本研究では、ミトコンドリアのマトリックスに存在し尿素合成および糖新生に関与すると考えられるV型炭酸脱水酵素(以下CA V)について、cDNAのクローニングとゲノム構造の解析を行い、以下の知見を得た。 1.ヒト及びラットの肝臓のcDNAライブラリーをスクリーニングして、それぞれのCA VのcDNAをクローニングした。翻訳後のヒト及びラットのCA Vのアミノ酸配列は他のCAのアイソザイムのアミノ酸配列と相同性があり、また既に報告されているモルモットのCA Vのアミノ酸配列とも高い相同性を示した。 2.単離されたヒト及びラットのCA V cDNAをCOS-7細胞で発現させてCAの酵素活性を確認した。CA Vは前駆体として翻訳され、ミトコンドリアに標的を受けた後に成熟体にプロセッシングを受けるが、N-末端にはミトコンドリアへ標的されるためのシグナルペプチドと考えられるアミノ酸配列が存在していた。トランスフェクションを行った実験ではCA Vの前駆体及び成熟体をCOS-7細胞中に確認したが、成熟体はCOS-7細胞中のミトコンドリア分画に検出された。更にヒト及びラットの肝臓でもCA Vの成熟体がミトコンドリア分画に検出された。以上のことから得られたcDNAはミトコンドリアに存在するCAのアイソザイム、即ちCA VのcDNAであると考えられた。 3.ラットのCA Vに関して各組織のウェスターンブロットを行い、肝臓以外に心臓、肺、腎臓、脾臓、小腸にCA Vの発現を確認した。 4.ヒトの肺線維芽細胞由来のゲノムライブラリー及びヒトの臍帯由来のゲノムライブラリーをスクリーニングしてCA V遺伝子(以下CA5)の構造を決定した。CA5は他のアイソザイムの遺伝子と同様に7つのエクソンから構成され、全長は50kbに及んだ。またCA5のスクリーニングの過程でCA V偽遺伝子(pCA5)の存在が確認された。これらの遺伝子についてFISHを行いCA5を16番染色体の長腕上の16q24.3に、pCA5を短腕上の16p11.2-12にそれぞれ同定した。 以上、本論文はヒト及びラットのCA VのcDNAを初めて報告し、発現実験を行って酵素活性を確認し、酵素の動態、細胞内局在、組織分布を解析した。更にヒトCA V遺伝子のゲノム構造を解析して、染色体上の位置を同定し、CAのアイソザイムとして初めて偽遺伝子の存在を報告した。本研究はCA Vという酵素について現在用いうる分子生物学的方法、細胞生物学的方法を駆使して様々な側面からの解析を試みており、多くの知見を得ている。本研究は学位の授与に値するものと思われる。 |