学位論文要旨



No 213336
著者(漢字) 飯坂,譲二
著者(英字)
著者(カナ) イイサカ,ジョウジ
標題(和) リモートセンシング画像解析のための空間情報抽出法とその応用に関する研究
標題(洋)
報告番号 213336
報告番号 乙13336
学位授与日 1997.04.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13336号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高木,幹雄
 東京大学 教授 村井,俊治
 東京大学 教授 羽鳥,光俊
 東京大学 教授 坂内,正夫
 東京大学 助教授 喜連川,優
 東京大学 助教授 柴崎,亮介
内容要旨

 リモート・センシング技術により、過去4半世紀にわたって地球の環境・資源に関するデータは継続的に収集されている。また、更に新しい地球観測のための人工衛星も数多く計画されている。したがって、蓄積されるデータ量は今後とも急速に増大すると予想される。観測されたデータを解析し、地球環境・資源に関する問題解決に供するために、更に有効な情報を抽出する方法の開発やその自動化が要求されている。

 本研究は、このような背景をもとに、従来のリモート・センシングの画像解析法では抽出が困難であった地被オブジェクトの空間情報抽出法の開発とその応用について行ったもので、その概要は次の通りである。

 リモート・センシングは地表または地表近くで反射・散乱・放射された電磁波計測を人工衛星や航空機で行う技術であるが、この物理的な情報から地表特徴を抽出する上で、空間情報を加味したアプローチを提案し、その実施例によって有効性を示した。

 従来のリモート・センシング・データから画像解析を行なって地表特徴を抽出する手法は、多重分光画像解析の手法が代表的であるが、地表を多次元分光空間内の類似性を主として取扱い、画像内に見出されるいろいろな地表オブジェクトの空間的・幾何学的情報を加味した解析は実用レベルには至っていない。リモート・センシング画像の視覚判読による解析は、この点、画像の色調やキメ情報のほか、オブジェクトの空間的な情報を加味して行われているが、定量的で、オペレータに依存しない一貫性のある解析を得る上で問題がある。

 本研究では、画像内の分光的な情報に加え、視覚判読が用いている情報に近い情報を利用した解析が行なえるように、地表特徴や地表オブジェクトの空間的・幾何学的特徴、例えば、古典的なオブジェクトの形状、大きさ、方向等のほか、オブジェクトの局所的なフラクタル次元、オブジェクトの空間分布や複数個のオブジェクト間の空間的・位相的な関係を取り入れた解析を実施した。従来のディジタル画像解析手法では困難である空間情報の抽出法として、画素交換法を開発し、リモート・センシング画像解析に応用し有効性を示した。

 現在実用化されているディジタル画像解析は、ディジタル画像をいわば、空間的な座標(x、y)をパラメタとして画像を場の理論的、解析的処理を主とした.画素毎の処理が中心である。この概念をもとにした画像解析手法はリモート・センシング画像の多次元分光空間の処理には実用化されているが、オブジェクトの空間情報・幾何的情報の解析は困難であるため実用化のレベルには達していない。本研究は、ディジタル画像から空間的・幾何学的な情報を抽出する手法として、ディジタル画像を従来の場の理論的、解析的処理を行なう代りに、画素値集合の要素間、画素値集合と画素の座標の集合の間、座標値集合の要素間の演算(論理演算、順序交換をも含む)を導入した画素交換法を開発し、さらにこの手法を数値処理機能と融合させた上、実際にリモート・センシング画像解析に応用し、有効性を示した。

 リモート・センシング画像から地被特徴を解析する上で、センサーが得た物理的な情報に加え、既知のデータ、情報などの長期的かつ一般的な知識や画像内のオブジェクト間の関連性や状況、意味的な知識を融合し高度なリモート・センシング画像の理解が得られることを示した。

 広く実用化されているリモート・センシング画像の解析は観測されたリモート・センシング画像に前処理・処理・後処理といった逐次的な順序を経て行われ、それぞれの処理段階に高度な数学的手法を適用したり、パラメタの精緻化を行なう努力を払うものが多い。本研究では、観測で得られた入力画像から、種々の情報を、画像変換、画像処理、画素交換法を用いて並列的に中間段階の情報を生成し、それと同時に物理的な観測データでは得られない既存の情報(例えば地図、意味論的な情報など)を加味して中間結果にフィルターや前段階の処理にフィードバックをかけて、情報抽出の精緻化をはかる情報フュージョンのアプローチを実施し、オペレータの介在を最小限にとどめた高度な地表特徴の抽出が可能なることを示した。特に、空間情報を加味することによって、地被オブジェクト抽出のいき値の最適設定、フラクタル次元情報の融合による道路オブジェクトの検出実験を行ない、よい結果が得られた。また、地被オブジェクトの分光特性の混合モデルをもとに空間情報を取り入れた地被オブジェクトの解析をおこない、従来の地被分類に比して合理的な結果が得られることを示した。

審査要旨

 本論文は,「リモートセンシング画像解析のための空間情報抽出法とその応用に関する研究」と題し,衛星によって観測されるデータを用いて地表の特徴を抽出するための手法と手順の開発を目指して行った一連の研究を纏めたもので,7章よりなっている。

 第1章は「序」で,本研究の背景について述べ,本研究の目的を明らかにすると共に,本論文の構成について述べている。

 第2章「リモート・センシングの画像解析の諸問題」では,リモート・センシング画像と他分野で用いられているディジタル画像との比較を行い,リモート・センシング画像解析の諸問題を纏めると同時に視覚判読の方法やコンピュータ画像理解の現状を総括している。

 第3章「高レベルの地被オブジェクト抽出のアプローチ」では,画素毎の処理から直接的に地被解析を行う従来の方法に加え,高いレベルの地被情報抽出を行う上のアプローチとして,多段階で多層の処理手順について述べ,本研究で行う画像解析の基本方針を検討し,そのためのシステム要件について言及している。

 第4章「画素交換法によるディジタル画像解析法と空間情報抽出」では,リモート・センシング画像から高レベルの地被情報を解析する上で必要な地被オブジェクトの空間的な情報を処理する方法として開発した画素交換法について,その基本概念と機能について述べている。

 第5章「画素交換法の拡張とその応用」では,画素交換法を従来から使われている画像処理機能と組み合わせた拡張画素交換法とその利用法について述べ,オブジェクト抽出のために空間情報を利用した最適いき値の設定やある画素が点状のオブジェクト(又は,領域に属するオブジェクト)かを表す点状指数の算定(面状指数),局所的なフラクタル次元の算定法,構造的テキスチャ解析,複雑な形状記述と判別,オブジェクト間の位相的空間関係を利用したオブジェクトの判別への応用について実験した結果を述べている。

 第6章「空間情報を加味した高レベルの地表情報の抽出」では,画素交換法を実際にリモート・センシング・データの解析に応用し,閾値の自動設定法を応用した河川湖沼の自動抽出,フラクタル次元を加味した道路ネットワークや土地利用解析を行なった諸事例を示している。

 第7章「結論と今後の研究課題」では,本研究の成果を纏めると共に本研究の結果をふまえた今後の課題について述べている。

 以上これを要するに,本論文は衛星によって観測されたデータを用いて地表の解析を行うための手法と手順の開発を目指して,画素交換法によるディジタル画像解析法と空間情報抽出法を提案し,各種のリモートセンシング・データの解析に応用してその有効性を示す等,画像工学の進展に寄与するところが多大であり,電気・電子工学に貢献するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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