審査要旨 | | 本論文は,「重度肢体不自由の人のための情報機器インタフェースにおける操作性改善の研究」と題し,障害を持つ人の情報機器操作の認知的面に焦点をあて,障害を持つ人により使い易いインタフェースを提供することを目的として行った一連の研究を纏めたもので,5章よりなっている。 第1章は「序論」で,本研究の背景について述べ,本研究の目的を明らかにすると共に,本論文の構成について述べている。 第2章「重度肢体不自由の人の情報機器インタフェースモデル-TB接面モデルの提案-」では,インタフェースに関する二重接面理論を障害を持つ人の情報機器へ展開するには,人と機器の橋渡しをする追加装置(ブリッジ装置)も含めて見る必要があり,人とブリッジ装置との接面であるTB(Technical Bridge)接面を設定することによって,インタフェースに新たな視点を導入できることを提案している。重度脳性マヒの人を対象としたオートスキャン方式の入力装置のTB接面を観察し,「制御感」と正しい「アフォーダンス」が欠如していることを指摘している。 第3章「重度肢体不自由の人の情報機器と制御感」では,制御感の欠如を改善するために「戻りキー」を追加し,ユーザーがスキャン方向を変えられるようにした装置を開発している。「戻りキー」により次の文字へは左右どちら方向が早いか判断して切替えられるので,自分で機械を操作するという制御感,確定を逃してもすぐ戻ればよいという安心感が得られることを狙っており,脳性マヒ1級の被験者でかな80〜100文字の例文を用いて,「戻りキー」なしと「戻りキー」つきの操作時間(入力時間10〜12分)とエラーを比較した結果,入力時間は約30秒短縮され,エラーは18回から13回に減少し,1回の所要時間も約1秒減少し,エラー時の発話が減少して失敗を気にしなくなったという成果が得られたことを報告している。 第4章「インタフェースにおけるアフォーダンス試論-障害を持つ人の情報機器インタフェースへの応用の見地から-」では,障害を持つ人のための情報機器インタフェースへの応用の立場から,従来のアフォーダンスの定義に対してアフォーダンスとは「その機器をどう使うことができるかを決定する最も基礎的な特徴のことであり,ユーザーと機器とのインタラクションによって抽出されユーザーごとに固有に知覚される」ものとして,「機器にはユーザーとの組み合わせで抽出される固有のアフォーダンスを特定する情報が潜在する」,「意図を達成するための心的活動によってユーザーの意図に依存したアフォーダンスが知覚される」,「アフォーダンスには行為を引き起こすものもある(操作誘引型アフォーダンス)」という新たな定義を試みている。 第5章は,「結論」であって本研究の成果を纏めている。 以上これを要するに,本論文は障害をもつ人の情報機器インタフェースの認知的な面に焦点をあて,人と機器の橋渡しをする追加装置も含めて見るためのTB接面の概念を提案し,その観点から障害を持つ人のためのインタフェースを観察し,オートスキャンタイプ入力装置の「制御感」の欠如,正しい「アフォーダンス」の抽出されにくさを指摘し,改善案として「戻りキー」を考案して効果を確認し,インタフェースへの応用のためにアフォーダンスの再定義を試みる等,インタフェース技術の進展に寄与するところが多大であり,電気・電子工学に貢献するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |