本論文は、「都市ガスと空気の混合がNOx生成に及ぼす影響に関する研究」と題し、予混合燃焼を採用した燃焼器の設計・製作時に不可欠である、燃料ガスと空気の混合とNOxの生成の関係を明らかにする目的で行った研究の結果をまとめたもので、6章からなっている。 第1章は、「序論」で、予混合燃焼において、燃料ガスと空気の混合状況がNOx生成におよぼす影響に関するこれまでの研究の成果を概観し、この分野の研究においては、時間的に混合状況が変動する場合にNOxがどのように変化するかを明確に示したものがこれまでほとんど無かったことを指摘している。この事実に着目し、本研究においては、時間的に混合状況が変動する場合のNOxの生成状況を明らかにすることを目的としている。 第2章は、「家庭用燃焼器の低NOx化技術」で、ガス燃焼におけるNOxの生成機構についてまとめ、家庭用ガス器具用バーナのNOxの発生を抑制する技術の検証を行った結果について述べている。 家庭用燃焼器の低NOx化は、これまでのNOxの発生機構に関する研究の成果に基づいて進められてきた。最近開発された、家庭用ガス給湯器に用いられている、濃淡燃焼バーナについて、排出されるNOxの濃度を測定し、その技術の有効性を検証している。 第3章は、「燃料・空気混合度合いのNOx生成空間分布への影響」で、マルチポートバーナを用いたモデル燃焼器により、燃料ガスと燃焼用空気の混合の不完全さに伴うNOxの生成特性の変化を調べた結果について述べている。 完全混合、不完全混合いずれの場合にも、燃焼器内の温度分布は、周囲への熱損失の影響がある壁面付近以外はほぼ一様となり、またNOxの濃度分布は、中心部でわずかに低くなる傾向にはあるが、壁面付近をのぞけば、変化の幅は10%前後と小さい。これに対して、NOxの濃度は、混合比への依存性が高く、空気の割合が大きくなると急激に減少するが、完全混合の場合と比べて、不完全混合の場合は、混合比への依存性が弱くなる。この現象は、局所的な混合比の変化だけでなく、混合比の時間的な変動の影響をも考慮に入れなければ、説明できない。 第4章は、「空気比時間変動のNOx生成への影響」で、混合比が時間的に変動した場合のNOxの生成機構を明らかにするために、ガス噴出ノズルからバーナプレートまでの距離を変化させて行った実験結果について述べている。 赤外レーザ光を用いた光吸収法により混合比の変動を測定する方法を開発し、この方法により、未燃焼予混合気流中における混合比の時間変動の定量化に成功している。未燃焼予混合気流中において混合比の時間変動がある場合、平均濃度が理論混合比付近であるときは、NOxの発生が大幅に抑制されるのに対し、空気がかなり過剰であると、NOxの濃度は時間変動のない場合より大きくなる。NOxの発生は、温度の変動に強く依存することが知られている。微細熱電対により、燃焼ガスの温度変動の測定を行ってみた結果によると、燃焼ガス中の温度の変動は、未燃焼混合気中の混合比の変動に対応している。 第5章は、「モデル計算による検討」で、混合比の変動とNOx生成の関係をモデル計算により検討している。 混合比が時間変動しない場合のNOx生成速度と混合比の関係はモデル計算に必要であるが、その関係の予測に関して、2通りの計算を行っている。火炎帯後流でのサーマルNOxだけを対象とした計算結果は、空気が大幅に過剰な場合に実験結果とかなり異なる。これに対して、火炎構造を明らかにした上で火炎帯内のプロンプトNOをも考慮した計算の結果は、混合比の広い範囲で実験結果とよく合う。この結果は、火炎帯内でのNOx生成を考慮に入れることにより、混合比の変動の測定値に基づいて、NOx生成の予測を正確に行うことが可能なモデルができることを示している。このモデルにより、混合比の変動がNOx生成に及ぼす影響を各パラメタを変えて予測し、変動の大きさとNOx生成の関係を明らかにしている。 第6章は、「結論」で、本研究で得られた成果をまとめている。 以上要するに、本研究は、予混合燃焼法を用いた燃焼器における問題点の一つである、混合の状態とNOxの発生の関係について、これまで曖昧であった部分に、信頼できる新しい知見を加え、燃焼器から排出されるNOx低減に役立つ基礎知識の蓄積に寄与したものであり、化学システム工学に貢献するところ大である。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |