学位論文要旨



No 213369
著者(漢字) 石井,清
著者(英字)
著者(カナ) イシイ,キヨシ
標題(和) 長期現地暴露試験に基づくダムコンクリートの耐凍害性に関する研究
標題(洋)
報告番号 213369
報告番号 乙13369
学位授与日 1997.05.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13369号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡村,甫
 東京大学 教授 國島,正彦
 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 助教授 小澤,一雅
内容要旨

 本研究は、ダムコンクリートを対象とした1m立方の供試体(粗骨材最大寸法150mm、以下大型ブロックと称する)の20年間に亘る自然環境下での暴露試験を通じて、ダムコンクリートの凍結融解作用に対する耐久性について論じたものである。

 凍結融解作用によるコンクリート表面の劣化は、寒冷地に建設されたコンクリートダム、水路トンネルおよび橋梁等のコンクリート構造物に共通の問題であり、これらの劣化防止対策は維持管理上の重要な問題である。コンクリートの凍結融解抵抗性は古くから貴重な研究が行われており、凍結融解に関するメカニズムの解明、耐凍害性に関する配合の影響等多くの研究成果が得られている。しかしながら、その多くは供試体寸法、最低温度が規定された条件下での検討であり、自然環境下でかつ実構造物規模の研究はほとんど行われていない。特にコンクリートダムに関しては、構造物の規模、使用材料の寸法の違い等から、実際の耐久性を小型供試体による促進試験結果で論じることは極めて困難である。本論文では大型ブロックの暴露試験結果を基に、ダムコンクリートの耐凍害性に影響を及ぼす要因について検討を行うとともに、併せて実施した促進試験結果との対比から、凍結融解を受けるダムコンクリートの劣化予測および劣化深さの評価についても検討を加えた。以下に各章で得られた結論を示す。

第1章序論

 本章は序論であり、本研究の背景と目的を述べるとともに、筆者が参画している、(社)日本大ダム会議コンクリート凍害実験研究分科会(委員長:國分正胤東京大学名誉教授)において実施されている大型ブロックによる長期暴露試験の概要について示した。

第2章コンクリートの凍結融解に関する既往の研究

 本章では、コンクリートの凍結融解現象のメカニズム、耐凍害性に与えるセメント種類、AE剤、フライアッシュおよび水セメント比などの配合条件の影響について既往研究成果をまとめ、その問題点を明らかにするとともに本研究の位置付けについて論じた。既往研究をまとめた結果、ダムコンクリートに関しての凍結融解抵抗性に関する研究が少なく、特に、粗骨材最大寸法150mmまでの配合に関して論じた研究は皆無であること、耐凍害性状のフライアッシュの積極的な混用に対する報告が無いこと、また、促進試験と現地暴露試験の関連が不明確であることなどの課題を明らかにした。

第3章水殿ダムサイトにおける長期現地暴露試験結果

 本章では、水殿ダム調整池内で実施している暴露試験の内容について紹介すると共に、20年間の暴露試験結果について論じた。

 大型ブロックの調査から、AE剤を用いた配合では、20年間の凍結融解作用を受けてもいずれも相対動弾性係数が測定開始時点以上の値を保持し、耐久的なコンクリートであることを示した。これに対し、AE剤を用いない配合では、相対動弾性係数はいずれも測定開始時点より下回り、劣化の傾向が認められることを示した。フライアッシュを混用した配合は、混用しないものよりも相対動弾性係数の低下傾向が小さく、耐凍害性向上に効果的であることを明らかにした。相対動弾性係数の経年変化は、材齢初期に大きな増加を示し、その程度は、水セメント比が高い方が、また、フライアッシュを用いた方が大きいことが認められ、動弾性係数が強度増加の影響を受けていることが考えられた。

 一方、小型供試体の調査から、AE剤の有無に関わらず相対動弾性係数は測定時点以上の値を保持しており、大型ブロックの劣化形態と大きく異なることが明らかとなった。また、フライアッシュの混用についても、相対動弾性係数は混用しないものと大差なく、効果が認められないことが明らかとなった。

 さらに、暴露18年目に実施した大型ブロックの4供試体の切断調査から、AE剤を用いた配合では、水セメント比が大きいものでも内部にひび割れは認められず、スケーリング型の劣化が卓越することを示した。これに対し、AE剤を用いない配合では、内部の粗骨材周辺に多くのひび割れが認められ、スケーリングにひび割れが加わった劣化形態を示すことを示した。

第4章長期暴露試験に基づく凍結融解抵抗性に及ぼす要因

 本章では、第3章の調査結果を踏まえ、水セメント比、AE剤、フライアッシュおよび粗骨材最大寸法等の、コンクリート配合条件が凍結融解抵抗性におよぼす影響について、コンクリートの細孔径分布測定、気泡間隔係数測定および圧縮強度試験等に基づき検討した。

 始めに、水セメント比が大きいものほどスケーリング量が多くなるのは、水セメント比の高低によるコンクリート組織の緻密化の差および圧縮強度の差が原因であることを示した。

 次に、AE剤の使用が耐凍害性上極めて有効であり、水セメント比が110%と超貧配合でもスケーリングは進むが、ひび割れ型の劣化を防ぐことが可能であること、この理由として、AE剤は凍結融解作用時における結氷圧の緩和効果に加え、粗骨材下面のウォーターゲイン解消効果があることを示した。

 フライアッシュの効果については、コンクリートの養生状態がダムコンクリート内部のような水分および温度ともポゾラン反応に適した条件下であれば効果的であり、また、AE剤と同様にコンクリート内部の均一性の確保にも有効であることを示した。

 粗骨材最大寸法が、凍結融解抵抗性におよぼす影響は大きく、強度性状と同様に粗骨材最大寸法が大きなものほど不利となることを示し、この理由として、粗骨材下面に形成されるウォータゲインが影響しており、この部分が多孔質化しているために、一般部分に比べ比較的高い温度で凍結が始まることを明らかにした。ただし、AEコンクリートとすれば、ウォータゲインは解消され、粗骨材最大寸法が大きなコンクリートであっても耐久的なコンクリートとすることが可能であることを示した。

第5章小型供試体暴露試験結果に基づく凍結融解抵抗性に及ぼす最低温度の影響

 本章では、小型供試体を対象に耐凍害性及ぼす最低温度の影響について分析した。始めに、室内試験結果から、凍結細孔量比と対数で表した破壊サイクル数との間には線形関係が成り立ち、凍結融解による劣化の進行形態が累積的に拡大する疲労問題として扱えること、凍結細孔量比の代用として水セメント比および最低温度を用いれば、破壊サイクル数が表現できることを示した。

 次に、ある最低温度、水セメント比を基準とした、基準化凍結融解サイクルを用いれば、凍害劣化に対する最低温度および水セメント比の影響を同時に表現することが可能であることを示した。さらに基準化凍結融解サイクルを用いることによって、外気温が不規則に変動する自然環境下でも、コンクリートの劣化が推定できる劣化曲線を提案した。

 また、自然環境下に暴露されたコンクリートは凍結融解作用を受けるものの、同時にセメントの水和が進み凍結融解による劣化を強度増加が補う傾向が認められること、この強度増加の影響を補正すれば、劣化の大小は水セメント比の高低と一致することを示した。さらに、自然環境下における強度増加の影響を排除した状態で、暴露試験と促進試験を比較すると、促進試験は最低温度が同一(-18℃)で、凍結融解速度が異なる場合約2倍、凍結融解速度が同じで、最低温度が異なる(-18℃と-6℃)場合、約40倍の促進性をもっており、コンクリートの凍害に関しては、最低温度の影響が極めて大きいことを示した。

第6章大型ブロック暴露試験結果に基づく凍結融解抵抗性に及ぼす最低温度の影響

 大型ブロックの場合、表面近傍は外気温と同程度になるものの、内部は異なる温度変化を示し、劣化程度も表面近傍と異なることが考えられる。本章では、始めに外気温に対する供試体内部の温度分布を熱伝導解析により算出し、試体深さ毎の20年間の凍結融解回数を求めた。その結果、凍結融解回数は表面から内部にかけて急激に減少し、表面から15cm程度内部に入ると表面部の1/10程度になっていることが明らかとなった。次に、実測される相対動弾性係数は、測線上を深度方向に平均化された値であることから、深さ毎の凍結融解回数と直接対応させて検討することはできないため、小型供試体の劣化曲線から求まる相対動弾性係数を大型ブロックの深さ毎に適用することで、大型ブロックの劣化深さを評価できることを示した。この結果を用いて凍結融解による大型ブロックの劣化曲線を求め、劣化深さを検討したところ、水殿ダム本体と同じ配合である水セメント比49%配合の供試体の場合、100年後においても表面部で80%以上の相対動弾性係数を保持し、十分耐久的であることを示した。これらの結果から、外部コンクリートの厚さが2m以上確保されている現行のダムコンクリートは、耐凍害性上十分な耐久性が確保されていることを示した。

 また、筆者が建設に携わった奈川渡ダム地点の劣化調査を行ったところ、建設後28年経過した時点でも相対動弾性係数は80%以上を示し、十分健全性を保っていることを確認した。さらに、本研究で提案した最低温度および水セメント比と基準化凍結融解サイクルの関係を奈川渡ダムに適用した結果、劣化深さの推定値は実測値と良い一致を示し、本手法の有効性を確認した。

第7章結論

 本章は結論であり、本研究の成果を総括した。

審査要旨

 凍結融解作用によるコンクリート表面の劣化は、寒冷地に建設されたコンクリート構造物に共通の課題であり、これらの劣化防止対策は維持管理上の重要な課題である。コンクリートの凍結融解抵抗性は古くから研究が行われ、凍結融解に関するメカニズムの解明、耐凍害性に対する配合の影響等多くの研究成果が得られているが、供試体寸法、環境条件が狭い範囲に限定された研究がほとんどである。しかしながら、コンクリートダムに関しては、構造物の規模、使用材料の寸法の違い等から、従来行われてきた小型供試体による促進凍結融解試験結果を用いて実際の耐久性を論じることは極めて困難である。

 本研究は、大型ブロックをダムサイトに20年間の長期間にわたって暴露した大規模実験の結果に基づいて、ダムコンクリートの耐凍害性に影響を及ぼす要因の検討を行い、併せて新たに実施した促進凍結融解試験結果との対比から、凍結融解を受けるダムコンクリートの劣化について最低温度と凍結融解サイクルとの関係を検討したものであって、コンクリートの凍結融解抵抗性に関して以下の新しい知見を得ている。

 (1)水殿ダム調整池内で実施している大型ブロックの20年現地暴露試験の結果に基づいて、コンクリート表面のスケーリング量は細孔組織の緻密さに関係が深いこと、AE剤の使用は粗骨材下面のウォーターゲイン解消により内部ひび割れ発生防止に効果があること、養生条件がポゾラン反応に適していれば、フライアッシュの混用により凍結融解抵抗性が向上すること、粗骨材最大寸法が大きい場合であっても、AE剤を用いることにより耐久的なコンクリートとすることが可能であることを明らかにした。

 (2)新たに提案した基準化凍結融解サイクルを用いることにより最低温度、水セメント比がダムコンクリートの耐凍害性に及ぼす影響を統一的に取扱えることを明らかにした。

 (3)基準化凍結融解サイクルを用いた劣化曲線を示し、任意の水セメント比及び不規則な最低温度におけるダムコンクリートの劣化予測手法を提案した。本手法により、現地暴露試験結果と室内の促進凍結融解試験結果との比較検討が初めて可能となったのである。

 (4)現地暴露試験における凍結融解回数はコンクリートブロック表面近傍では多いものの、内部では急激に減少し、水セメント比を49%とした通常のダムコンクリートに用いる配合の場合には、ダムコンクリートの凍結融解に対する耐久性は、100年以上であることを示した。

 本研究は以上に述べたように、寒冷地に立地するダムの保守管理計画や新規のコンクリート構造物における材料設計に貢献するところが極めて大きく、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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