学位論文要旨



No 213353
著者(漢字) 伊苅,裕二
著者(英字)
著者(カナ) イカリ,ユウジ
標題(和) Palmaz-Schatz冠動脈ステント植え込み後の内径の減少と再狭窄の部位
標題(洋)
報告番号 213353
報告番号 乙13353
学位授与日 1997.04.25
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第13353号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 教授 古瀬,彰
 東京大学 助教授 小塚,裕
 東京大学 助教授 多久和,陽
 東京大学 助教授 山田,信博
内容要旨 【序】

 冠動脈形成術(PTCA)は、冠動脈バイパス術と並ぶ冠血行再建術として急速に発展し、すでに確立された治療法として認められている。しかし、その有用性とともにその限界も明らかとなった。すなわち、(1)慢性完全閉塞にガイドワイヤーが通過しないこと。(2)急性冠閉塞を来した場合確実な離脱法がないこと。(3)バルーン拡張に成功しても遠隔期に30-40%の再狭窄が生じること、である。ステントは血管を内部から支持する構造のため急性冠閉塞に対し有効で、また再狭窄率も低下させる。PTCAの限界のうち2つを解決する可能性をもった冠動脈ステント法であるが、複雑な手技、亜急性冠閉塞、出血性合併症、再狭窄例に対する治療が確立されていないことなどが問題点であろう。

【方法および結果】

 ステント後再狭窄はステントの関節部に多いことが従来の観察から知られていたが、なぜ関節部に多いかについては明らかではなかった。我々は定量的冠動脈造影法(QCA)を用い、ステント内5ヵ所の内径の変化を63例67病変につき詳細に検討した。5ヵ所の内径はすべて植え込み直後と比較し6ヵ月後には減少した(3.2±0.5vs2.4±0.7mm,p<0.05)。造影上の再狭窄率は18%で、関節部を含む病変が75%、関節部または両端を含むものが83%であった。関節部の内径は植え込み直後から他の部よりも小さく(3.0±0.5vs3.3±0.5mm,p<0.05)、6ヵ月後も小さかった(2.1±0.8vs2.5±0.7mm,p<0.05)。Loss index(late loss/acute gain)は両端でステントの体部よりも有意に大きかった(0.98vs0.60,p<0.05)。

【考案】

 Palmaz-Schatzステントの両端は通常体部よりも大きく拡張し、ステントが動かないようになっている。しかし、そのため両端では体部よりも血管に与える傷害は強く、しかもステントの網構造がないため支持力も弱い。関節部は端部が1mmの間に2つあり網構造が存在しないため端部と類似した構造である。しかし、ステントの網構造が両側に存在するため支持力は両端よりは強いと考えられた。以上からその構造上の特徴のため再狭窄が多いと考えられた。関節部のデザインの改良はさらにステントの再狭窄率を減らす可能性がある。

審査要旨

 本研究は、現在主流となりつつある新しい冠動脈血行再建術である冠動脈ステント法をとりあげ、その最大の問題点であるステント後再狭窄好発部位に関して、特にPalmaz-Schatzステントの関節部に再狭窄が多い原因を明らかにするため、定量的冠動脈造影法(QCA)を用い、Palmaz-Schatzステント内5ヵ所(近位端、前半体部中央、関節部、後半体部中央、遠位端)の内径の変化を同一施設連続症例63例67病変につき詳細に検討を加えたものであり、下記の結果を得ている。

 1. 5ヵ所の血管内径はすべて植え込み直後と比較し6ヵ月後には減少した(3.2±0.5vs2.4±0.7mm,p<0.05)。関節部の内径は他の4カ所と比べて植え込み直後から小さく、6カ月後でも有意に小さかった。ステント自身の径は0.05±0.20mmしか減少しなかった。つまりステント内再狭窄は主として、ステント自身のrecoilではなく新生内膜の増殖によることが判明した。実際にatherectomyで著者らが調べたステント内再狭窄の組織は通常の動脈硬化組織とは異なり、ほとんどがextracellular matrixであり細胞成分が少ないもので新生内膜組織の特徴に合致した。

 2. 造影上の再狭窄率は18%で、関節部を含む病変が75%、関節部または両端を含むものが83%であった。関節部の内径は植え込み直後から他の部よりも小さく(3.0±0.5vs3.3±0.5mm,p<0.05)、6ヵ月後も小さかった(2.1±0.8vs2.5±0.7mm,p<0.05)。Loss index(late loss/acutegain)は両端でステントの体部や関節部よりも有意に大きかった(0.98vs0.60,p<0.05)。

 このことからステント両端部においては、通常体部よりも大きく拡張し血管に与える傷害は強いため新生内膜形成が増加すること、およびステントの網構造がないため支持力が弱くremodelingの影響を受けやすいことにより再狭窄が起こりやすいと考えられた。また関節部は端部が1mmの間に2つあり網構造が存在しないため端部と類似した構造であり支持力は体部中央より弱いと考えられ、しかも常に狭窄度の一番高い部位に置かれるため、関節部の内径は他の4カ所と比べて植え込み直後から小さいという結果となり、前記の両端部再狭窄の機序とあいまって関節部の再狭窄が増多したと考えられた。

 以上、本論文は定量的冠動脈造影法(QCA)を用いPalmaz-Schatzステント内径の変化を同一施設連続症例63例67病変につき詳細に検討を加えた日本で最初の報告であり、Palmaz-Schatzステントの臨床医療適応がアメリカ合衆国よりも日本で早く認められたことを考えると、Palmaz-Schatzステントの形態と再狭窄の関連に関する詳細な報告としては世界においても最初のものであり特に重要と考えられる。本研究の示唆した関節部のデザインの改良のアドバイスは現実に取り上げられ、新型のPalmaz-Schatzステントが開発されており、冠動脈ステントの再狭窄予防に関して重要な貢献をなしたと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/54027