学位論文要旨



No 213347
著者(漢字) 佐藤,幸光
著者(英字)
著者(カナ) サトウ,ユキミツ
標題(和) 骨シンチグラフィ用放射性医薬品99mTc-HMDPの体内動態に関する研究
標題(洋)
報告番号 213347
報告番号 乙13347
学位授与日 1997.04.25
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第13347号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 佐々木,康人
 東京大学 助教授 西川,潤一
 東京大学 助教授 渡辺,毅
 東京大学 講師 木村,健二郎
 東京大学 講師 峯,徹哉
内容要旨 1.研究目的

 骨シンチグラフィ(以下骨シンチと略す)は、腎機能に異常が認められる患者および小児患者に対しても日常的に施行されている。しかし、これらの患者に対する放射性医薬品の体内動態に関する知見は限られており、また、被ばく線量評価に関する検討もほとんど行われていないのが現状である。したがって、放射線防護の視点から考えると、患者の放射性医薬品の体内動態について解析し、検討することは、患者の体内被ばくの算定、放射性医薬品の投与量の決定ならびに核医学検査における正当化および最適化が適切に行うために有意義なことである。

 そこで本研究では、99mTc-HMDPを用いた骨シンチ実施時の放射性医薬品の体内動態や骨集積率について、年齢依存性に着目して検討した。

2.研究方法2-1放射性医薬品の尿中排泄率の算定

 放射性医薬品投与30分から24時間後までの尿中排泄率を算定した。第1回目および第2回目の採尿は、それぞれ放射性医薬品投与後30分および検査直前(投与後3時間〜4時間)に行い、第3回目以降の採尿は、自然に尿意があった時点で採尿した。各排尿時ごとの尿から測定用試料を採取し、オートウエルカウンタ(ダイナボット社製)で放射能を測定した。

2-2TLDによる患者体表面の積分線量の測定

 TLD素子を、胸鎖関節部、第三腰椎突起上、膀胱部前面の身体表面の3ケ所にそれぞれ2本ずつ投与直後より3時間持続して装着し、患者体表面の積分線量を測定した。

2-3シンチカメラ画像を利用した放射性医薬品の臓器内集積率の算定

 骨および軟部組織への99mTc-HMDPの集積率をシンチカメラで撮像した画像を用い、データ処理装置、HARP-2000を用いて各部位に関心領域(ROI)を設定して、それぞれのROI中のカウント数求め、各臓器内での集積率を算定した。

3.結果3-1放射性医薬品の累積尿中排泄率

 腎機能正常な成人患者と小児患者および腎透析患者の99mTc-HMDPの累積排泄率をFig.1に示す。腎透析患者の累積排泄率は、腎機能正常な成人患者のそれの約1/10以下であり、24時間までの間に投与量の10%程度しか尿中へ排泄されない。

3-2TLD装着部位と体表面積分線量値との関係

 TLDによる胸鎖関節部の体表面の3時間の積分線量をFig.2に示す。小児患者(0.59±0.19Sv/MBq)と腎透析患者(0.50±0.08Sv/MBq)の単位投与量の体表面積分線量は、成人患者(0.31±0.08Sv/MBq)のそれの約2倍である。

3-3放射性医薬品の骨集積率との関係

 全身骨シンチ(正面像)の第三腰椎と大腿部のROIのカウント数との相対値をFig.3に示す。腎機能正常な成人患者では9.6±1.4、腎透析患者では4.2±0.8である。

4.考察4-1骨集積率および尿中排泄率からみた骨シンチグラフィの最適化

 小児患者の身体表面に装着したTLDの積分線量でも明らかのように、単位投与量当たりの線量は成人の2倍の値を示す。これは、小児の身体が小さいことが起因しており、被ばく線量が高くなることを示唆している。尿中排泄率から算定した小児患者の99mTcの実効半減期が42分であることから考えて、実際の撮像開始時間を投与後、2時間にルーチン化すべきであると考える。さらに、撮像までの時間を短縮することは、患者の検査に伴う時間的負担を軽減するとともに、患者に投与する放射性医薬品の量を減少できることから、患者の被ばく線量を軽減することになる。この点を十分考慮した、核医学検査の正当化および最適化がなされるべきであると考える。

4-2腎透析患者の99mTc-HMDPの体内動態と骨集積率の関係

 腎透析患者の尿中排泄率は、腎機能正常な成人患者の約1/10以下であり、体内残留率が高いうえに、骨集積率低下が認められた。このことより、骨/軟部組織のコントラストが低下し、画像の質が低下する。さらに、腎透析患者では、放射能の減衰は物理学的半減期のみで減少し、全身の被ばく線量が増大するので、腎透析患者に対する骨シンチの適用については、とくに慎重な適応の判断が必要である。その際に、放射性医薬品の体内動態、臓器集積率、患者の病態等などを指標とした個人における内部被ばく線量の評価法の確立が重要となる。

Fig.1成人、小児、腎透析患者の累積尿中排泄Fig.2TLDを用いた胸鎖関節部の積分線量の分布Fig.3.成人患者と腎透析患者における99mTc-HMDPの体内分布(第三腰椎部/大腿部)カウント比
審査要旨

 本論文は、インビボ核医学検査で汎用されている骨シンチグラフィ用放射性医薬品である99mTc-HMDPに着目して、患者の体内に投与した放射性医薬品の体内動態、骨集積性および年齢依存性について(1)放射性医薬品の経時的な尿中排泄率、(2)患者の体表面(3ヵ所)に装着したTLDの積算体表面被ばく線量、(3)得られた骨シンチグラム上から求めた放射性医薬品の骨集積率などを指標にして、成人、小児および透析患者の違いを検討したものであり、全体は5章からなっている。

 第1章は研究の背景や研究の意義について言及し、本研究の緒言および研究目的について述べている。

 第2章では、本研究で対象となった症例を供覧し、患者から経時的に採取した尿に排泄される99mTc-HMDPの尿中放射能の測定方法、TLDを用いた患者体表面の被ばく線量の測定方法およびシンチカメラ画像を利用した99mTc-HMDPの臓器内集積率の算定方法について述べている。

 第3章では、本研究の結果について言及している。実測および計算によって得た前述の3つの指標から次の結果を述べている。

 腎機能正常な成人患者および小児患者では、99mTc-HMDP投与3時間後までに投与量の約40%が尿中に排泄されるのに対して、99mTc-HMDPの生物学的半減期は1.10時間である。5歳の小児患者では、0.08時間であった。腎透析患者では、99mTc-HMDP投与3時間後までに投与量の約4%しか尿中に排泄されず、ほとんどが体内残留していることが本研究で示されている。腎透析患者の生物学的半減期は3.37時間であり、成人患者に比べて約3倍長い時間となっている。骨シンチグラム上からの99mTc-HMDPの骨への集積率は、成人患者のそれの1/2.5にすぎないことも示されている。

 第4章では、本研究の考察について述べられている。放射性医薬品の体内動態を把握するためには、患者の尿を分析して情報を入手することが望ましい。しかし、患者の体表面に装着したTLDあるいは診断のための骨シンチグラムを解析することにより、患者の被ばく線量推定のための情報を容易に入手することができることを本研究では示唆している。

 結果で明らかのように、腎透析患者の放射性医薬品の体内での残留が多いことから、体内被ばく線量が成人患者に比べて高くなることが考えられる。したがって、核医学検査を行う際には、放射性医薬品の体内動態、臓器集積率、患者の病態などを指標に用いた個人における内部被ばく線量の評価法の確立の必要性について指摘している。次に、放射性医薬品の骨集積率および尿中排泄率からみた骨シンチグラフィの最適化に関して、99mTc-HMDPの骨集積率の程度を把握することは、放射性医薬品投与後の最適な撮像時間を決定するのに重要な因子となることを指摘している。さらに、撮像時間の短縮化が可能となれば、患者に投与する放射性医薬品の量を減少できることになる。そこで核医学検査を受ける患者の放射線防護の最適化の視点より、とくに小児患者においては、被ばく線量軽減のために、投与から撮像までの時間の短縮化を行い、適宜、患者に対する放射性医薬品の投与量の軽減をはかるべきであると提案している。

 第5章は結語であり、本研究の内容をまとめるとともに、核医学検査の最適化に関する提案を行っている。

 以上要約すると、患者からの臨床データに基づいて、放射性医薬品の尿中排泄率、TLD測定による積算体表面被ばく線量、放射性医薬品の臓器集積率などを指標に用いて患者の体内動態を解析し、検討したことは、患者の体内被ばくの算定、放射性医薬品の投与量の決定ならびに核医学検査における正当化および最適化が適切に行われることになり、大変有意義な研究であり、核医学診断の進展に寄与することが大きい。

 よって本論文は、博士(医学)の学位請求論文として合格と認められる。

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