ある人の歩行

 図3の骨折歴ある人の歩行解析より、健常脚のパワースペクトル密度は、やはり連続的に周波数に反比例しており、骨折歴ある方の脚の動きと区別できることが朗かになった。

審査要旨

 論文の題目は「ビデオメトリによる身体運動メカニズムの定量的解析とその医工学への応用に関する研究」であり、6章で構成されている。

 第1章「序章」は序論であり、研究の背景、従来の研究、研究の目的および研究の特色がのべられている。本研究の目的はビデオメトリによる身体運動の三次元計測を行う実用的計測システムの構築、計測データを用いた身体運動の可視化、身体運動メカニズムの定量的およびその身体運動解析の医工学への応用を図ることである。

 第2章「ビデオメトリによる身体運動の三次元計測」においては写真測量学の原理を用いてステレオCCDビデオカメラのシステムを構築して身体運動の三次元(3D)計測を行っている。また一般カメラとの精度比較を行い、その得失を明らかにしている。

 第3章「身体運動の可視化」においては身体運動解析のためにステックモデルとワイヤモデルを提案し、その連続動作のオーバーレイ表現やアニメーションアルゴリズムを開発し、後続の動的解析への支援を可能にした。

 第4章「身体メカニズムの定量化」においては医工学的情報として重要な体重心、変位、速度、加速度、慣性モーメント、トルク、力積、消費エネルギー、仕事量、パワースペクトル、インパルス応答、足圧を抽出する手法をのべ、実際に健常者と障害者の被験者について、立ち上がり動作、立位平衡、歩行の三つのケーススタディにより定量的解析を行った。これにより本研究で示したパラメータが両者の違いを明瞭に示すことが明らかにされた。

 第5章「ビデオメトリによる身体運動解析の医工学への応用」においては本研究で示したシステムおよび手法が医療診断へ適用されるシステムのありかたとその可能性をのべており、実用化への示唆を与えている。

 第6章は「結論および将来への課題」である。本論文で得られた結論は、ステレオCCDビデオカメラによるビデオメトリにより身体運動の3D計測が可能であり、その定量化および視覚化が障害者の医療診断に有効に適用可能であることをケーススタディにより明らかにしたことである。

 以上を要約すると本研究はビデオメトリの医工学への応用可能性を実験により明らかにしたものであり、医工学における新技術を開発したものであり、その学術的貢献はきわめて高いと判断できる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認める。

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