本論文は、インビボ核医学検査で汎用されている骨シンチグラフィ用放射性医薬品である99mTc-HMDPに着目して、患者の体内に投与した放射性医薬品の体内動態、骨集積性および年齢依存性について(1)放射性医薬品の経時的な尿中排泄率、(2)患者の体表面(3ヵ所)に装着したTLDの積算体表面被ばく線量、(3)得られた骨シンチグラム上から求めた放射性医薬品の骨集積率などを指標にして、成人、小児および透析患者の違いを検討したものであり、全体は5章からなっている。 第1章は研究の背景や研究の意義について言及し、本研究の緒言および研究目的について述べている。 第2章では、本研究で対象となった症例を供覧し、患者から経時的に採取した尿に排泄される99mTc-HMDPの尿中放射能の測定方法、TLDを用いた患者体表面の被ばく線量の測定方法およびシンチカメラ画像を利用した99mTc-HMDPの臓器内集積率の算定方法について述べている。 第3章では、本研究の結果について言及している。実測および計算によって得た前述の3つの指標から次の結果を述べている。 腎機能正常な成人患者および小児患者では、99mTc-HMDP投与3時間後までに投与量の約40%が尿中に排泄されるのに対して、99mTc-HMDPの生物学的半減期は1.10時間である。5歳の小児患者では、0.08時間であった。腎透析患者では、99mTc-HMDP投与3時間後までに投与量の約4%しか尿中に排泄されず、ほとんどが体内残留していることが本研究で示されている。腎透析患者の生物学的半減期は3.37時間であり、成人患者に比べて約3倍長い時間となっている。骨シンチグラム上からの99mTc-HMDPの骨への集積率は、成人患者のそれの1/2.5にすぎないことも示されている。 第4章では、本研究の考察について述べられている。放射性医薬品の体内動態を把握するためには、患者の尿を分析して情報を入手することが望ましい。しかし、患者の体表面に装着したTLDあるいは診断のための骨シンチグラムを解析することにより、患者の被ばく線量推定のための情報を容易に入手することができることを本研究では示唆している。 結果で明らかのように、腎透析患者の放射性医薬品の体内での残留が多いことから、体内被ばく線量が成人患者に比べて高くなることが考えられる。したがって、核医学検査を行う際には、放射性医薬品の体内動態、臓器集積率、患者の病態などを指標に用いた個人における内部被ばく線量の評価法の確立の必要性について指摘している。次に、放射性医薬品の骨集積率および尿中排泄率からみた骨シンチグラフィの最適化に関して、99mTc-HMDPの骨集積率の程度を把握することは、放射性医薬品投与後の最適な撮像時間を決定するのに重要な因子となることを指摘している。さらに、撮像時間の短縮化が可能となれば、患者に投与する放射性医薬品の量を減少できることになる。そこで核医学検査を受ける患者の放射線防護の最適化の視点より、とくに小児患者においては、被ばく線量軽減のために、投与から撮像までの時間の短縮化を行い、適宜、患者に対する放射性医薬品の投与量の軽減をはかるべきであると提案している。 第5章は結語であり、本研究の内容をまとめるとともに、核医学検査の最適化に関する提案を行っている。 以上要約すると、患者からの臨床データに基づいて、放射性医薬品の尿中排泄率、TLD測定による積算体表面被ばく線量、放射性医薬品の臓器集積率などを指標に用いて患者の体内動態を解析し、検討したことは、患者の体内被ばくの算定、放射性医薬品の投与量の決定ならびに核医学検査における正当化および最適化が適切に行われることになり、大変有意義な研究であり、核医学診断の進展に寄与することが大きい。 よって本論文は、博士(医学)の学位請求論文として合格と認められる。 |