完全大血管転位症のうち心室中隔欠損および肺動脈狭窄を伴う病型すなわちIII型に対しては、心外導管を用いて右室流出路を再建するRastelli手術が標準術式としてこれまで広く行われてきた。しかし術後遠隔期における心外導管の相対的狭小化および偽性内膜増生による内腔閉塞は避けられず、ほぼ全症例において再手術が運命づけられている。また再手術までの期間中、持続的に進行する心外導管の閉塞は心機能に不可逆性の変化をもたらすこともあり、突然死の危険性も指摘されている。 本研究はRastelli手術の問題点を解決すべく心外導管を用いない術式を新しく考案し、その臨床応用例の術後早期および中期遠隔期の評価を行ったもので、下記の結果を得ている。 1.上行大動脈の後方にある主肺動脈は、剥離をその基部まで行い肺動脈弁下で切離することによって十分な長さが確保でき、自然な通路を介して右室へ吻合することが可能であることが確認された。これにより後壁は自己主肺動脈組織を用い、前壁は単弁付きパッチをあてて右室流出路を再建した。これは従来、完全大血管転位症では心外導管を用いなければ右室-肺動脈間の連結が困難とされてきた考えを一新するものである。 2.これまで連続5例に対し新術式を施行し、満足の行く結果が得られた。そのうち心臓カテーテル検査で術後早期および中期遠隔期成績の得られた3例について評価を行った。3例とも術後早期の造影所見でファロ-四徴症の術後に類似した形の右室流出路が形成されており、術後1年8カ月、3年0カ月、2年1カ月の遠隔期においても形態的にみて均整のとれた発育が確認された。側面像で計測した右室流出路内径は症例1が16mmから19mmへ、症例2が14mmから18mmへ、症例3が15mmから17mmへの大きさに成長しているのが確認された。 3、諸家の報告をみると、Rastelli手術後の右室-肺動脈圧較差は大体20〜30mmHgで術後2〜3年で40〜50mmHgに上昇しているが、新術式を行った3症例の術後早期の右室-肺動脈圧較差は平均10mmHgで、中期遠隔期には平均14mmHgであった。右室収縮期圧は術後早期において平均46mmHgであったものが中期遠隔期には平均40mmHgに低下しており、再建した右室流出路の成長を裏付ける所見と考えられた。 以上、本論文で述べられた完全大血管転位症III型に対する新しい術式は、自己組織を利用した、形態学的にもより自然なかたちの根治手術であり、遠隔期においても右室流出路の成長が確認された。これはこれまで標準術式とされてきた心外導管を用いるRastelli手術の問題点を解決できる優れた術式であり、同疾患群の治療に大きく貢献するものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |