学位論文要旨



No 213358
著者(漢字) 土屋,隆裕
著者(英字)
著者(カナ) ツチヤ,タカヒロ
標題(和) 一般化等質性分析による質的データのための尺度構成法
標題(洋)
報告番号 213358
報告番号 乙13358
学位授与日 1997.04.30
学位種別 論文博士
学位種類 博士(教育学)
学位記番号 第13358号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 渡部,洋
 東京大学 教授 藤田,英典
 東京大学 助教授 市川,伸一
 東京大学 助教授 南風原,朝和
 東京大学 助教授 山本,義春
 大学入試センター 教授 岩坪,秀一
内容要旨

 本論文は,一般化等質性分析という新たな手法により,調査等で得られる質的データを基に尺度構成を行う方法を提案したものである.

 測定のための尺度があらかじめ存在しない心理学や教育学の分野では,研究の第一歩として,個体や項目に数量を与える方法である尺度構成法が重要な課題となる.特に,質問紙調査などでは,順序尺度や名義尺度の水準にある項目が用いられるため,質的データに基づく尺度構成法が必要となる.

 本論文の第1章ではまず,広義の一次元尺度,狭義の一次元尺度,多次元尺度という視点から尺度構成法を整理した.広義の一次元尺度とは全ての項目との整合性が最も高くなるよう構成した尺度,狭義の一次元尺度とは整合性の高い項目だけを取り出して構成した尺度,多次元尺度とは全ての項目との整合性が最も高くなるよう個体や項目を多次元空間上に配置したものを指す.そして,因子分析法やMDS,数量化III類など従来の多くの尺度構成法が,広義の一次元尺度や多次元尺度の構成法であることを指摘した.狭義の一次元尺度は,解釈が容易であり,測定している概念が明確になるにもかかわらず,その構成法はほとんど提案されていなかったと言ってよい.

 そこで第2章では,広義の一次元尺度構成法である数量化III類や主成分分析をその特別な場合として含み,かつ狭義の一次元尺度構成にも対応できる一般化等質性分析を提案した.そして一般化等質性分析の原理について説明した.

 第3章では,一般化等質性分析の下位手法として,項目の中から一次元性をなす項目だけを選択し,一次元尺度構成を行う方法を提案した.学力テストにおける項目分析等で,一次元性を持つ項目の選択は必須である.従来は因子分析法や主成分分析法が,この目的のために用いられてきた.また学力テストでは,総得点と項目得点との相関係数により項目が選択されることもある.しかし,名義尺度では項目間相関係数を求められない,カテゴリ値の最適変換を伴う方法では項目の選択に最適な変換が得られるとは限らない,主成分や総得点が不適切な項目を含んで求められる,といった問題点があった.本論文では,一般化等質性分析において,各項目得点と尺度得点との相関係数の関数であるという重み係数を導入した.尺度得点との相関が低い項目には小さな重みを与えることで,お互いに関連の高い一部の項目のみから尺度得点が構成されることになる.またそれと同時に,カテゴリや個体に対して,項目を選択し一次元尺度を構成するのに最適な数量を与えることが可能となった.

 論文では,数値例として2つの人工データと,数学能力検定試験データ,心機能評価データ,循環器系疾患データ,EPPS性格検査データという4つの実データを分析した.その結果,数量化III類では項目の選択が不可能なデータに対しても,一次元性をなす項目を選び出せること,カテゴリの順序が知られておらず主成分分析や因子分析が役立たない場合でも,カテゴリの順序を明らかにすると同時に項目の選択が行えること,複数の一次元構造を持つデータに対しても局所解を利用することで複数の一次元尺度を構成できること,テストの項目分析においては点双列相関係数を利用する場合に比べ信頼性の高い尺度が構成されること,等の方法の優れた点が明らかにされた.

 第4章では,一般化等質性分析の下位手法として,項目をそれぞれが一次元性を持つG個の群に分類し,各群において尺度を構成する項目パタン分類の方法を提案した.特性論に基づく性格検査等のように,1回の測定において測ろうとする特性が複数ある,ということは少なくない.従来,項目分類には因子分析法が多く用いられてきた.しかし因子分析法は,カテゴリの順序が分からないと適用できない,カテゴリ値を最適変換しても項目分類に最適な変換であるとは限らない,回転に対する不定性があり分類が一意に定まらない,といった問題点を抱えている.本論文では,一般化等質性分析においてファジィc-meansクラスタ法の考え方を利用した.これにより,項目分類に最適なカテゴリ値を求めると同時に項目を一意に分類し,各個体に尺度得点を与えることが可能となった.また,どの群にも分類できない項目は,尺度の構成に寄与する程度が軽減され,自動的に取り除かれる,という優れた特徴も持つ.

 論文では,数値例として5つの人工データと,絵画印象をSD法により調べたデータ,面接試験における評定データ,「日本人の国民性」調査の中から「義理人情」項目と「伝統対近代」項目を用いたデータという3つの実データを分析し,方法の性質を吟味した.その結果,因子分析法では項目の分類に失敗したり分析できない場合でも適切に項目を分類できること,どの項目が関連しているのかといったデータ構造について数量化III類の結果からは得られない知見を得られること,等の方法の利点が示された.

 第5章では,第4章の方法を質的3相データに拡張した3つの方法を提案した.プリテストとポストテスト,パネル調査の結果や多特性他方法行列など3相データの例は多い.この章では,絵画に対する印象をSD法により調べた,評定者×SD項目×絵画というデータを数値例として用いた.提案した方法は,項目パタン分類による尺度構成法を拡張しているため,主成分分析や因子分析モデル,数量化III類を3相に拡張した従来の方法に比べ,名義尺度であっても項目の分類に最適なカテゴリ値が得られる,回転を行うことなく一次元性を持つ項目の群が一意に得られる,といった特徴を受け継いでいる.

 3つの方法は全て,尺度得点に対し何らかの制約を課しながら項目の相を分類することで,評定者と絵画の相の関係を探るものである.仮に無制約のときの項目の群が得られなければ,制約を課すことで項目の分類に必要なデータ構造が取り除かれたと考えた.すなわち,適切な群が得られるまで制約を緩めなければならない.この考え方により,尺度得点に課す制約の適否を判断し,制約の程度を決めることが可能となった.データへの適合度から制約の程度を決める従来の方法に比べ,より明確な判断を下せるという利点がある.

 論文では,デザイン行列を用いる方法,ランク制約を用いる方法,評定者の分類を伴う方法という3種類の方法により,尺度得点に制約を課した.その結果,評定者の間には絵画に対する印象の差がある,という結論が導かれた.そして,印象の差を図として表現したり,評定者をグループにまとめることで,評定者間の差がとらえられた.

 第6章では,項目パタン分類の方法の考え方を,2つの質的項目群に拡張することを試みた.新しい性格テストバッテリと従来のそれとの比較や,入学試験の成績と入学後の学業成績との比較等のために,2つの項目群が得られることがある.その場合,どのような性格特性が関連しているのか,入学後の学力と関係している入学試験の項目はどれか,といったことが関心の対象となる.2つの項目群に対しては,正準相関分析が多く用いられてきた.しかし,名義尺度のデータには適用できない,結果の解釈には正準構造の回転が必要である,といった問題点が指摘されていた.本論文では,各項目群において尺度を構成する際に,項目群間で対応する次元の尺度得点間の相関を高くすることを提案した.その結果,各項目群内で項目をそれぞれが一次元性を持つG個のグループに分類し尺度得点を求めると同時に,項目群の間で関連する項目や特性を見出すことができるようになった.求められる項目のグループは一次元性を持つため,結果の解釈も容易である.

 論文では,数値例として2つの人工データと,経済的不平等さと政治的不安定性さに関するデータ,絵画に対する印象と絵画の形状的特徴についてのデータという2つの実データを分析した.その結果,名義尺度などカテゴリの順序が分からず正準相関分析が適用できない場合でも,カテゴリを順序づけ,項目群間の関連を示せること,他の項目と関連の低い不適当な項目が含まれていても,それらの影響を取り除き解釈しやすい結果が得られること,といった手法の特徴が明らかにされた.

 第7章では,本論文で提案された一般化等質性分析を用いた尺度構成法についての結論と今後の展望がまとめられている.

 最後に,質的データのための尺度構成法として本論文で提案した方法が貢献する点をまとめると,

 ・カテゴリの順序があらかじめ知られていなくともよい.このため名義尺度や順序尺度を間隔尺度と見なすといった無理な仮定を置く必要がない.

 ・図に頼ることなく一次元性を持った項目を選び出すことができる.また項目の選択のために回転など別の基準を用いる必要もない.

 ・基本的な考え方や計算方法は単純であるため,項目群が複数の場合や多相データなど複雑なデータに対して拡張することが容易である.

 となる.これらの点は尺度構成において重要であり,現実に狭義の一次元尺度構成を行う上で従来の他の方法に比べて優れていると言える.

審査要旨

 我々が行う教育学的研究やその他の隣接領域における研究では、長さや重さを測る場合のようないわば測定のための物差しが明確に定められている測定とは異なって、多くの場合データが質的であり適切な物差しそのものが用意されていない場合が多い。そのために、得られたデータそのものからまず物差しすなわち尺度を構成し、それによって初めて研究が目的としている情報の収集が可能となることが少なくない。本論文は、そのような、いわゆる定性的データとかカテゴリカルデータともよばれる質的データから尺度を構成するための新しい理論と技術を提案しようとするものである。

 本論文の第1章では、従来より用いられている尺度構成法である比較判断の法則、BTLモデル、多次元尺度構成法、ライカート尺度、因子分析、尺度解析法、展開法、潜在構造分析、項目反応理論、数量化III類、対応分析、双対尺度法、等質性分析等々のそれぞれについて概観し、独自の視点から尺度構成法そのもののとらえ直しを行っている。その中で、従来の方法では「広義の一次元尺度」は得られるが、本論文でいうところの整合性が高くかつ解釈可能性の高い「狭義の一次元尺度」を構成することが困難であることが指摘された。

 そこで、本論文の第2章以下では「狭義の一次元尺度」を構成するための具体的な方法として、回帰分析、正準判別分析、主成分分析および正準相関分析をその特殊な場合として含む等質性分析をさらに一般化して、適切な項目を選び出すことによって尺度を構成する方法(第3章)と項目パタンを分類することによって尺度を構成する方法(第4章、第5章および第6章)を提案している。さらに、提案された方法を実際に適用して検討するために、第5章で提案された3相データのための尺度構成法については個体×項目×絵刺激という描画についてのSD評定データを用いて分析を行い、また提案された他の全ての方法については複数の人工データと実際のデータによる分析を行って、従来の方法よりも意味がより明確で実用性の高い尺度を構成できることを例示した。それらの結果に基づき、第7章では本論文で提案された一般化等質性分析によって項目の選択あるいは項目の分類を行い、狭義の単数および複数の一次元尺度の構成が可能であると結論された。

 以上のように、本論文はその理論水準の高さについても、かつ実用的な技術を具体的に呈示したということについても、教育測定の領域における研究の発展に貢献するところが大であると評価された。よって、本論文は博士(教育学)の学位を授与するにふさわしいものと判断される。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/51045