No | 213344 | |
著者(漢字) | 中嶋,義文 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ナカシマ,ヨシフミ | |
標題(和) | 精神分裂病のサッケード制御に関するPETによる賦活研究 | |
標題(洋) | PET activation study on saccade control in schizophrenia | |
報告番号 | 213344 | |
報告番号 | 乙13344 | |
学位授与日 | 1997.04.25 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第13344号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 精神分裂病患者とその血縁者において、滑動性追跡眼球運動課題遂行中のサッケードの混入や、アンチサッケード課題遂行中のエラーなどに代表されるサッケードの制御障害が存在するという所見は疾患の病態生理と関連が深いと考えられてきた。サッケードの制御障害に前頭前野、特にその背外側部(DLPFC:dorsolateral prefrontal cortex)や前頭眼野(FEF:frontal eye field)の障害が基盤としてあるのではないかということは、lesion studyなどから示唆されていたが直接の証拠は今までなかった。 PET(ポジトロン・エミッション・トモグラフィー)とO-15標識水の組み合わせによる脳血流測定は、生きているヒトの脳で、課題遂行中の局所脳領域における血流増加(賦活)を神経活動の指標とすることにより、特定の課題遂行と局所脳機能とを結び付ける方法(Task-evoked rCBF paradigmあるいはactivation study)である。この研究方法を用いて、健常被験者と精神分裂病患者におけるサッケード制御、特に高次制御について検討した。 第一の研究では、このような賦活研究を精神分裂病に応用することの妥当性を検討した。血流を神経活動の指標とするパラダイムが成立するためには、安静時および課題遂行時における局所の神経活動-糖代謝-血流の間に連関(coupling)がなければならない。神経活動-糖代謝のcouplingはすでに証明されており、健常被験者における安静時および課題遂行時における糖代謝-血流のcouplingもPETを用いて示されている。そこで精神分裂病患者においてPETにより安静時および課題遂行時におけるF-18標識フルオロデオキシグルコースを用いた脳糖代謝測定とO-15標識水を用いた脳血流測定を行い、同一被験者における局所の糖代謝-血流のcouplingについて検討したところ、安静時および課題遂行時ともに糖代謝-血流のcouplingが成立していることが示された。したがって、賦活研究を精神分裂病に応用して健常被験者のデータと比較することができることが確認された。 第二の研究では、安静時と単純サッケード課題(視標なしのサッケード)、反射性サッケード課題(点灯する視標へのサッケード)、意図性サッケード課題(点灯する視標と逆方向の等距離点へのサッケード)の4条件で健常被験者および精神分裂病患者においてPETによる局所脳血流測定を行った。同一健常被験者において三次元再構成MRI画像と、意図性サッケード課題遂行時のPET画像とを重ねあわせて表示することにより、ヒトのFEFが前中心回と中前頭回にまたがる比較的広い領域をしめることが示された。条件、群、領域、半球を因子とした分散分析、その後の多重比較を考慮したt検定の結果、分裂病群は全課題条件でFEFの賦活が弱いこと、意図性サッケード課題遂行時に健常者群では左側優位にDLPFCと後頭頂領(PPC)が協働して賦活されるが、分裂病群ではそのパターンが認められないことが示された。 精神分裂病において、局所の賦活と患者の臨床像と関連があるかを診断亜型や臨床症状、罹病期間などの因子との相関で検討した。精神分裂病の臨床像によって課題遂行時の賦活のパターンを説明するものはなかった。安静時血流においては、会話量の貧困の度合と左DLPFCとの間に有意な負の相関が認められ、これは抑鬱状態など精神活動の貧困と左DLPFCとの相関を報告した他の報告に一致していた。 本論文においては、以上の研究により、PETによる賦活研究を精神分裂病に応用することの妥当性、精神分裂病ではサッケード制御において前頭背外側部や前頭眼野、後頭頂領の関与が健常者のそれと異なること、その違いを臨床像の違いで説明することはできなかったこと、を示した。分裂病の中にも、課題遂行時に健常者と同強度のFEFの賦活をみとめるものもあり、このようなケースが、局所のレセプター機能などで説明される可能性が今後の検討課題であろう。 | |
審査要旨 | 本研究は、精神分裂病の病態生理と関連が深いと考えられているサッケード制御障害に関与する脳神経回路を明らかにするため、PET(ポジトロン・エミッション・トモグラフィー)とO-15標識水の組み合わせによる脳血流測定を用いて課題遂行中の局所脳領域における血流増加(賦活)を神経活動の指標とすることにより、特定の課題遂行と局所脳機能とを結び付ける方法(Task-evoked rCBF paradigmあるいはactivation study)を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1・このような賦活研究を精神分裂病に応用することの妥当性を検討した。精神分裂病患者においてPETにより安静時および課題遂行時におけるF-18標識フルオロデオキシグルコースを用いた脳糖代謝測定とO-15標識水を用いた脳血流測定を行い、同一被験者における局所の糖代謝-血流の連関(coupling)について検討したところ、安静時および課題遂行時ともに糖代謝-血流のcouplingが成立していることが示された。血流を神経活動の指標とするパラダイムが成立するためには、安静時および課題遂行時における局所の神経活動-糖代謝-血流の間に連関(coupling)がなければならない。神経活動-糖代謝のcouplingはすでに証明されており、健常被験者における安静時および課題遂行時における糖代謝-血流のcouplingもPETを用いて示されている。したがって、賦活研究を精神分裂病に応用して健常被験者のデータと比較することができることが確認された。 2・安静時と単純サッケード課題(視標なしのサッケード)、反射性サッケード課題(点灯する視標へのサッケード)、意図性サッケード課題(点灯する視標と逆方向の等距離点へのサッケード)の4条件で健常被験者および精神分裂病患者においてPETによる局所脳血流測定を行った。同一健常被験者において三次元再構成MRI画像と、意図性サッケード課題遂行時のPET画像とを重ねあわせて表示することにより、生理学的に定義されるヒトの前頭眼野(FEF)が前中心回と中前頭回にまたがる比較的広い領域をしめることが示された。 3・条件、群、領域、半球を因子とした分散分析、その後の多重比較を考慮したt検定の結果、精神分裂病群は全課題条件でFEFの賦活が弱いこと、意図性サッケード課題遂行時に健常被験者群では左側優位に前頭前野背外側部(DLPFC)と後頭頂領(PPC)が協働して賦活されるが、精神分裂病群ではそのパターンが認められないことが示された。 4・精神分裂病群において、局所の賦活と患者の臨床像と関連があるかを診断亜型や臨床症状、罹病期間などの因子との相関で検討した。精神分裂病の臨床像によって課題遂行時の賦活のパターンを説明するものはなかった。安静時血流においては、会話量の貧困の度合と左DLPFCとの間に有意な負の相関が認められ、これは抑鬱状態など精神活動の貧困と左DLPFCとの相関を報告した他の報告に一致していた。 以上、本論文はPETによる賦活研究を精神分裂病に応用することにより、精神分裂病ではサッケード制御において前頭背外側部や前頭眼野、後頭頂領の関与が健常者のそれと異なることを示した。本研究はこれまで未知であった精神分裂病のサッケード制御障害に関与する脳神経回路を脳血流をもちいて示した点で精神分裂病の病態生理の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/54025 |