本研究は、保護者の養育態度も含めた、子どもを取りまく養育環境が発達や健康に及ぼす影響について全国レベルでの検討を行うことを目的に、平成2年に実施された全国調査である幼児健康度調査の調査結果の分析を行ったものである。その結果、下記の結果を得ている。 1.保護者の養育態度と発達との関連をみるため、養育態度と個々の発達項目の分析、および主成分得点を用いて比較を行った結果、良好な養育態度は児の発達全般に促進的に働くことがわかった。一方、3歳および5-6歳の粗大運動発達を示す指標(第2主成分)については、良好な養育態度と負の関連が認められた。 2.養育態度の健康面への影響では、良好な養育態度の場合は、問題行動や習癖の有訴率が低く、入院や事故および疾患の既往が少ないことが明らかになった。 3.養育態度はそれぞれ相互によく関連していた。 4.養育態度に影響を与えている要因としては、昼間の保育者や家族形態、母親の健康状態、母親の就労および託児の状況などであり、全般に昼間の保育者が母親の場合、核家族の場合、母親が心身健康な場合、母親が無職の場合に良好な養育態度である割合が高かった。託児の状況は年齢によって養育態度への影響の仕方が異なっており、3歳以下の場合は保育所で託児されている場合にポジティブな養育態度のものの割合が多いのに対し、3歳以降は逆の影響が認められた。 5.環境要因と発達との関連を検討した結果、12の環境要因の中では、母親の健康状態と友達の有無の発達への影響力が大きく、母親が心身健康な場合および一緒に遊ぶ友達がいる場合に発達が良好であることが示唆された。託児の状況は、年齢による関与の仕方の違いがあるものの、発達への影響力が比較的大きく、3歳までは保育所や幼稚園における施設保育が子どもの発達や生活習慣の自立にとって促進的であることがわかった。反対に、5-6歳では、保育所での保育や、母親の就労はネガティブな影響を与えていた。 6.健康面に対して影響を及ぼしていると考えられる環境要因は、母親の年齢、きょうだい関係、母親の健康状態、母親の就労などであり、母親が20代以の場合、母親が健康でない場合、母親が有職の場合に、健康状態が良好ではないものの割合が高かった。きょうだい関係では、習癖等の有訴率はひとりっ子や長子において高く、感染症の既往率は末子や中間子で高かった。 以上、本論文は保護者の養育態度を含めた養育環境の小児の発達や健康に及ぼす影響および養育態度に関連する諸背景要因を全国規模で調査した結果であり、得られた知見は、現在の変動的社会情勢に対応した母子保健のあり方を検討する上で重要な示唆を提供している。 本論文の意義については、審査員全員が高く評価しており、学位授与に値するものと判断した。 |